夏のヴィラ

8件の記録
- りら@lilas_lilacs2025年4月4日かつて読んだまたいつか郷愁とともに思い出す、陽光にきらめく木漏れ日、静寂のなか降り積もる雪、夕陽に照らされるビル群。人は人と出会い、とどまる人もいれば離れていく人もいる。淡く儚く、でも、たしかに存在していた過去。哀しさや切なさに包まれる、いつまでも読んでいたい短篇集だった
- 村崎@mrskntk2025年2月23日読み終わった美しいものを美しいと簡単に評してしまうのはちょっと無責任だな、という気持ちがあるのですが、夏のヴィラはどこを読んでも美しいなと思ってしまいました。 8篇からなる短編集、きれいな映画のはじまりと終わりを綿々とつなげて深く人の心を映しだすような作品ばかりでした。映画のはじまりと終わりって、それだと中身がないように聞こえてしまいますが決してそんなことはなく、これは私の表現力が乏しいあまりにこんな言い方しかできなかったのですが、山場がないのにつねに山場というか、怒涛の展開などなくても、ただ静かにそこにあるもの、出来事を見つめる姿勢を描くだけでこんなに心って揺れ動くものなんだよな、人の生活にこんなに近くに寄り添いながら心を描き出すことができるんだな…という感動をあらためて感じさせてくれました。 異国の土地で感じる孤独、一瞬まじわる友だち、昔の出来事、もう会うことのない母の言葉、ささやかなものを見つめながら、その延長上に世界がある感じ、だから読んでいるとどこまでも広がっていく感覚がするのかもしれない。 美しい文章なのは間違いないのですが(「ベルリンの朝霧のように髪の白くなったハンスが、私を見て言いました。」など、自然に情景が浮かぶような文章が素敵すぎる)、美しい文章って、美しくないものがあることを知っている、それがあることを覚悟しているからこそ書けるものだと思っていて、美しく書こうとするだけの文章はたぶん薄っぺらくなってしまうので、そういうことを考えながら夏のヴィラを読むと、繊細で静かな筆致のなかに一体どれだけのものを込めているんだろうと圧倒されます。 とくに好きだったのは「時間の軌跡」でした。最後の一ページの情景がこの先もずっと目に焼きついていくだろうなと思います。