昭和歳時記

9件の記録
勝村巌@katsumura2026年8月8日読み終わった『破獄』『羆嵐』『大黒屋光太夫』『陸奥爆沈』『戦艦武蔵』などの硬派なノンフィクションやルポルタージュで知られる、 吉村昭が、自らの子供時代から青年期にかけて過ごした戦前・戦後の昭和の暮らしや街の風景を綴ったエッセイ集。 吉村昭は昭和2年生まれ。大正天皇が12月25日に崩御したため昭和元年はわずか6日しかなく、実質的に「昭和の始まり」とともに生を受けた著者が、自らの名にある「昭」の文字を背負いながら、時代の記憶を一つひとつ手繰り寄せるように記している。 まさか吉村昭の昭が昭和の賞とは知らなかった。もしやと思って小沢昭一も調べたが、彼も昭和4年生まれ。昭一の昭もことによると昭和からとられてるなこりゃ。 さて、2025年に文庫化された本作には、「昭和の下町」12編と「昭和歳時記」9編の計21編が収められている。 この2つのパートを通して昭和初期の風俗や生活の移り変わりが立体的に伝わってくる点にある。 前半の「昭和の下町」では、長火鉢や物干し台、火の見櫓、夏の夜の蚊帳といった身近な道具の消滅や街の変遷が具体的に追われており、著者の育った東京・日暮里や谷根千あたりの温かな風情と当時の暮らしぶりが生き生きと描かれている。 一方、後半の「昭和歳時記」では、四季折々の行事や季節の風物に焦点を当て、時の流れの中で人々の暮らしがどのように営まれていたかが丁寧に掬い上げられている。 こうした昔の暮らしを振り返るエッセイは、ともすれば「昔は良かった、それに比べて今は……」といった安易なノスタルジーや懐古趣味に走りやすい。 しかし、本書の記述は極めて客観的で冷静だ。昔の暮らしにあった温もりを描く一方で、寒さや不便さ、衛生面での苦労など、当時の暮らしなりの大変さや厳しさがあったことも隠さずに淡々と記されている。この偏りのないフラットな視点は、数々の厳しい取材を重ねて傑作ルポルタージュを世に送り出してきた著者ならではの真骨頂と言える。 大袈裟な懐古にとらわれず、下町のそこはかとない生活感や人々の息遣いを淡々と記録した内容は、昔の生活を知る上でも味わい深い名著であった。 火鉢の説明なども大変に具体的でわかりやすく、ボンヤリとしたイメージしかない現代の人間にも、しっかり伝わるものになっているところに著者の筆力を感じる。火の見櫓とか蚊帳とか物干し台などについても同様。生きたテキストという感じがした。 毎日コンピュータやスマートフォンにばかり時間を奪われ、手元の画面の中にばかり意識が向いてしまいがちな現代人にこそ、本書をお勧めしたい。季節の移ろいや道具の手触り、人の気配といった身近な現実の感覚を静かに思い出させてくれる、普遍的な手触りを持った一冊である。


asuka@ask_5102025年6月22日気になる吉村昭の「昭」は、昭和の「昭」なんですよね、たしか。元号が昭和に変わった頃に生まれた人は、「昭」と名付けられた人が多かったとか。 吉村さんは本当に綿密な取材と考証をする人なので、単なるノスタルジーではない、信頼の置ける歳時記なのだと思う。














