深淵のかなた
12件の記録
ピエ@pie_2022026年8月12日読み終わったピラール・キンタナの日本語訳2作目がいつの間にか出ていた! 既に出ている『雌犬』(村岡直子訳)は海辺の寒村が舞台だったが、本作では作者の生まれ故郷でもあるコロンビア第3の都市・カリ。主人公も大人の女性ではなく、まだ8歳くらいの女の子、クラウディアだ。 そのため、読み始めのあたりでは児童文学のようにも感じられたが、この物語で描かれる主体は語り手のクラウディアではなく、その目を通して捉えられる母ではないか。 母(彼女の名もまたクラウディア)は若く美しく、物質的には何不自由ない生活を送っている。しかし口には出さずとも、安定した暮らしのために20も年上のつまらない男と結婚してしまったこと、娘という足枷を産んでしまったことを後悔しているのは明らかだ。 決して同情を引くような人物ではないのだが、若くして専業主婦(お手伝いがいるため家事を頑張る必要すらない)となった日々の単調さと、学が無くコツコツ働く勤勉さにも欠けるため自分で生計も立てられないやるせなさを思うと、鬱病のような状態になるのも頷ける。 勢いで離婚をちらつかせたりもしつつ、結局一人で生きてゆくことのできない彼女は、若くして死んだ女たちに惹き付けられている。そしてその話を聞く娘のクラウディアも、階段やマンションの高層階、断崖といった「深淵」に惹かれていく。 原題は"Los Abismos"(losは定冠詞複数形、abismoは深淵)。深淵は一つではなく、一人一人にとって、あらゆる場所に存在していることを思わせる。 訳者の加藤尚子は、書籍翻訳としては本作が初めての出版とのこと。読みやすい訳ながら物語の不穏さを保っており、他の翻訳が出たらまた是非読んでみたい。 スペイン語文学の日本語訳は、ラテンアメリカ文学ブームの頃の翻訳者たちから、より若い世代の翻訳者たちへ移り変わりつつある。殊に女性翻訳者が増え、様々な女性作家の作品が訳されるようになったことが本当に嬉しい。



mikechatoran@mikechatoran2025年9月6日読み終わった海外文学8歳の少女のまなざしを通して描かれる家族の物語。子供のことだから、その語りには齟齬もあれば、不足も矛盾もある。若くて美しい母は学問も好きな相手との結婚も家族に反対された挙句年の離れた父と結婚した。母性的なタイプとはいえず、おそらく鬱病だろうか。父はといえば出生時に母を亡くし、父には顧みられず親戚に育てられた。寡黙で穏やかだが、時折目に「怪物」が現れる。両親それぞれの「深淵」を描きつつ、クラウディアは両親を失うこと、見捨てられることという自らの深淵に怯える。前作『雌犬』と対になる作品のように感じた。















