トロ "傲慢と善良" 2026年2月25日

トロ
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@tontrochan
2026年2月25日
傲慢と善良
傲慢と善良
辻村深月
端々で突き刺さるシーンが多く、時々ページを捲る手が重くなりながらも、何とか読み終わりました。 自分の価値観が一変したような気持ちです。対極にあるタイトルですが、この本に至っては、傲慢であるということは自分の価値観を無自覚に押しつけることであり、善良であるということはその価値観を内面化しながらも抜け出せない証左でもある、と思いました。 架が徐々に明らかにする真実の人物像に対しては、何度か苛立ち、その度に自分のことを書かれているみたいだな、と。胸の一番繊細な場所を逆撫でされるような居心地の悪さを感じていました。 特筆すべきは真実の母親でしたね。狭い価値観と見慣れた土地の中で、「良い娘」という役割を疑うことなく引き受けてきた真実に対し、愛はある。けれど同時に、選択肢を与えない。親であるが故の圧力を持って接する、三十を過ぎた大人の彼女に対しても。その窮屈さに気付けただけ、真実はもう"受け身なだけの人”ではないのに、それでも彼女の自己評価は驚くほど低いんです。ここも、うーん…と唸りながら読みました。自分にはもったいないと思える相手に出会い、「こんな私でいいの」と思ってしまう。一方で、強い自己愛も存在していました。自分が振った相手と結婚できる“物好き”が羨ましい、という表現には一瞬ぞっとしましたけど。 自己評価は低いのに、自分が選ぶ側であるという感覚は手放していない。自分を卑下しながらも、「本来の自分の価値はもっと高い」とどこかで信じているところ。このねじれが、真実という人物をとても人間的にしていると思いました。 「七十点をつけられていた」と架の女友達に言われるシーンの真実の(どうせ結婚するんだから無敵です)って感覚は何となく解るんです。彼女達は結婚出来ない架と結婚する"私"というラベリングを、真実自身がしてしまっている、その愚かしいまでの無垢に。婚活という市場の中で、自分も他人も点数化する世界観を内面化していました。だからこそ、彼女は被害者であると同時に、その構造の担い手でもありました。実際、ピンと来る、来ないの線引きが本著を読んで言語化されました。 そんな真実に強く感情移入しました。彼女の善良さも、弱さにも、そして薄ら寒い自己愛にも、たぶん人間なら誰しも持ってるものだと思います。私自身たぶんそういう人間だから。 身体を重ねるシーンで「この年まで誰とも付き合ったことがない〜小さな世界で生きてきた」の一文に胸に締めつけられて涙が溢れました。二部に入ってからずっと鼻の奥がツンとして、読むのにとても手間取りました。 この物語は、誰も悪くなかったな、というのが私の総評です。守られて育ったことの幸福と不自由、低い自己評価と強い自己愛、その矛盾を抱えたまま今を生きる全ての人間に向けた物語ではないでしょうか。 真実が最後に選んだ選択は、真に彼女が選び取って実らせたものであり、架が「僕と君の問題だよ」と強く言ってしまえる程の強さを手に入れる事が出来た結果でもあるから、読んで良かったです。
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