ni "水晶幻想/禽獣" 2026年2月26日

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@nininice
2026年2月26日
水晶幻想/禽獣
水晶幻想/禽獣
川端康成,
高橋英夫
文章に圧倒されて泣いてしまう事がある。感情的な涙ではなく、息ができないくらいに頭の中にその文章と情景が溢れてそれが表面張力を超えて涙となってこぼれてしまう。「水晶幻想」を読みながら久しぶりにそうして泣いてしまった。この作品の夫人を、わたしの心に住まわせたい。この夫人が今わたしの目の前に実在しないことが悲しい。 二月中、ずっと川端康成の作品を読んでいる。何故かやめられずに図書館にあるものを片っ端から読んでいる。中には自分の倫理観とは相入れないものも多く、そういう時は文句を垂れつつも、読み続けてしまう。そして、読み続けてきて良かったと、この「水晶幻想」を読んで歓喜した。これは長いこと探し求めていた理想の作品だ。好きな一節をここに引用しようとしても、それは作品全てになってしまうので、切り取る事が難しい。 「空がこんなに綺麗に写るから、私の顔だつてほんたうより綺麗に写るでせうつて、この鏡はものを綺麗に写す鏡なのよ。」 「子供がほしければ、胎外発生の方法を早く見つけたらいいぢやありませんか。発生学者なら、母方の血がまじらない、純潔に父方の子が出来るつていふ、童貞生殖の夢を見ながら、子供なしに死んでゆく方が、どんなに美しいでせう。それなら、神と戦つた人だけれど。」 水色の月光のなかに沈んだ、エナメルの手術台。月の光が降るやうに、海の底に降りそそぐウウズ球形虫の死骸の雨。とこしへに止むことのない、たとひ空中に降つたにしても、人はそれを感じることも出来ないほど軽い死骸の雪白な雨が、音もなく、そして夜も昼も絶え間なく、海の底に降りつづけてゐる。海底電線の上の白い亡骸、それが教へる、百年に一尺の割合で積る、と。昔の海の底が、今は白亜質の山。イギリスの南の白墨の崖。遥かなる時の流れ。白墨。女学校の黒板の花の絵。 「私をいろんなものに譬へるのは止して下さい。」 水がねや柘榴のすます影なれや鏡と見ゆる月の面は 「お釈迦さまは偉かつたけれど、ほかの生きものに生れ変るのを罰としたことが、あなたより薄つぺらだわ。」
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