スプーン
@spoooooooon
2026年2月24日
薬指の標本
小川洋子,
小川洋子(1962-)
読み終わった
『六角形の小部屋』
ちょうど心が沈んでいる時に読んだから、たった一人狭い個室でただ語り続ける小部屋の存在が救いのように見えたな。
「長い間わたしは自分のことを、それほど悪い人間じゃない、むしろ比較的いい人間だと思い込んでいました。滑稽でしょ? 警察に捕まったこともないし、停学にも退学にもならなかったし、友だちは多くはないけど数人はいるし、無断欠勤は一日もなく、残業を命じられても文句を言ったことはない。休日には入院中の子供たちにボランティアで絵本を読んであげているし、隣りの部屋の女子大生が足の骨を折った時は食事の世話をしたし、街頭募金箱には必ず百円入れる。……
でもそんなこと、何の証明にもならないんです。人間の心なんて、どこまでも行き止まりがありません。わたしは入り口の近くで、無邪気にうろうろしていただけです。」(pp.165-6)
自分の心の醜さを受け入れられないわたしが、己の『良さ』を回顧する場面。きっとこのわたしは外から見ると卒がなく生きているように見えるのだろうけれど、内側ではどろどろした深い泥沼が広がっている。それを責めながら生き続ける。でもそれで良いんだって思う。私も自分の心が、世界とかけ離れた孤独の中にあるような気がして辛いけれど、皆何となくこういう乖離を持って生きているのかな。だから心のあり方が世界から離れた有様だとしても、何にも責められることはないのだろうか。罪悪感を抱く必要はないのかな。皆こうやって心の奥底に澱みやぬかるみを持っているのかな。それでいい、それでいこう。

