遊牧論そのほか (平凡社ライブラリー い 4-2)

遊牧論そのほか (平凡社ライブラリー い 4-2)
遊牧論そのほか (平凡社ライブラリー い 4-2)
今西錦司
平凡社
1995年9月15日
2件の記録
  • 後半部に差し掛かったところで、WWⅡの敗走の場面が訪れた。 戦時下のモンゴルの地に調査に出向いているにも関わらず、戦争の気配すら感じ得ない前半部を読み進めるあいだ、想像から演繹していくことを楽しみにしていたために、この場面の到来は虚をつかれたような感じがした。 かの戦争の際、ロシアが対日参戦をしたのが8月9日の出来事であるが、その数日前まで、極めてのん気にモンゴルで調査をしている様子が描かれている。 1945年8月のある日を境に一変した記述から、戦時下のある側面を類推することは可能であると思う。 最終盤の動物記で「狼」についての記述があり、現在に於ける「熊」と同じような立ち位置で人間社会と関わっている有り様には驚いた。 「文明開化」の言葉が表すような、一変した人間の生活様式に伴い、狼も食料の確保が難しくなり、それ故、人間の女や子供を狙って、食らうようになった。 現代の熊について、人間を食料と見做し、狩りを仕掛けているようには見受けられない点は、狼との相違があるかもしれない。 ただ、絶滅というニホンオオカミの歩んだ末路を知っている我々からすれば、熊も同じような末路を歩む可能性を案じたりする。 二十歳の時分から数えてみれば、今西錦司氏の著作は2冊目の読了である。 40代だった著者による若書きの本書ではあるが、粗雑な憶測を踏まえた記述こそあれ、難しさはなく、得るところは多かった。 一読の価値くらいはあるのではないか。
  • 明治生まれの京大教授による著作が本書だ。 本書で「蒙古」と言っているのは、言わずもがな、現在のモンゴルのことだ。 その地のアイデンティティとなっている遊牧の、その発生について、生態学の観点から記述されている。 牛や馬、羊、と言った動物が、原初的にどのような流れで家畜となったのか。 想像するに現在においては、その手の推論の手掛かりとなるのは遺伝子研究であろう。 本書においては、「遺伝子」の言葉は出てこない。 それが故に、どこか哲学的な思索と近接している感覚を受ける。 科学技術の介在が少ない、哲学に近接しているように見える生態学は、とても芳醇な香りを放つ。 100ページ余りを読み終えたが、戦時下に記載されている文章も多い。 その時代的背景を演繹しつつ読むことも、本書を読み進める上での楽しみの一つだ。 この休みの間に読み終えることができれば、順調な読書である。
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