ピダハン

14件の記録
- ハム@unia2025年6月6日読み終わった最高の一冊ピダハンの言葉には左右も色名も数や数量詞もなく、挨拶や謝罪といった交感的言語使用すらも見られない。さらに、「心配する」に対応する語彙もないというのは驚き。 直接体験を重視する文化にあり、自分が見たもの経験したものしか信じないし、語らない。 そのために言語構造にリカージョン(再帰性)を必要としない。 これはチョムスキーを中心とする普遍文法理論への反例となるだけでなく、言語を文化的実践と捉え、フィールドワークの重要性を示唆するものでもある。 めちゃくちゃ面白かったのは、キリスト教の神学をまったく信じないけれども、ピダハンは自分たちが見る精霊を信じていること。 両方ともに距離を置く身としてはどちらも同じような概念に感じるけど、ピダハンは実際に精霊は見ていて、今そこにいる。だから信じていて、イエスは今いないから信じない。 また、不安や恐れについて、もちろん彼らも多くの問題に直面してはいるものの、我々のように未来の予測や過去の後悔と結びつけて無駄に悩むことがない。 これをただ「未発達」だとみなすのは、非常に偏った見方になるし、むしろ、ある種の精神的洗練や時間との成熟した関係がそこに見える。 著者は西洋人の文化よりもピダハンのこうした文化性のほうが優れているのではないかという気づきを得ていて、優劣は本質ではないし個々の感じ方もあるだろうけど、常識の覆る瞬間、その気づきと学び、そうした展開がドラマティックでした。 豊かさとは?知性とは?信じるとは? 言語を通して人間の多様なありかたを尊重し直す過程が詰まっている素晴らしい一冊。