
読書猫
@bookcat
2026年2月14日
太陽と鉄・私の遍歴時代
三島由紀夫
読み終わった
(本文抜粋)
"つらつら自分の幼時を思いめぐらすと、私にとっては、言葉の記憶は肉体の記憶よりもはるかに遠くまで遡る。世のつね人にとっては、肉体が先に訪れ、それから言葉が訪れるのであろうに、私にとっては、まず言葉が訪れて、ずっとあとから、甚だ気が進まぬ様子で、そのときすでに観念的な姿をしていたところの肉体が訪れたが、その肉体は云うまでもなく、すでに言葉に蝕まれていた。"
"想像力という言葉によって、いかに多くの怠け者の真実が容認されてきたことであろうか。肉体をそのままにして、魂が無限に真実に近づこうと逸脱する不健全な傾向を、想像力という言葉が、いかに美化してきたことであろうか。他人の肉体の痛みをわが痛みの如く感ずるという、想像力の感傷的側面のおかげで、人はいかに自分の肉体の痛みを避けてきたことであろうか。"
"言葉は言われたときが終りであり、書かれたときが終りである。その終りの集積によって、生の連続感の一刻一刻の断絶によって、言葉は何ほどかの力を獲得する。"
"せっせと短編小説を書き散らしながら、私は本当のところ、生きていても仕様がない気がしていた。ひどい無力感を私がとらえていた。深い憂鬱と、すばらしい昂揚感とが、不安定に交代し、一日のうちに世界で一等幸福な人間になったり、一等不幸な人間になったりした。"
"ある意味では小説家というものは、やっぱりネガティブなほうがよいんです。自分がポジティブになると、やりづらくてしようがないですね。だれでもそうじゃないでしょうか。"
