
沙南
@tera_37
2026年6月24日
夜市
恒川光太郎
読み終わった
「今宵は夜市が開かれる。」
夢の中を漂っているような気分になる。明るくはないけれど、じめじめともしていない。不思議な二つの物語。読んでいると、私も幼いころに夜市へ迷い込んだ気がしてくるし、間違って古道を歩いてしまった気もする。
「夜市」は審査員の選評にもあったとおり、頭の中に絵が浮かんでくる。その景色が現実にまで滲み出してきて、じわじわと全身を包んでくるような感覚。印象派の絵画の中に吸い込まれてしまったみたいだった。粒子状になった闇を光が吹き飛ばす、という夜明け(=夜市が消える)の描写が、今までみたことのない例えで好みだった。
「夜市」もかなり良いけど、「風の古道」もぶっ刺さり。芥川のトロッコが大すきなので、そのダークファンタジー版みたいな感じで🫶。
出会いと別れを"胸に風が吹く"と表現するのが素敵。どれだけ濃い時間を共に過ごしても、振り返ってみれば、それらは風が通り過ぎるのとおなじくらい一瞬の出来事なのかもしれない。
私はどうしても停滞が心地よくって、今ある人間関係が永遠に続けばいいなって思うことがたまにある。みんなそれぞれ自分の選んだ道を進んでいるわけだし、全員が最後まで隣を歩くわけではないこともわかっているんだけれど、でもだって、楽しいんだもん。今この瞬間が。
最後のシーンでの主人公にも、家に帰りたい気持ちと、あの奇妙な冒険をまだ続けていたい気持ちの両方があったんだろうなあ。
自分と他者と、それから環境の変化を楽しみつつ、たまたま今おなじ道を並んで歩いている人たちと、行き先が分かれるそのときまで、一緒に歩く時間を思い切り謳歌したいと改めて思った。せっかく地球に生まれてきたから!
ーー道は交差し、分岐し続ける。一つを選べば他の風景を見ることは叶わない。
私だけではない。誰もが際限のない迷路のただなかにいるのだ。



