羽毛
@feather
- 2026年5月2日
イン・ザ・メガチャーチ朝井リョウ読み終わったどの立場の登場人物にも共感できて、日本の状況もよく分析され咀嚼された上で細やかにそれぞれの心情が描かれていると思った。 推し活から陰謀論、新興宗教らしき言説まで、すべてを馬鹿らしいとか揶揄したり冷笑できるほどの愚かしさには感じられず、それぞれの主張がもっともらしく一理あると思えるほど、いまの日本、世界の現実の方がある意味リアリティを欠くほどにフィクション化していて危うくなっていることに気が重くなった。 この小説がフィクションであってくれる方がどんなにか良いかと暗澹たる気持ちになる。まさか本屋大賞受賞をした頃にカルト化した首相が「シェルターの建設」とか言いはじめるとは執筆中の著者だってよもや想像していなかったろう(もしそこまで想定して書かれていたんだとしたら、この著者の方がよほど怖い存在だ)。 小沢健二『うさぎ!』ミヒャエル・エンデ『モモ』などに底通する灰色〜黒のイメージはまったくの絵空事ではなく実在しているように思える。その存在は様々な団体がいろんな説を唱えて熱弁を奮っているように、どこかで組織化されて実際に暗躍していたりするのかもしれないし、はたまた単に暴走するウィルスのように感染しては世代を超えて生きながらえる形のない人間の業や膿みのような性質のものかもしれない。 ただ私自身の中にもひょんなことからそれが蠢く可能性があり、すでに毒されてしまってはいないかといつでも胸に手をあてて振り返られるよう、物語に呑み込まれすぎずに視野を広げておかなくてはと、細めていた目を開いて最後のページをゆっくりと閉じた。 - 2026年3月29日
語るに足る、ささやかな人生駒沢敏器読み終わったニューヨークからロサンゼルスへ。 一台の車が走り抜けるアメリカ横断の紀行文集。開拓期の古き良きアメリカの面影が重なるスモールタウンで暮らす市井の人々の人生を短編のように紡いでいく。時代の喧騒から取り残された田舎町に住み、小さな声音でとつとつと語る人生譚に耳を澄ませる。旅人である著者がそれぞれの街で出会った人たちに丁寧にインタビューを重ねて綴った体温の宿るエピソードが集められている。 力が正義といわんばかりの無法者ぶりがより目に余ってきた21世紀のアメリカ。居丈高に略奪行為を繰り返し、声高に雄叫びつつも、自称世界のリーダーから転落し続けているように感じるのは私だけだろうか? ICEの人権侵害や国際法を無視したイラン戦争へのフラストレーションも爆発し、トランプ大統領の支持率が過去最低を記録。「No Kings」(王はいらない)抗議デモが全米各地で記録的な規模で開催された日に読了できてよかった。 それは今にはじまった横暴ではなく、開国前の入植の略奪から度重なる戦争まで、アメリカが行ってきた行為の本質は変わっていないのかもしれない。けれどもこの国に暮らす人々がすべて悪人なはずもなく、実際に醜悪な国へと貶めてきたのは、国民を狡猾に騙してのしあがった一握りの権力者たちとその時々に栄えていた富裕層であることを自ずと浮かびあがらせる一冊。 新装版の単行本の表紙かわいいですね。 私は小学館の文庫版で読みました。 - 2026年3月25日
J・J・J三姉弟の世にも平凡な超能力 チョン・セランの本チョン・セラン読み終わった冴えない旅をきっかけに三姉弟それぞれにふと宿った世にも平凡な超能力を巡る救いのある物語。 著者があとがきで述べている通り、なんでもない偶然、どうってことない超能力、平凡で小さな親切、たびたび出会う思いやりをモチーフに丁寧に編まれた物語が交錯しながら心温まるフィナーレを迎えて、とても読後感の良い一冊でした。 - 2026年3月5日
窓から見える世界の風nakaban,福島あずさ読み終わった福島あずささんによる世界の風の名とその由来、そして風から連想されるエピソードを読むだけで世界を一周する気分になれる。nakabanさんの絵と、その絵に添えられた小さな言葉がよりその架空の旅の旅愁を想起させてくれる。名がつくほどの風は良いことを運ぶものよりも人に疫病や災厄やもたらすものの方が多いようだと感じたが、名付けてしまいたくなるほどの自然への畏怖の現れともいえる。海や湖、山や谷の気温や湿度の変化で風は生まれ、雨や雪を運ぶこともあれば、土地を乾かし砂嵐を呼ぶこともある。優しく人の頬を撫でるような微風も吹けば、帆船を力強く推し進める強風だって吹いている。 - 2026年3月3日
バスラーの白い空から 新装版佐野英二郎読み終わった海外での生活が長かった一商社マンの追想をまとめた一冊。文学を深く愛した著者が、美しい文体で描く愛した者たちとの惜別、遠い国で出会った優しい人々との記憶。章編を読み進めると戦争を生き延びて高度経済成長をたくましく乗り越えた著者の人生が浮かび上がり、知らなかった世界の扉が少しだけ開かれた気がする。校正者の猪熊良子さんのインタビュー記事で知った一冊だが読んでみてよかった。
- 2026年2月26日
この町ではひとり山本さほ読み終わった読んでしまったという読後感。著者も書いてしまっていいのかと悩んだ孤独感あふれる漫画。読む人を不安にさせる殺伐としたエピソードがならぶけれど、どこかでこんな経験あるなとかこんな人になっちゃダメだなと思わせてくれるところもありと反面教師な一冊。元気ないときは手に取らないで!
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