魚神

12件の記録
- ワタナベサトシ@mizio_s2025年3月6日かつて読んだ感想幻想譚。時代も場所もはっきりしない孤島の遊廓街。島の住民は眠りの中で夢を見ない。山に棲む獏(ばく)が食べてしまうと考えられている。 拾われて姉弟として育てられる白亜とスケキヨ。別々に売り飛ばされ、同じ島に囚われながら会うことの叶わないふたり。 デンキ(電気)のない島には内外から欲にまみれた客が訪れる。裏世界の元締めが蠢き、本土からの馴染み客が白亜の心を騒がせる。廓の遊女やその側女の童、スケキヨの使いの渡し守。 艶やかな物語だ。デビュー作には作家のすべてが詰まっているとの至言に漏れず、この一作に千早茜世界を彩るたくさんの要素がもう既に出揃っている。 匂い・傷・毒・自死。初潮・月経・経血・破瓜。渇いた性・性愛の超越、恐ろしさと美しさの共存。そして御伽噺。人語を解する巨大な雷魚の伝説譚。小説の中にもうひとつ、神秘的で不思議な物語がたゆたうのが千早茜作品の大きな特徴だ。 ひとりの小説家をデビュー作から刊行順に読み進めるのが好きなので、初めて読んだ千早茜作品が『魚神』だったのは運が良かった。