
ミオReads
@hanamio03
2026年2月21日

カフネ
阿部暁子
読み終わった
自分はAudible向きじゃないのかな、と思っていた。違う。Audible向きの物語とそうではない物語があるのだ。そして「カフネ」は間違いなくAudible向きだ。
こんなに夢中になってAirPodsを装着し続けたのは初めてだ。朝の身支度から始まってあらゆる余暇を物語の続きを聞くことに費やした。面白かった。何度も聞きながら泣いた。納得、というか圧巻の本屋大賞だ。Audibleの可能性を教えてくれたことへの感謝が止まらない。
物語冒頭、薫子の怒りの勢いがすごい。決めつけ押しつけ身勝手傲慢。鼻白むレベルのブチ切れ方に、しかし嫌うより先に笑ってしまう。なんかすっごいキレてるやん。読書層なら七割は好きになるだろう今時で無愛想な若い女相手に永遠にまくしたてる昭和女。あの初手のぶちかましで薫子を嫌いになれなかった。その時点で勝ちなのだと思う。一張羅を戦闘服と呼び、生ピーマンを齧りながらピーマン柄のパジャマを着て、IHに出場までしたリアル「おもしれー女」。せつなが、思わず背伸びしてしまうような、憧れのおねえさん。
冷笑か配慮で他人と距離を取るこの時代に、不躾や非礼を知性と経験で理解している中年女性が「それでも分かり合いたいのだ」と不屈の闘争心で言葉を届け続ける。何度打ちのめされても、傷ついても、それができなかった相手だっている(そしてそれが実の親)パーフェクトではない薫子が、ド根性で立ち上がる。その様の、なんと心地よく楽しく、聞いていて救われた気持ちになるか。怯んでも、越権かもと悩んでも、きちんと思考して踏み入れる。破れかぶれではない、自分が傷つく可能性も飲み込んで、何を取るのか、そのためにどうするべきなのか、薫子はちゃんと考えて行動している。
中学生の少年に名刺を渡すシーン、聞きながらべちゃべちゃ泣いてしまった。これぞAudibleの臨場感。言葉が届く。言葉を届ける。ただそれだけのことが、あんなにも劇的だ。同じ言葉を誰が言っても届かない。薫子の生き様、薫子の怒濤の怒り、不屈の闘争心、ごめんあそばせと言いながら踏み込むお節介、何より本心からの真心があって初めて届く奇跡のような瞬間。けどそれを起こしたのは間違いなく薫子なのだ。
春彦が慕い頼ったわけだ。
誰に対しても望むようにその場限りの対応を続けた春彦が、唯一怒るわけだ。薫子さんを傷付けるなんて、と。
死んで、もう会えなくて、何も聞けなくなって、分からなくて、分からないまま苦しんで生きていくしかない人生に、春彦の怒りというアンサーがぽん、と届く。何度打ちのめされても不屈の闘争心で立ち上がり続けた怒れる薫子の、その姿をずっと見ていた春彦は確かに怒れる弟だった。愛してるの言葉よりずっと確かに愛の言葉が、宇宙の果てから届いたようなドラマチックさ。言葉が届く。言葉を届ける。ただそれだけのことはやっぱり、こんなにも劇的だ。
せつなにも、薫子の言葉が届くようにと願ってやまない。言葉は届ける側と受け取る側、双方の覚悟が出来ないと届かない。けれど本来は、覚悟なんてなくても受け取れたはずなのだ。生まれたての赤ん坊がふにゃふにゃと受け取っていたように。眠る子供が、何も気づかないまま髪の毛に指をそっと通されたように。
ああ面白かった。面白かったなぁ。こんなに一気にAudible聞いたの初めてだ。面白かったなー!!!







