
あんどん書房
@andn
2026年3月1日
叫び
畠山丑雄
読み終わった
芥川賞受賞作。万博小説というか大阪小説というか茨木小説。史実とフィクションとが巧みに混ぜ込まれている。
恋人に振られ、風俗店を出禁になった青年・早野が憔悴して夜の川沿いを歩いていると、どこからか鐘の音が聞こえてくる。その音を辿った先で出会ったのが、生活保護で暮らしながら銅鐸作りを続けている「先生」だった。
銅鐸作りを習いながらアシスタントを始める早野。「聖」(国家の霊性面における柱的な存在)を生み出すという思想を持つ先生に感化され、銅鐸と郷土史の探究にのめり込んでゆく。
先生の助言で茨木市の公共施設でボランティアを始めた早野は、そこで出会った一人の女性に惹かれてゆき…。
銅鐸は祭祀道具だと習った記憶があるが、本作においてはどちらかというと警鐘の鐘のようなイメージで用いられている気がする。聖の思想とか紀元万博とか国家と祭祀的なアイコンも出てくるけれど、何せタイトルは「叫び」なのだから。
ただ、かと言ってずっしり重い作品かというとそういうわけでもなさそう。関西弁の醸し出す空気とか、距離感間違えて銅鐸で殴られるみたいなおもろ場面とかで全体的に飄々とした雰囲気。壮大なハッタリをかましているのではないか、とも思わせられる。
選評で否定的なコメントもあった終盤について。なんで今の天皇に? とは思ったが、醒まされて終わる感じは悪くないかな。どっちへ行くのか読めずグラグラする中盤だったので、何にせよ引き戻されたことでちょっと落ち着いた。(ここを「あわや天皇陛下に何らかの危害を加えたかもしれない青年には謎の宗教的思想が」と世間側から読むと怖い話になり、川又青年としおりさんとの間で揺れた早野が最終的に川又青年への恋を選んだ、ととればハッピーエンド…ではないか)
一番良かったのは炭鉱を降りていくところとか大屋根リングから万博見るところ。
“誰もいない道をのぼっているせいか、足を置いた岩がぐらりとするのも、急傾斜に差し掛かり、樹々のざわめく音がして、振り返るとしかし何の影もなく、再び歩き始めようとしたところで鳥の鳴き声がするのも、自分自身のおどけに風景を付き合わせているような心地がして、何とはなしに早野は遊歩道を逸れて、沢を登り始めていた。”(p90)
“それらのパビリオンを地上から見ているときに抱いた、一つ一つの箱の中身を決して知り尽くすことができないという、無力感にも似た焦燥が、大屋根リングからの一望で、たちまち悠然とした、既にコレクションが済んだのだという所有感にも近い全能感に転じていく。”(p110)
情景描写と心情を組み合わせるバランスが良くて好き。
本文書体:リュウミン
装幀:新潮社装幀室
装画:須永有「逆光の中の人」2016


