あんどん書房 "猫社会学、はじめます" 2026年2月22日

あんどん書房
あんどん書房
@andn
2026年2月22日
猫社会学、はじめます
猫社会学、はじめます
出口剛司,
斎藤環,
新島典子,
柄本三代子,
秦美香子,
赤川学
猫本の皮を被った社会学入門書である。進路選択に迷う高校生や専攻を決めかねている大学生にめちゃくちゃよさそう。 第1章「猫はなぜ可愛いのか?」では質的統合法によりインタビューから猫の可愛さの七要素を抜き出して整理する。猫に対する愛情が表面的な可愛さからだんだんお猫様…になっていくというのが面白い。 第2章「私たちは猫カフェから何を得ているのか?」には興味深いデータがいくつか出てきていた。例えば犬はペットショップ購入が圧倒的に多いが、猫は(令和4年時点では)「野良猫を拾った」のが一番多いとか、江戸時代にも「花鳥茶屋」なるものがあったとか、猫カフェに行く客層は猫を飼っている人が多いとか。猫を介したコミュニケーションの可能性からサードプレイスとしての猫カフェの効能についてなども。 第3章「ふつうの猫しかいない「猫島」に人はなぜ訪れるのか?」は観光社会学の知見。猫島を訪れる人々は事前に予習するがゆえに猫島としてだけ現地を見てしまい、過疎地域の抱える問題が不可視化されているという指摘。最近よく見るアーリの名前も。 第4章「猫から見た「サザエさん」」はサザエさん全7193話から「家族」としての猫のイメージの変遷を辿る大変そうな研究の賜物。高度成長期には「ネズミ捕り」として半ば放し飼いされていた猫が、「純粋なペット」として家族の一員になるという時代の変化。その兆候をサザエさんの描写のなかに見つけるという試みだ。 一番意外だったのは「タマ」はアニメ版だけで、原作では特定の猫を飼っている描写がないということ。そうなんだ。 第5章「人と猫は、いかにして互いを理解し合っているのか?」は理論社会学からの研究で、なかなか難しい。人間(文明)と対立する自然という観念のなかで、そのどちらにも属し得る猫という存在。 “猫と和解するということは、文明が自然に対して振るう暴力を抑制し、自然と和解する第一歩になり得るということです。”(p173) どうしてもあの看板を思い浮かべてしまうけれど…。 最終的にそもそもコミュニケーションとは何なのか?という話になり、猫と人間との「相互行為秩序」とか猫がコミュニケーションのパートナーたる「主観的他者」である(と人間から認識される)要因とか専門性が深まってきて???となってしまったが、ざっくり言うと「猫社会学を掘り下げることは、人間中心主義や理解できることへの信仰を解きほぐすのではないか」ということか。 最後は特別対談として赤川さんとオープンダイアローグ第一人者の斎藤環さんの対談。猫を飼うことは社会との接点回復やケアとしての効能があるかもしれないが(もちろんその道具として猫を利用することには反対されている)、独身男性は保護猫の里親になるハードルがめちゃくちゃ高いらしいという話も。飼育費の増加とかも、ペット家族化の難しい面だなぁと思う。 装丁:鈴木千佳子 本文書体:筑紫明朝
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