
あめ
@rain33
2023年8月12日
赤と白とロイヤルブルー
ケイシー・マクイストン,
加藤木麻莉,
林啓恵
かつて読んだ
以前読んだものの別SNSからのお引越し。長文。ネタバレあり。
なんというか……怒涛の追い上げでどんどん結末に向けて物語が緊迫していって、どうなってしまうんだろうってハラハラして、読み進める牽引力がすごかった。
ハッピーエンドというか、掴むべきゴールに向かってじりじり加速するような展開だった。ドパーン!と危機が押し寄せてきて、とにかく何でもいいから掴むしかなくて、掴めないなら御陀仏なんだからハッピーエンドにするしかないよなあ。そして終盤で、1年前はこんなことになるなんて思わなかったと語る主人公たちや、その成長。人生ってそうだよなあ、って思わせてくれる。
これをBLと言っていいのか、そういうふうに消費していいのかについては読みながら何度も考えたけど、『心や体の性別はどうあれ、それについて孤独ややりきれなさを抱えた人のためのファンタジー』がBLなのであれば、広義のBLというか、本質的にはBLの文脈だなあと思った。とても先進的な内容ではあるけれど、BLは時を超え形を変えながら、誰かの孤独を癒すファンタジーなのだと思う。かつて少女の孤独を癒してきたBLがこの時代にはこういう形をしているのはとても自然なことだと感じる。
一介のBL愛好家としては、やはりBLは性癖なので、ちるちるで高評価だからといって過信できないのと同じで、作者さんの性癖はそうなのね、と思った。同じ穴の狢なので、何が書きたいのかとても強く伝わってきたしその妄信力がこの分厚い本になり、映画になり、世界を変えてるんだからものすごいことだと思う。余談だけど、作者さん、同年代でびっくりした。まあそうだわなあ。
ハタチそこそこにして類い稀なる能力と才能ある子たちがぽこじゃか出てきて未来を作る物語なので、性癖として見るなら私にはちょっと眩しいかなあと思ったけど、これくらいパワーある若者たちでないとこのエンディングには辿り着けないよなあと思うと、無駄に男前ばっかりな作品よりは必然性を感じる。変な例えかもしれないけど、一番遠いところのものを掴みたければ、一番手の長い人がやるべきなんだよね。そういう物語が性癖の作者さんなんだと感じた。私は短い手の人が必死で手を伸ばす物語が性癖なので、人には人の乳酸菌って感じ。それでも、必死に手を伸ばす物語に関する共感と感動はあった。
なんかくさしたような気がする(私の性格だから仕方ないけど、真面目に受け止めている証拠だと思ってほしい)けど、やっぱり読み進める力はものすごくて、選挙戦のこと、二人のスキャンダルのこと、裏切り者がいるかもしれないってあたりはハラハラして結末が気になってどんどん読み進められた。ストーリーが純粋に面白かったし、登場人物も魅力的だし、物事の起こる順番とか配置とかそれによる心の動きとかキャラクターの動かし方、必然性みたいなものに関してはうまい!って唸った。こういう将棋みたいな小説を書ける人は尊敬する。
ロマンティックなシーンもいっぱいあって、やっぱり最初にキスしたシーンが一番好きなんだけど、父の家にお泊まりに行くとことか、お忍びデートのとことかも情景やシチュエーションが欲しいところに手が届くなあ〜〜という感覚だった。
でも自分も近しいものがあるから思うけど、こういう人の書くすけべってなんかなんだろう…ハンターハンターの戦闘シーンみたい(私も言われたことがある)、ってやつ。
全然描写はないのにウワ〜〜これは……ってなる人もいて、それって筆力は関係なくて、だからBLとか恋愛小説を書くのって難しいんだろうなと思う。多分この作者さんはそこには性癖はなくて、むしろ、過去の偉人の文通の引用をしながらメールのやり取りをしていく部分、そっちの方がヤってるシーンよりも良いもんだから、作者さんの性癖はそこにあるんじゃないかな……って思うなりなんなりした。メールのやり取りは理知的でありながら野生的な、スリリングなすけべさがあって、個人的にはBL文脈として一番私の琴線に響いた。やっぱりBLは作者さんの性癖を擦ってる時が一番輝くというか。
多分、小説の形になるとそういう作者さんの性癖と自分の性癖の適合率が、この作品良かった!って判定の基準になりやすいので、映画になるとたくさんの人が制作に関わってる分そこがマイルドになってとっつきやすい気もする。
小説版だと、刻んだ椎茸じゃなくてしいたけ丸焼きだったので、椎茸好きにはハマるけどさあ……という感じ。映画版を見た人が椎茸と知らずにお砂糖菓子を食べるような気持ちで椎茸を飲み下すのを私は勝手ながら楽しみにしているし、映画を見るのが俄然楽しみになった。
個人的に好きなのは主人公のママがアメリカ初の女性大統領であるところや、主人公のパパとは上手くいかず別の相手をパートナーにしているところ、家庭を顧みないと元旦那や娘に責められながらも仕事に邁進し、息子の危機にはパワーポイントなどムチャクチャな対応も出てきながらも最終的には母としての自分を優先し、それでいながら再選を決めたところだったり、それにまつわる女性たちの祈りだったり。人としては限りなく超人なんだけど、決して完璧な人間ではなく、でも完璧であろうと努力する姿はかっこいいよなあと思う。そういう人に夢を託したり、息子は息子でまた別の夢が託されていたりして、アメリカンドリームってかんじがして良い。