ヒロシマめざしてのそのそと

ヒロシマめざしてのそのそと
ヒロシマめざしてのそのそと
ジェイムズ・モロウ
竹書房
2025年10月27日
8件の記録
  • ⭐️⭐️⭐️ ジェイムズ・モロウの『ヒロシマをめざしてのそのそと』。この奇妙なタイトルの本を手に取ろうか迷っているあなたに、まずは一つの問いを投げかけさせてください。 「もしも、原爆投下という歴史の悲劇を止めるための最終手段が、『火を噴く着ぐるみの大怪獣』だったとしたら?」 歴史の「もしも(If)」を描くSF作品は数多く存在しますが、本作ほど奇想天外で、ユーモアに溢れ、そして最後に深く心を抉る作品はめったにありません。本作は「特撮怪獣映画への愛に満ちたオマージュ」でありながら、同時に「核兵器と戦争の狂気を撃つ痛烈なブラックコメディ」という、相反する要素を奇跡的なバランスで成立させた大傑作です。 ■史上最大の極秘任務は「着ぐるみで街を壊すこと」 舞台は1945年の夏、第二次世界大戦が最終局面を迎えていたアメリカ。軍の内部では恐るべき権力闘争が起きていました。陸軍が「マンハッタン計画」で原子爆弾の開発を進める一方で、手柄を奪われまいとする海軍は「ニッカーボッカー・プロジェクト」という極秘の生物兵器開発を進めていたのです。 その兵器とは、なんと「火を噴く巨大な突然変異イグアナ」。この大怪獣を日本の都市に放ち、圧倒的な破壊力を見せつけることで降伏を迫ろうという、あまりにもB級映画的な計画でした。 海軍は日本の特使を招き、無血開城を狙うためのデモンストレーションを企てます。しかしここで致命的な問題が発生します。見せ物として用意された「子どものイグアナ」が、あまりにも温厚で大人しく、用意されたジオラマの都市をまったく破壊してくれなかったのです。 国家の威信と数百万の命がかかった大ピンチ。ここで白羽の矢が立ったのが、本作の主人公シムズ・ソーリーでした。彼はハリウッドのB級ホラー映画で長年「着ぐるみ怪獣」の中に入り続けてきた、冴えないけれど職人魂を持つベテランスーツアクターです。 密命を受けた彼は、極秘裏に制作された精巧な怪獣「ゴルガンティス」の着ぐるみを身にまとい、特使たちの目の前で「ミニチュアの日本都市模型を火炎放射器で破壊して回る」という一世一代の大芝居を打つことになります。 ここから展開されるのは、軍事機密の裏側で繰り広げられる特撮クルーたちの熱き奮闘です。着ぐるみの重量感、火炎放射のタイミング、ミニチュアの建物をいかに「本物らしく」壊すか。シムズはただの役者としてではなく、「何百万人もの命を救う」という崇高な使命感に燃え、汗だくになりながらジオラマの街を踏み荒らします。その描写はユーモラスでありながら、モノづくりへの熱いリスペクトに満ちており、映画ファンならずとも胸が熱くなるはずです。 ■ゴジラ神話の鮮やかな逆転劇 本作が真に恐ろしいのは、この「笑えるドタバタ劇」の裏に隠された鋭い切っ先です。 日本の怪獣映画、とりわけ「ゴジラ」は、言うまでもなく原爆の落とし子であり、核の恐怖の象徴として描かれています。しかし著者のモロウは、本作でその構図を鮮やかに逆転させました。ここでは、怪獣は原爆が生み出したものではなく、「原爆を落とさせないための代替兵器」として登場するのです。 「本物の都市の上に大量破壊兵器を落とすくらいなら、ミニチュアの都市で着ぐるみ怪獣が暴れるフェイク映像を見せて、戦争を終わらせた方がよっぽどマシではないか?」 この究極のブラックユーモアは、戦争という行為そのものが持つ狂気と、それを主導する官僚主義の異常さを、これ以上ないほど強烈に皮肉っています。特撮チームが真剣にミニチュアを壊せば壊すほど、現実の歴史が選んでしまった「もう一つの選択肢(=本物の原爆投下)」の冷酷さが浮き彫りになるのです。 ■笑い声が悲鳴に変わる、忘れられない結末 そして、私たちが「現実の歴史の結末」を知っているという事実が、この物語に決定的な悲哀をもたらします。 物語は、数十年後にSF大会のゲストとして呼ばれた老齢のシムズが、うらぶれたホテルの部屋で過去を振り返りながら綴る「回顧録」として語られます。彼がどれほど完璧に怪獣を演じきり、どれほど必死に「この芝居で平和をもたらすんだ」と願ったとしても、現実の1945年8月に何が起きたのか、私たちは知っています。 シムズの体を張った平和への祈りは、冷酷な現実の前にどうなってしまうのか。 ドタバタ喜劇のような特撮奮闘記は、終盤に向けて一気にトーンを変え、歴史を変えられなかった一人の人間の深い罪悪感と無力感へと収束していきます。スタジオで燃え上がる「偽物の炎」と、現実の都市を焼き尽くした「本物の炎」。その落差があまりにも見事で、読み終えた後には、ただのコメディSFを読んだとは思えないほどの重厚な余韻が胸に押し寄せます。 『ヒロシマをめざしてのそのそと』は、笑って、熱くなって、そして最後に静かに泣ける、極上のエンターテインメントです。同時に、現代に生きる私たちに対して「人間の想像力は、破壊の狂気を止められるのか?」と問いかける、鋭利な文学作品でもあります。 ページをめくる手はきっと止まらなくなり、読み終わった後には、誰かにこの物語の切なさを語りたくなるはずです。B級特撮への愛と、反戦への切実な祈りが交差するこの奇妙で美しい歴史のIFを、ぜひあなた自身の目で確かめてみてください。
  • ねねこ
    ねねこ
    @sss_404
    2026年6月12日
  • Hayati
    Hayati
    @015Onegy
    2026年4月16日
    もしマンハッタン計画の裏で巨大トカゲを兵器として使う計画が計画されていたら…?しかも実戦で使わないために、着ぐるみ特撮で日本使節を畏怖させる終戦計画が動いていたら…? 特撮x40sハリウッドxマンハッタン計画の闇鍋架空歴史物。隠しきれていない特撮愛がにじみ出ている。実在する作品、人物の名前がそのまま使われている場合もあれば借りてきている場合もあり、どこまでが史実で創作か曖昧でさまようような不思議な読書感覚。(中身はめちゃくちゃだが)大きな歴史に関わらざるを得なくなってしまったある男の悲哀、みたいなところで『オッペンハイマー』のストーリーラインと重なるところもあった(なんでだよ)
  • Hayati
    Hayati
    @015Onegy
    2026年3月15日
  • sonyushka
    sonyushka
    @snsk_b
    2026年1月18日
  • 深山めい
    深山めい
    @may-m
    2025年11月11日
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