雪のひとひら

14件の記録
- 福藻@fuku-fuku2025年2月20日読み終わったもうすぐ、大きな湖のそばに移り住む。 その湖をはじめて見たとき、海、と思った。私のよく知る海にそっくりだった。子どもの頃にほんのひと時だけ暮らした田舎町の海。穏やかで、きらきらしていて、水平線の先にかすかに対岸の気配を感じられるところがよく似ている。だからもうほとんど直感的に、この湖のそばで暮らしたいと思った。 それからは湖のことを想像してばかりいる。いつもみたいに頭の中の湖であそんでいたある日、何かのスイッチがぱちん!と入ったみたいに、急にこの本のことを思い出した。今の今までなんで一度も思い出さなかったんだろう。この物語の中で、湖は安息の象徴だった。 『雪のひとひら』は、空で生まれた雪の結晶が地上に舞い降り、やがて空に還るまでの旅路を描く物語だ。文庫本を持っていたけど一度手放してしまったので、買いなおしてすぐに読んだ。 主人公の「雪のひとひら」は、積雪の暗やみを経て川へと流れ込み、激流を乗り越え、生涯のパートナーとなる「雨のしずく」と出会う。そしてふたりは湖へと流れ着く。 川では流されることしかできなかったけれど、湖では行きたい方向に行ける。湖面をのんびりただよい疲れを癒す「雪のひとひら」に、自分を重ねた。 いつかきっと、湖の果てはやってくる。大河へと押し流され、大きなうねりの中でもがく時がくる。だからこそ、今はただ、湖の日々に集中したい。人生のご褒美みたいな時代になると信じている。