眼の冒険

10件の記録
- 勝村巌@katsumura2025年9月28日読み終わったすでに休刊となっている隔月誌『デザインの現場』にて連載されていた松田行正さんの原稿をまとめたもの。 編集や書籍デザインなどの印刷文化に携わっている諸兄には必読を強くお勧めする本だ。 書名の『眼の冒険』というだけあって、印刷される図案について、広く社会的文化的な分析を行っている。 しかも新書などのように何か大きなテーマや目的があるわけではなく、図案に関連するものであればなんでも百科事典的に取り扱うため、古今東西の様々な文化についてなにかと広く触れている感じがあり、面白い。 相似的な図版や形を世界中から集めてみると科学や歴史などに不思議な関連が現れる、という話とか、最近、映画で話題のレッドツェッペリンの4枚目のアルバムに描かれた4つのシンボルの話とか、日本の初の活版印刷機は天正遣欧少年使節が持ち帰っただとか、世界初の大学はパリ大学で、そこでは研究者はスコラと呼ばれ、主キリスト教の内容整理として分類を行なっていたため、アカデミックな研究というのはそもそも分類することであった、なんてことだったり、とにかく、なんか面白い話がてんこ盛りになっている。 もちろんフォントや図版、文字などの文脈についても大変に興味深い話がたくさん含まれているので、広く世の中のことを知りたいという人はぜひ読んでみてほしい。
- ishiguro_reads@ishiguro_reads2024年10月18日読み終わった本書は隔月誌『デザインの現場』に7年間連載された「design scape」というタイトルの原稿を再編集したものである。 かたちが似ていることをルールに、多様な図版とともに芸術作品や自然物をとりあげ、短い文章が添えられている。書評で鷲田清一氏が「図像的思考」と呼ぶこの視点は、意味を素通りして形とそれに反応する人体の関係性を純粋に捉える。 内容は多岐に渡るが、私の興味とリンクしたのは視覚的効果に対する畏怖、についてだった。ナチスのニュルンベルク党大会のフィナーレで行われた光のモニュメントが、催眠的熱狂を引き起こしたことは有名な話だ。その同じ見開きに、毎年9.11に行われるWTCの追悼の光の儀式が並んでいる。対極にある二つの儀式が相同的なイメージを共同していることは、衝撃的である。 ラグジュアリーを感じるデザインと、ロマン主義やシュプレマティズムには近いものがある。一方で、ヒトラーもまたロマン主義に惹かれていたことを本書で知った。崇高は排他に近づきうるが、祈りにもなる。意味のない形を求めても、読み取る側次第で特定の感情を引き起こしてしまうことを考えると、強い形を避けること、意味との結びつきが強い形を脱臼させて使うことの価値が再び浮上してくる。