mikechatoran "遠い山なみの光〔新版〕" 2026年2月24日

遠い山なみの光〔新版〕
遠い山なみの光〔新版〕
カズオ・イシグロ,
小野寺健
イシグロは継続して読んでいるが、この『遠い山なみの光』と『浮世の画家』はなぜか読んでいなかった。書店で新版を見かけてこの機に読んでみた(『浮世の画家』もいずれ)。イギリスに住む悦子が回想するのは、原爆の災禍に見舞われ、その後復興の過程にある長崎に住んでいた頃、とりわけ夏のある1日のことだ。詳しくは語られないが、その後悦子はイギリスに移住し、娘の死に見舞われる。人生は必ずしも思い通りにはいかず、後悔や罪悪感に苛まれることも度々ある。それでも新しい時代、新しい環境を夢見、希望に胸を膨らませた時がたしかにあったのだ。だからこそ、あの1日が鮮やかな記憶として残るのではないだろうか。本書も『日の名残り』同様、喪失、後悔についての物語を「信頼できない語り手」が語る作品である。とはいえ、本書でもイシグロは語り手を非難しない。人間をそういう悲しいものとして見守るのである。
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