青い落ち葉

15件の記録
- もぐもぐ羊@sleep_sheep2025年5月28日読み終わった最後の二篇読了。 「ご飯」は苦労して脱北した後、呼び寄せた息子を大学にまでいかせ給料の高い研究職に就かせたものの、韓国人女性と結婚してから自分が蔑ろにされているように感じてる母親。 息子夫婦と同居して孫の世話や家事を引き受けて日々を過ごしているが常に孤独を感じている。 たまたま世話になったマンションの警備員にお礼に食事を差し入れた時に交流が生まれ、家族が褒めてくれない料理を褒めもらった日の晩に倒れ、翌朝救急で病院にかかったところ、ストレス性の胃炎という診断が出た。 日々の孤独や不満もあるが北朝鮮にいた頃よりはずっと幸せに暮らしていて、それでもさらに幸福なことが起きて体がびっくりしてしまったのではないかと推測している。 (麻酔でぼんやりしている時に息子夫婦が母親を気遣う会話をして物語が終わったのでそう感じた) 「赤い烙印」 20歳の時に10歳下の妹を孤児院に預けて豆満江を渡った姉とその妹が10年後に再開する話。 姉は中国でヤクザの妻にされ6年監禁された後に逃げ出し、ラオスとタイを経由して韓国にたどり着いた後、2年で高校の課程を終わらせ教員大学生になりようやく妹を探す余裕ができた。 ブローカーを通して調べてもなかなか妹の行方はわからなかったが、脱北民のテレビ番組で情報を募り、妹を知っている脱北民と知り合うことができた。 その後の流れがとてもドラマティックで、上海で会う予定が急遽延吉で会うことになり、また妹が北朝鮮の保衛員と携帯電話で連絡を取り合っていることをブローカーが気づき、ひとまず保衛員をまいてブローカーの自宅で姉妹が再会した。 妹は芸術団の声楽俳優として活躍していて、姉を北朝鮮に連れて帰ろうと説得する。 妹はその世界しか知らないからいかに素晴らしいかを語るが、父と祖母を亡くし貧困を苦にして豆満江を渡った姉は韓国で手に入れた暮らしが姉妹が一緒に幸せになれる唯一の方法だと譲らない。 話は平行線のまま、結局姉妹はそれぞれ北朝鮮と韓国に帰るしかなかった。 それぞれが再会を夢見て必死に生きてきたけど、違う環境にいた時間が長すぎて情はあるけど一緒にいられないのはとても悲しい。 再会後の別離の方がお互いにとって長くなるだろうし、国家に引き裂かれた姉妹の悲哀を感じた。 一番怖かったのは、姉が出演した脱北民のテレビ番組を北朝鮮側の人間がキャッチして妹との再会を餌に姉を北朝鮮に連れ戻そうと画策していたこと。 またそれに妹が素直に従っていたことが、もう一緒に暮らせないと姉に思わせた一因だったのかも知れない。 脱北作家の作品をはじめて読んだ。 以前読んだ『友』(ペク・ナムリョン著)は北朝鮮の体制側の小説だったので、市井に生きる人々が描写されているものの生活苦や飢餓は描かれていなかった(当たり前だけど) また『北朝鮮に出勤します』(キム・ミンジュ著)のように韓国人の著者が北朝鮮の人たちと決められた場所で共に働いたノンフィクションでも、その職場で働ける北朝鮮の人たちは国民の中でも恵まれている人たちなので、普通の生活は見えない。 脱北するほど苦しい思いをしたキム・ユギョン作家だから書けた小説だと思った。 これからも書いて欲しい。
- もぐもぐ羊@sleep_sheep2025年5月27日まだ読んでる「青い落ち葉」「チャン・チェンの妻」「あの日々」「将軍を愛した男」まで読んだ。 前三篇は脱北後の韓国での話でそれぞれ違う境遇で必死に韓国に渡ってとりあえず生きていける未来があった。 「将軍を愛した男」は将軍様を崇拝するあまり体調を崩した男が妻に捨てられないように嘘の密告をしたものの、その密告が嘘であると男が言っても当局は妻に手錠をかけて連れて行ってしまい、救いのなさに私が絶望した。 妻は男と姑を養うために商売をはじめてそれがうまくいっていたがその暮らしに不満がありすぎて中国で密かに買ったラジオをこっそり聞いていた。 それを誰かに密告されて連行されたのかと思ったら、自分の夫が「妻が自分を蔑ろにする(大意)」という理由で密告したことを取り調べで担当者が口を滑らせて知った時、どんなことを思ったか…気の毒でしかたない。
