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@hrv8k
- 2025年7月24日雷と走る千早茜読み終わった本棚で読まれるタイミングを待っていてくれた作品である。10歳だった少女がガードドッグに抱いた愛と、成長した彼女が恋人と育む愛が並行して描かれている。 言葉が通じない動物と多感で繊細で物知らぬ年頃の少女、という組み合わせだからこその 絆であった。他者が入り込む余地のない、彼女たちだけの濃密な絆であった。深いトラウマとなってしまったのも無理はない。 とはいえ、共通の言語を持とうが持つまいが、人間も相手を理解しようと努め、理解を得ようと心を開かなくては繋がってゆくことはできないのだなと思いながら現代部分を読んだ。 人にも物にも動物にも、それぞれの事情や背景がある。
- 2025年7月21日グリフィスの傷千早茜読み終わったなんという感性だろうかと溜息が出た。傷にまつわる短編集という不思議な一冊。 心身に傷を抱えて生きる人の、その傷跡を恐々と指でなぞるように触れてゆく感覚を抱きながら、時に『ああ、自分はあの時、このような言葉で表現される心情だったのかもしれない』と考えたりもして、妙な安堵を得た。 余談だけれど、使われている紙の質がきめ細かく滑らかで、ページを捲るのが大変心地良かった。
- 2025年7月20日生を祝う李琴峰読み終わったもしも出生に際し、胎児本人による出生の合意を義務付けられていたら、の世界が描かれている。親ガチャ、という言葉を思い出しながら読む。胎児に提示される、彼らの人生における難易度、幸福度を示すものが実に現実的であるが、それはとても優生思想的でもある。 この制度は果たして実際には胎児の尊厳を守っているのかいないのか、と気持ちが揺れた。どのような子どもが生まれたとしても、社会にそれを受け入れ支える仕組みがありさえすれば、あれらは必要のない尺度ではないのだろうか。
- 2025年7月19日湯気を食べるくどうれいん読み終わった読みたかった本だと思って購入し、よく見ると、手元にある『わたしを空腹にしないほうがいい』というZINEと同じ著者の作品であった。そちらを読んで、それから一気に読んだ。 著者の人生における食について、短いエッセイで綴っている。菜箸を握ることで繋ぎ止めてきたものに深い共感を覚え、幾度も頷きながら読み進めた。
- 2025年7月18日パズルと天気伊坂幸太郎読み終わった新刊が出ていたことに気が付かず、書店で二度見をしてしまった。 短編集とのことで気軽に読み始める。ほんのり残酷さを備えながら、人の心の温かいところを優しくくすぐる伊坂ワールドは、大人の童話であるなと思った。 全体的に、伊坂作品は男性の登場人物の語り口調がやや硬く『なのか』を多用しがちなのに対し、女性の登場人物は比較的砕け気味の口調で『だわ』『わよ』を滅多に使わず『なんだよね(言い切り)』を多く使うように思う。強くて元気な女性がたくさん出てくる世界だと感じる。
- 2025年7月17日氷点(下)三浦綾子読み終わった勢いのままに読み切る下巻、続編の方は本編(と言うのかはわからないけれど)ほどは読み込んでいないため、うろ覚えの箇所も多かった。ことの発端となった20年余り前の事件の関係者たちとの出会いはあまりに出来すぎた偶然とも言えるが、これもまた『大いなるものの意志』なのではないかと思わされる。 他者を罰したり責めたりする人は、その人の正しさの絶対的基準で他者を見ているという。 自分は善であるという思いが他者を低く見せる、といった意味合いの文章が心に残った。 各人物の持つ罪へのありようが実に三者三様で、それぞれの切実な苦悩の断片を受け取りながらページを捲った。
- 2025年7月15日続氷点(上)三浦綾子読み終わった一命を取り留め、翳りのない強さが陽子から消えた。人を責める気持ちや恨みの感情を覚え、自身の出生が不義によるものであったことを許すことができない。 無意識のうちに犯す、人間には始末のつけようがない罪の話を啓造は陽子にしている。いつの間にか積み上がる膨大な罪の小石に座りながら自らに非はないと思っている気がする、と。 残忍な仕打ちを行う者の性質全てが悪ではないこと、自分という生を全体の中のひとつとして捉えることなど、心に留めておきたい文章がたくさんある。
- 2025年7月11日氷点(下)三浦綾子読み終わった上巻に引き続き。夏枝の自己愛の強さによって正当化される行いの数々、無知で幼かった二十代と比べて年齢とともに粘度を増す執念深さや凄みのようなものが印象的ではあるが、彼女は啓造に比べ驚くほど狭い世界で自身の美貌を評価され生きてきた人物であるので、献身的で愛情深い母親という同時に存在する別の面も相まって、哀れな人物のようにも思う。 清廉潔白であった陽子は、成長するにつれて他者への嫌悪感や嫉妬、猜疑心といった激しい感情を自身にみとめ困惑する。 誰もが羨む理想的な家庭、人物においても、抗いがたい負の感情や劣情が存在し、またどのような人生であっても向き合うべき罪があるのだろうか。 読んでも読んでも、新しい気持ちでまた読んでしまう。
- 2025年7月8日氷点(上)三浦綾子読み終わった縁あって幼い頃に出会い、手放したり購入しなおしたりを数十年に渡って繰り返している。 初めて読んだときは、年齢の近いルリ子に気持ちを寄せていた。次第に自分が成長し、視野が広がり、言葉の意味や複雑な感情を理解できるようになるにつれて、少しずつ他の人物像が見えるようになっていった。 脳裏に広がる厳しい北海道の冬の情景、行きつ戻りつする人びとの心、狡さや未熟さなどの描写が見事で、何度も読み返す価値のある作品だと思う。
- 2025年6月27日番犬は庭を守る岩井俊二どのような心持ちで捉えるべきか戸惑い序盤で挫けそうになりながら読んだ。 次第に戸惑いが和らぐとともに、この不遇な青年の物語がどのように締めくくられるのか が気になりだし、奇妙な人生の終わりの示唆と連なる命にほのかな満足を得た。
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