
Yamamoto Masaki
@masa0426
2026年3月21日
レキシントンの幽霊
村上春樹
読み終わった
心に残る一節
『トニー滝谷』P147
不自由しないくらいの数のコートとワンピースを持っているのだもの、と。でも交差点の一番前に停まって信号を待っているあいだ、彼女はずっとそのコートとワンピースのことを考えていた。それがどんな色をしてどんな恰好をしていたか、どんな手触りだったか、彼女ははっきりと記憶していた。今目の前にあるもののように、細部まで鮮明に思い浮かべることができた。額に汗が浮かんでくるのが感じられた。
ハンドルの上に両肘をついたまま、大きく息を吸い込んだ。そして目を閉じた。目を開けたとき、宿号が青に変わるのが見えた。彼女ははじかれたように思い切りアクセルを踏みこんだ。
そのとき、交差点を黄色の信号で無理に突っ切ろうとした大型トラックが彼女の運転するブルーのルノー・サンクの鼻先に横からフルスピードで突っ込んできた。
彼女には何かを感じる暇さえなかった。


