イングランド田園風景の文化史
11件の記録
本屋lighthouse@books-lighthouse2026年9月25日読んでる男性にとって「愛国心」とは「戦争に行く気にならせる」帝国主義的でナショナリズム的なものであるのにたいして、ウルフにとってそれは、「戦争を未然に防」ぐ平和主義的でコスモポリタン的なものだったのである(p.360) さまざまな色で色分けされている帝国主義時代の世界地図と対照的に、「闇」によって国境が廃絶された「たんなる土地」のうえで、「人間同士の共感」によってのみ結ばれた、「自由」と「平和」の世界が創造される――ここにウルフの希望がある。(p.363) ウルフ『幕間』の結末をアナーカ・フェミニズムや国境廃絶論的な視点からとらえる、新しい解釈がここにある。指導教授が教壇から降りたあとにこのような思考を展開していることに、言いようのないうれしさを覚えている。






本屋lighthouse@books-lighthouse2026年9月25日読み終わった優れた文学作品は必然的に社会と接続し、同様に、優れた文学研究も社会に接続する。イングランドの田園風景という「愛国心」の象徴的存在は、たとえばいまの日本における「美しい国・日本」的なモチベーションと重なり合うし、前者が戦争や移民排除の正当性を担保するものとして利用されてきたことと同じく、後者もまた現代の日本において同様の役割を担っている。文学と社会は切り離されているものではなく、密接に関わりあっている。そのことをあらためて感じることができた、ほんとうに濃厚な読書時間だった。 「世界のあらゆる地域がそれぞれ人種の多様化にむかって動いていく必然のなかで、イギリス小説が「場違い」な人間をどう描いてきたのか――それは本書ではあつかえなかったが、二〇世紀後半以降のイギリス小説にとって(イギリス以外の国の文学にとっても)きわめて重要な問題であることは間違いない。イングリッシュネスにかんする文化研究は、ポストコロニアル文学研究と接合していく必然性がある」(p.410)という文章で結ばれる本書は、丹治先生の門下生として私が今後引き受けていくべきものの一端を示しているにちがいなく、研究者というよりは本屋としての在り方になるのだろうけども、往々にして「場違い」な人間および存在でもある自分を生かすためでもあるこの本屋を、どうにかして続けていく。


本屋lighthouse@books-lighthouse2026年9月22日読んでるモリスにとって国民国家とは、相互に「軋轢」を抱えている「家族」や「種族」(=民族)を「無理矢理」「国民」なるものに「まとめ」ることによって構成される「人工的で機械的な集団」にすぎない。そしてそのうえで、「愛国心」という「おろかしく妬み深い偏見」を「かきたてる」ことで、他の国家への敵愾心をあおり、そのことによっていっそう「愛国心」を強化することによって、差異のなかからかろうじて同一性(ルビ:アイデンティティ)を創造し維持している「集団」にすぎない。(p.193) モリスが見ていたのは「帝国主義的国家どうしの苛烈な戦争としての第一次世界大戦を準備していた一九世紀末」(同上)だが、こうして歴史は繰り返されている。


本屋lighthouse@books-lighthouse2026年9月15日読んでる「イングランド人は〔帝国という〕巨大かつ斬新な事業に没頭していたためか、国民としてのみずからの本質について内省的な考察をおこなう必要性も、その意欲も感じていなかったようである。/こうした事業が失速しはじめ、〔ドイツ、アメリカなど〕新たな商業的ライバルたちが英国の産業的覇権を脅かし、帝国への信頼が揺らぎはじめたときになって、はじめてある程度のイングランド人としての自己意識があらわれはじめた。これこそが〔中略〕「イングリッシュネスのモメント」である。イングランドの知識人や芸術家――歴史家、政治理論家、文学・文化批評家、作曲家、詩人、小説家――は、はじめてイングランドの国民としての特性――すなわち、独自の歴史、伝統、運命にかんする明確な意識をもつ集合体としての特性――への探求をはじめたのである」(p.138)というクリシャン・クマー『イングランドのナショナル・アイデンティティの生成』p.224)からの引用は、ナショナリズム=愛国心の高揚というものが「己の存在価値に対する危機感」から生じることを例証している。クマーの言葉をさらに借りれば、「吠えない犬」(p.136)であることをやめざるを得ないということ、吠えることで己の存在価値や強さを誇示しなくてはならない、たとえそれがまがいものであっても、あるいはまがいものであるからこそ、ということだ。自信を失いはじめた者から吠えはじめる。メイクアメリカグレードアゲイン、日本を舐めるな。文学研究を真剣におこなうこと、そしてそれを真剣に読むことは、歴史が繰り返されていることを体感することでもある。



本屋lighthouse@books-lighthouse2026年9月11日読み始めた献本指導教授の単行本が久しぶりに出た。授業でもよく言及されていたイングリッシュネスという概念についての本で、なんだかとても懐かしい。テーマもニッチだし、高額本だし、たぶんすぐには売れない、いやずっと売れないかもしれんから、少ししたら店から下げて読もうと思ってたけど、献本が届いたのでもう読んじゃう。








