鹽津城
22件の記録
Yamada Keisuke@afro1082026年1月26日読み終わったSFの本を選ぶとき、国内SFが選択肢に入ることが少ない。私はヒップホップが好きなのだが、それに例えればUSのヒップホップばかり聞いて日本のヒップホップを聞いていないことになり「それはちゃうやろ」という気持ちで国内SFを少しずつ読むようになった。本著はマイフェイバリットポッドキャストであり、私にとって数少ない国内SFガイドである『美玉ラジオ』で知ったのだった。これぞ国産SF!というドメスティックな要素、展開の数々を楽しく読んだ。 本著は基本的には短編集であり、タイトル作が中篇となっている。全体の特徴としてまず挙げたいのは、登場人物や作中内の現象の名称が、見たことない漢字だらけであることだ。これだけ「読んだことがない漢字」に遭遇するのも久しぶりで小説という表現の自由さを味わった。また、複数の時間軸を並行して描き、それらの関係性を構築することに注力していることが伺える。その構築においては、わかりやすさよりも、著者本人にとっての確からしさを重視しているように伝わってきた。さらに、物語に明確なカタルシスを用意していない点も特徴的だ。なにかが始まるかもしれない期待だけが差し出され、読者には想像できる余地が残されているので余韻がある。 著者の作品を読むのは初めてだし、ポッドキャストでもタイトル作中心に話されていたので、冒頭の「羊の木」の得体の知れなさに面食らった。新海誠『君の名は。』のアダルティ版とも言える、時空を超えた交錯劇。続く「ジュブナイル」もサイエンスフィクションというよりも少し不思議な話であり、こういうトーンなのかと思いきや、「流下の日」でギアが変わって一気にSF色が濃くなっていく。 「流下の日」は、近未来の功利主義や管理社会を描いた作品で、一番好きな話だ。日本が独自のテクノロジーで唯我独尊で発展を成し遂げてきたように描写しながら、後半にかけて、実態はビッグブラザーだったという裏切り方が巧みだった。また、同性愛を含めて「家族」の範囲を拡張しつつも、家という組織単位をより強固にしていくという設定も興味深い。一見、リベラルなのだが、実のところは保守という構図から、現実ではいまだに「家族」の範囲さえ広がらないディストピアというアイロニーにも映った。 SFを読むときにもっとも楽しみにしているのは、どのような近未来テクノロジーが導入されているか、という点だ。「流下の日」では生物学的なアプローチで、身体に埋め込まれたバングルによって、あらゆる行動が制御され、また制御されてしまう。政府が個人の思想や活動に干渉する社会の中で、主人公たちはレジスタンスとして、バングルに支配されない世界を心の中に構築する。それを「中庭」と呼ぶネーミングがかっこいい。英語ではなく、漢字二文字でSF的概念を表現していくところに国産SFらしさがあるし、実在する中庭から展開していく仕掛けもオモシロかった。インターネットを通じて、私たちは心の「中庭」を他人にどんどん開放しているが、誰にも入らせない思考の「中庭」を持つことの重要さを教えてもらった気がした。 もっとも壮大な話がタイトル作の「鹽津城」である。三つの時間軸が並行し、シンクロしながら物語が進行していく。ここでテーマになるのは海と塩である。海水中の塩化ナトリウムが突如結晶化して街を破壊していく現象と、身体の中に塩分濃度の異常に高い、細い線条が形成される病気、二つの謎を中心として物語が描かれる。原発を絡めていることから、東日本大震災をモチーフにしていることはあきらかだが、あの出来事かこれほど跳躍力のある物語を紡げるのは、日本のSF作家ならではの視点だと思う。そこに『ワンピース』的な漫画の要素が合わさってくることで、こういった物語こそが本当の意味での「クールジャパン」なのではないか、と感じた。 塩化ナトリウムだけが海水から分離、凝固する科学的背景として「マックスウェルの悪魔」が引用されており、ネタ元を明示してくれる点も興味深い。さらに同じ分子挙動の不思議さについて、チューリングによる反応拡散方程式による生物の模様形成にも接続し、思考がどんどん広がっていく。それに呼応した表紙はさすがの川名潤ワークスだし、このように科学的想像力を足場にして物語が展開するSFならではの醍醐味があった。 マックスウェル、どこかで聞いた覚えがあるなと思ったら、「マクスウェル分布」のことだった。久しぶりにWikipediaでそれを眺めていると大学院入試で勉強した記憶がよみがえった。当時は本当に嫌だったし、今数式を見てもぼんやりとしか思い出せないが、こうやってSFの題材として出てくると「どういう意味なんだろう?」と興味が湧くのだから、エデュテイメントとしてのSFは偉大さである。寡作な作家のようなので、他も読んでみる。


gato@wonderword2025年9月15日読んでる久しぶりに図書館をゆっくりぶらぶらできたので、短篇集の齧り読みなどする。この『鹽津城』は数ヶ月前に一回手に取ったのだが、巻頭の「未の木」がなんとも気持ち悪くて(狙った気持ち悪さなのでいいんだけど)、続く「ジュヴナイル」もあまり乗れなかったので結局その日は棚に戻した。 だが、今日「流下の日」を読んだらこれがめっちゃ面白かった。自民党と正反対な急進的家族観を持つ総理大臣に40年以上独裁されている近未来のお話。冒頭からすごいボケてるんだけど、ぬるっと思想統制されている語り手にゾクっとしながら気付けばレジスタンスの反乱の中心に取り込まれている。同じ世界観で日本各地に散らばる反政府組織を描く連作書いてほしい。乙原朔バース。
らくだ@camel8262025年3月16日読み終わった感想@ 自宅ついに読み終えた。全体に今まで本と違い、リリカルさが少なく感じられたが、その分重厚で厳かな感じがあって、これはこれで好きだと思った。分かち難い二人の、分かたれた人生を描いた「未の木」が好き。「鎭子」の、何故かすっと気分が明るくなるラスト、表題作「鹽津城」の壮大な国生みを描いた複雑な雄大さが好き。
らくだ@camel8262025年3月15日読んでる@ 自宅いよいよ表題作を読み始めたが、これは面白い。塩に侵された世界を描いた、並行して進む3つの物語。まだ3つの物語の繋がりはわからないが、3組の主人公たちがどれもタイプが違ってわくわくする。
らくだ@camel8262025年3月12日読んでる@ 自宅「鎭子」読了。あまり高評価とは言えない感想を読んだばかりなので、ちょっとドキドキしたが、とてもよかった。別の短編集に収録されている「海の指」の姉妹編。生まれつき心臓に病気があり、ある問題を抱えている女性が風変わりな男性とセックスをする。描写がとても艶かしくねっとりとしていて、けれど人生の悲哀と希望を感じさせる、私の特別気に入る作品となった。









