
みっつー
@32CH_books
2026年2月19日
すべて真夜中の恋人たち
川上未映子
読み終わった
“時間が溶ける”という表現を耳にするようになったのはいつからだろう。
時間の溶け方を想像する。
冷蔵庫から取り出した氷のように、ゆっくりと、汗をかくように、だんだんとその身を小さくしていくのだろうか。
もしくは、火をかけたフライパンに砂糖を入れて、それが焦げると、茶色くなって別もののようになってしまうあれだろうか。
時間が溶ける。
サルバドール・ダリが描いた『記憶の固執』を思い出す。
「柔らかい時計」や「溶ける時計」ともいわれるこの作品は、ぐにゃぐにゃになった時計が描かれていて、ダリはこの絵に、死への恐怖や関心、硬さと柔らかさ、夢と現実の境界などのテーマを組み込んでいたらしい。
『すべて真夜中の恋人たち』を読み終えたあと、時間の溶かし方について考えた。
一般的にはパチンコや、スマートフォンでのゲームなどに触れる際に「時間が溶ける」といった表現を用いることが多いように感じるけれど、人は常に、時間を溶かしながら生きている。
仕事に打ち込む時間、本を読む時間、買い物に行く時間、子育ての時間、遊園地でアトラクションに並んでいる時間、カフェで友人と語り合う時間、好きな人といる時間、好きな人のことを考える時間。
それらの溶け方は、皆同じだろうか。
きっと人それぞれ違う。
氷のようにゆっくり、砂糖のように素早く、パスタを茹でる前に入れる塩のようにだんだんとざらつきをなくしたり、熱されたバターのようにジュクジュクと、早さも、溶け方も、それぞれ違う。
選んだ時間、選ばなかった時間、選んだ人の中で流れる時間、選ばなかった人の中で流れる時間。
成長や、個性という一括りにすることは可能だけれど、そう簡単に、自分の溶け方を変えることはできないのだと、そう感じた。
時間をかけて、私たちは今日も、私たちを溶かしていく。
それは、長い長い時間をかけて、命が尽きるその瞬間までに、色んな形を形成していく。
環境が変わって、溶け方が、変わる人もいるかもしれない。
どうにかこうにか折り合いをつけるけれど、それはまたそのときの話。
この読書体験が“時間を溶かした”ことのひとつだとするならば、とても最高なお湯加減だった。




