単純な脳、複雑な「私」

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- 一世@seedo812025年3月20日読み終わった読了。「心」はいかにして生み出されるのか?この問いを脳科学の視点から探求するシリーズ3部作のうちの真ん中に位置する一冊。 他2作同様に著者の池谷裕二氏が、高校生と対話する形式で、意識や認識が「思い込み」や「脳の錯覚」に過ぎないことを論理的に解き明かしていきます。 「自分が感じている現実は、単なる脳のシミュレーションに過ぎないのではないか?」 という理屈をしっかりと池谷先生に解説されると、高校生の情操教育に何らかの影響を与えそうで、少し心配になります(苦笑) 生存率に直結する「痛み」という存在を解消するために「なぜそれが起きているのか」を考えられるだけの脳を得たことで、リカージョン(入れ子式・マトリョーシカ式)に様々なことについての謎を悩むようになった人類。 著者の見解によれば、脳科学的な視点からは、こうした思考は単なる妄想に過ぎない とのこと。もしそうならば、「じゃあ、そんなものか」と割り切ってしまえば、心理的ストレスが軽減される効果があるのか? それとも、むしろ余計に悩んでしまうのか? 読みながら考えさせられました。 2008年にマックス・プランク研究所の研究者がfMRIを利用して行なった脳研究で「人は運動実施の7秒前には脳が予測行動を開始している」と言う話があります。この本の中でも「5秒前の世界があったことをどう証明するのか」という「シミュレーション仮説」のような問いがあります。 そうやって悩むことさえ、もしかしたら脳の錯覚なのか・・とまさに思考のリカージョンが起きる内容。単なる脳の機能の話と思いきや、いつの間にか深遠な哲学的問いにまで導かれる、まさに思考の迷宮へと誘われる一冊でした。 ● 単純な脳、複雑な「私」(池谷裕二、2013年、講談社)