Papyrus
5件の記録
gato@wonderword2026年6月16日読み終わったパピルスに始まる〈本〉と文字の普及が西洋の思想をどんなふうに変えてきたか、歴史・現在への影響・個人的な思い出・トリビアを混ぜ合わせてさまざまな角度から語り尽くす盛りだくさんな本だった。邦題は『パピルスのなかの永遠 書物の歴史の物語』(見田悠子訳 作品社)。 マングェルの『図書館 愛書家の楽園』とかエーコ/カリエールの『もうすぐ絶滅するという書物について』を思いだしながら読んでいたけど、思想的にはグリーンブラットの『一四一七年、その一冊がすべてを変えた』が一番近いと思う。そして当然ここに挙げた全員この本に引用されている。未知の本(特にスペイン語圏の)との出会いもあり、読みたいリストがまた増えてしまった。 歴史的には既読のAdam Smyth 'The Book-Makers'(邦題『本作り500年の歴史』)や、Rolland Allen 'The Notebook: A History of Thinking on Paper'と響きあうところも多く、この辺の事情がまったりと掴めてきたかも。 グーテンベルク以降を扱ったアダム・スミスの本だと出版文化の普及=読者の増加は完全にポジティブなものだったけど、古代では完全にプライベートな空間で読まれていたものが〈顔の見えない読者〉まで広がっていくという作家側の恐怖や嫌悪感があったという。この辺の心境は何周かして、SNSが普及した2010年代以降にあえてZINE作りが流行りだす流れをも説明できている感じで面白かった。





gato@wonderword2026年5月30日まだ読んでる295pまで。 第二部に入ってからのほうが面白いかもしれない。今まで優等生的だな〜と思っていた記述が、古代ギリシアと古代ローマの関係性は現代のヨーロッパとアメリカと同じだ!と言い始めた辺りから良い意味で主張が強くなってきて、この人の色が見えてきた感じ。 ヘレニズム期を非常に理想化していて、ローマ人の文化盗用をバチボコに批判した上でアメリカと重ね合わせ始めるのでちょっと笑うのだが、たしかに軍事的優越感と文化的劣等感のギャップはアメリカという国を読み解くのに必要なキーワードだと思う。
gato@wonderword2026年5月28日まだ読んでる253pまで。第一部終わり。 アレクサンドリア図書館を壊滅させた三つの歴史的事件、極限状態で読書が救いになるということ、翻訳というコスモポリタニズム。 7世紀にムスリムがアレクサンドリアを征服した際に図書館の蔵書を燃やしたという史料があるらしいんだけど(これ自体そんなに信憑性はないとのこと)、市内の風呂屋という風呂屋に巻き物を運んで火種にしちゃったと書いているとか。そこでイスラム圏の公衆浴場「ハンマーム」のWikiを見てみたら、旧ローマ帝国の都市の征服後、その遺構を引き継いで発展したとあって、焚書の件は作り話だとしてもちょっと面白い。 西洋人がもつ強烈な古代ギリシアへの幻想はコスモポリタニズムへの憧憬なんだなぁということが見えてきたところ。
gato@wonderword2026年5月20日まだ読んでる204pまで。 サッフォーをはじめとする古代ギリシアの女性作家たち、ヘロドトスの『歴史』の革新性、喜劇の反体制的性質などなど。 別の媒体でサッフォーはヘレニズム期にとても尊敬され、ラブレターの手本としても重宝されたという話を聞いて面白く思っていたから、迫害にだけスポットを当てた語りは少し物足りなかった。ヒュパティアについても。 その代わり今まで知らなかったアスパシアという前5Cの女性を知る。政治家ペリクレスの妻で話術に優れ、ソクラテスにも影響を与えたのではないかと言われている人だそうな。 それにしても、ボルヘスとこの本を併読していると、〈西洋人〉のルーツをローマあるいはギリシアに帰するという執念はかくも強烈なものなのかと思わずにいられない。アルゼンチンに生まれてすら、〈知性〉のルーツは遥か彼方のギリシアにあることを当然として「私はローマ人の子孫だ」と名乗る。ファンタジー。



gato@wonderword2026年5月12日読んでる110pまで。 パピルス紙の書物がどのように人類の在り方を変えていったのかを辿っていくノンフィクションなんだけど、史実に基づく妄想や個人的な思い出、現代への接続が連想の赴くまま自由に綴られていて、時系列順に追っていくスタイルではない。けど章立てが細かいしそれぞれが完結したエッセイにもなっているので、いっそ章題で気になったところから読むのもありなのかも。マングェルの『図書館 愛書家の楽園』とか、エーコとカリエールの『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』とかああいう感じ。 今は口承から文字記録にメインストリームが移っていく過渡期の話。その隙にも黒澤明の兄が活弁士だった話とか差し込んできて面白い。 口承の時代ってのは聞き手とコンセンサスが取れている話がメイン、なぜなら対面でコンセンサスの取れていない話をするのはリスクがデカすぎるから、つまり口承は慣習的・保守的にならざるを得ないので、周縁的マイノリティが発言力を持つのは書物の時代以降、という論が面白かった。並行して読んでる'Conversations'ではボルヘスが対話形式を舐めるなみたいなこと言ってるんだけど、それは本が飽和状態だからこそだしな。 邦題『パピルスのなかの永遠 書物の歴史の物語』 見田悠子訳 作品社




