海がきこえる2 アイがあるから 〈新装版〉

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- 柿内正午@kakisiesta2025年8月1日読み終わったよかった。 学生の恋愛を描くフィクションというのは、作中主体の若さゆえの身動きの取れなさと視野の狭さを通じて、他者への想像力を喚起する。未熟な子供たちのストラグルによって明らかになるのは、階級やジェンダーや時代といった限界に、自分とは異なる形で直面している人の、途方もない遠さだ。出てくる大人たちもまた、まったく成熟していないのがいい。誰かを大事に思うとき、誰かをないがしろにしたり、一面的に決めつけたり、想像の節約をしなければどうにもならない瞬間というのがある。若いころの苦しさって、なによりも、自分の培ってきたものが、大事にしたい他人の生にはまったく影響しないということに打ちのめされることからくる。これまで当然だと思っていたものが、誰かにとっては信じられないくらいの特権であったり、死なないために欠くことのできない宝物が、相手にとってはとるにたらない些事であったりする。そうしたことに、誰かを好きだと思う経験によってだんだん勘づきつつも、しっかり自分の足で立つために纏わねばならない苛烈さというものがあり、その傍らにただぼんやりと佇み続けることのできる拓はとてもえらい。みんな可愛かった。