夜になるまえに

2件の記録
- 勝村巌@katsumura2025年10月11日読み終わった(注意:ちょっと性的な表現があります) 1943年生まれ、キューバ出身の作家レイナルドアレナスが1990年にエイズで自死する前に、亡命先のニューヨークで書き上げた自伝的小説。キューバ革命の真っ只中でホモセクシュアルとして青春を過ごした作家の人生が凝縮して描かれている。 幼少期の記憶は朧げなところもあるのか、多少マジックリアリズム的な筆致だが、長ずるにつれて非常にリアリズムで妥協のない世界へ突入していく。 キューバ革命を経て成立したカストロ政権による、文学者や芸術家への弾圧と相互監視的な政策とその内情がほぼ実名で暴露されている。 ガルシア・マルケスなどはアレナスから見ると政権御用達作家でノーベル文学賞は獲ったものの、いかほどなものか、という感じ。他にもバルガスリョサとかボルヘスについても実名で言及あり。 自分が捉えていた評価とのズレに当事者性と視点というものについて考えさせられる。 また、若く反体制的な文学者が捕縛され拷問を受けて転向し、周囲の仲間を巻き込んで衆目の中で、団体的に総括させられる場面などは痛々しくて読んではおれない残酷さだった。しかし、そういうことがあったのだろう。現実はディストピア的だ。 また、夜景国家的社会主義政権下でのホモセクシャルのあり方もかなり赤裸々に描かれている。 社会は真っ暗だがホントに当時のキューバンホモセクシャルは奔放だな! という感じで、公衆トイレといえばハッテンするし、長距離バスの中とかチャットでも男と長時間一緒になるシチュエーションが来るとペニをしゃぶりまくるという有様。 本当にこんなに奔放にできるのかな? 性的快楽に対する文化の違いを思い知らされるが、まさに背徳、という感じで素晴らしい。 亡命後のニューヨークで、現地のホモセクシャルは細分化されており、原始的パワーに貧する、みたいな批判を繰り広げたりしており、そこは正直なところなのだろうな、と思った。海を越えると文化も違うというわけで。 ホモセクシャルの表現については、色々な愛の形があることは分かるが、そこにあったと思われるロマンス的な心情の昂りは直接的には描かれていない感じがして、面白かった。愛の感覚が欠如している感じ。ないわけではないのだが。 それは自伝的な小説なので、それぞれの人たちへの配慮なのだろうか。肉体的快楽、事象としてのセックスが描かれるのみなに感じた。しかし、それは僕の読み込みの浅さかもしれない。読まれた方の意見を聞きたい。 個人的にはヘンリーミラーの『南回帰線』や『北回帰線』、ジャックケルアックの『路上』とかを読んだ時の読後感。素晴らしく好みの小説。こういうのばかり読みたい。自由に生きることを希求し、そう生きた人だけが描ける小説だと思った。 素晴らしい本なので、今の世の中を生きる人にはあまねく読んでもらいたい。