有栖川有栖選 必読!Selection8 結婚って何さ 有栖川有栖選 必読! Selection

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- のーとみ@notomi2025年3月31日読み終わった笹沢左保「結婚って何さ」。読んだ。1960年、笹沢左保のデビューの年に書かれた三作目だそうだ。タイトルとか表紙からは想像できないかもだけど、これ見事な本格ミステリなのだった。アイリッシュの「暁の死線」みたいな、朝、目覚めたら部屋で男が死んでいる、しかも状況は密室だから、自分が犯人にされてしまうという状況で目覚めた、上司に楯突いて勢いで会社を辞めてきた二人の女性、という発端。そこから、もう、物凄いスピードで事件は更に複雑になり、逃亡しながら、真犯人を探す、しかも主人公は弱冠20歳の女性。発端自体は今となってはよくある設定だけど、そこに密室は絡むは、思わぬ悲劇は重なるわ、アリバイ崩し、ミッシングリンク、時刻表ネタと、ミステリの要素はどんどん重なる。で、これが、見事に「結婚って何さ」という結論に収束するという、もう、昭和の中間小説のお手本のような上手さ。とにかく文章のスピード感が凄い。そして、このモダンなミステリが、なんと65年前に書かれているということ。そりゃ、みんな本読むわ。こんなのがバンバン手頃な価格で読めるって、ほとんどコミックス買うような感覚だったんだと思う。 交換殺人を犯人側から書かず、巻き込まれた側がどうやって真相に辿り着くか、というプロットもいいなあ。しかも、最近のテレビドラマのミステリみたいな、単に関係者が秘密にしてることが本人からの小出しの証言で明らかになるみたいな、火サスみたいな手法じゃなくて、きちんと残された僅かな証拠と、事件自体の不自然さから、きちんと推理して謎を解いていく、まあ、ミステリとしたら当たり前のことを、逃亡劇のスリリングさを損なわずに描いて、犯人も犯行方法も、何故自分たちが巻き込まれたかが分かったあと、それをどうやって証明して、自分への疑いを解くかというシークエンスは、なんとカーチェイスで描いてしまうカッコよさ。その上で、恋愛的なハッピーエンドになってもいいところ、それさえもひっくり返して、タイトルを回収する。昭和35年の作品だから、ズベ公とかマスクシャンとか言うし、算盤が普通に使われてるとかあるけど、スカートを強要されてもパンツで出社し続けて、それを怒られて会社辞めるという主人公の造形は現代にも通じるし、シスターフッドがミスリードになる序盤のサプライズも効果的だし、現代を舞台にリライトすれば連ドラで行けそうなくらい。これが生まれる前に書かれてて、しかものちには「木枯し紋次郎」の原作者になるという、昭和30〜40年台の日本の娯楽小説の充実ぶりに驚く。陳舜臣の陶展文シリーズを読んで、同じ頃の中間小説が読みたくなって手を付けたんだけど、こうなると梶山季之とか笹沢左保の初期作品をちゃんと読まなきゃという気になるなあ。藤原審爾、柴田錬三郎、五味康祐で満足してちゃいかんということかw 考えてみれば橋本治だって中間小説の賞でデビューしてる。








