風の港

6件の記録
- ユメ@yumeticmode2025年6月16日読み終わった心に残る一節感想空港という数多の旅人が行き交う特別な場所を舞台に、ささやかな奇跡がそっとバトンを手渡してゆくように綴られた連作短編集。村山早紀さんらしく優しい物語の世界に、心地よく身を浸して読んだ。 村山さんの作品は、物語の舞台となる場所への愛情がひしひしと伝わってくるところも好きだ。桜の季節に造花で綺麗に飾られた空港は、夜に飛行機が離着陸する灯りは美しく、そこで働く人々の矜持は凜として描かれ、登場人物たちが空港に深い思い入れを抱いているのと同様、村山さんがこの場所をいかに愛しているかが感じられる。だからこそこの物語に心を動かされるのだろう。 どのお話もとても好きなのだが、中でも空港内の書店で働く夢芽子が主役となる「それぞれの空」がいちばんのお気に入り。「本はきっと魔法でできているの。本屋さんは魔法を並べて売ってるんだわ」という言葉に深く頷く。『本が大好きな子どもはね、いつだって、本の魔法に守られているのよ。奇跡はいつだって、子どもたちのそばにあるものなの』という台詞にはぐっと込み上げるものがあった。私自身、本に守られてきた子どもだったなと思うから。