- もぐもぐ羊@sleep_sheep2025年5月26日読んでる九篇の短篇から「平壌からの客」「自由人」「チョン先生、ソーリー」の三つを。 「平壌からの客」は父親が脱北に失敗したせいで、母親と博士号をとって研究職に就いていた息子が田舎の農村で農民として暮らさなければならなくなったところからはじまる。 農村にいた娘が息子に心を寄せていたが、結婚したくても娘の側の親族に累が及ぶ可能性がありなかなか許しが出なかったが何年もかけて周りを説得して結婚し夫婦として暮らして還暦を越えたとこに平壌からの男が訪問してきた。 男は夫と同期で研究医をしていて、研究所に戻ってくるようにいうが夫は話をはぐらかし引き受けない。 結局、父親の兄がアメリカで資産家になっているので息子が研究者として厚遇されていることを見せて大金を出させる魂胆だった。 30年以上も研究から離れ農民としての人生を受け入れた彼はそれを見抜いていたのかもしれない。 「自由人」は身なりも雰囲気も上品な脱北者を担当した地元の刑事が彼を『先生』と呼び親しい付き合いをしていたところ、突然姿を消してしまって困惑するところから。 先生は海辺の掃除をするなどのアルバイトで月に日本円で7万円ほどの収入を得て充実した暮らしをしていたが、海辺での掃除の仕事中に遭遇した男と軽く揉めた後に行方不明に。 その男は北朝鮮の高官で脱北者でもあり、過去に『先生』の部下だったと刑事に話す。 『先生』はとても有能であったし国からも信頼されていたが、ある帰国時に行方不明になり後日遺体で発見されたという。 その後、刑事に『先生』から連絡があり家を訪ねて食事をしながら会話した中で、いくら北朝鮮で成功したとしても高級奴隷でしかなかったし、今の自由人の暮らしがとても気楽だと『先生』が言う。 どんなにお金持ちになっても独裁国家の中で心穏やかに暮らすのは難しく、高級奴隷という言葉に重みを感じた。 『チョン先生、ソーリー』 脱北して北朝鮮時代と同じく医師として働く女性チョンが、脱北を決意してから韓国にたどり着くまでの話。 ブローカーの手を借り鴨緑江を渡り延吉で叔父に会ったが、助けてもらえずわずかな人民元を渡され、朝鮮族の女と青島を目指したが途中でその女の自宅に監禁され、人身売買の危機に陥る。 しかしなんとか逃げ出すことができ青島までたどり着き韓国に渡ることができた。 その後、叔父を探しようやく見つけて会いに行った。 はじめは恨み言ばかり頭に浮かんだが、実際に会って和解し、それからは親しく付き合うようになっていった。 叔父が延吉に会いに行った時は自身の事業が失敗してお金がまったくなく、延吉までの飛行機代も借金してまかなったという話だった。
- もぐもぐ羊@sleep_sheep2025年5月24日読み始めた九つの短篇で構成されてるので一篇ずつ読むのがいいかも知れない。 解説と訳者あとがきを先に読んで、日本人の多くが「北朝鮮」と呼んでいる国には他にもさまざまな呼び名があること、南北に引き裂かれた人々のこと、また一口に「脱北」(これもいくつかの名称の種類がある)といってもルートはいくつかありどれも苦難の道であることを知った上で本編を読むことが理解の助けになるのではないかと思っている。 物語の背景を知っておくことが翻訳小説を読むコツだと思うので、解説や訳者あとがきを丁寧に書いてくれるのはとても助かる。
- nekomurice@nekomurice1232025年3月18日読み終わったドキュメンタリー「ビヨンド・ユートピア」を思い出す。命からがら脱北して、辿り着いた先でも更に過酷な試練が待ち受けるなんて…。最後のお話「赤い烙印」が1番印象的でやるせない気持ちで本を閉じた。