革命前夜
40件の記録
haku@itllme2025年9月28日読み終わった出会ってしまった。 小説を読み終えてこんな感覚になったのはいつぶりだろうか。 わたしはこの1冊を古本屋の隅で目に入って購入を決めた自分にありがとうと言いたい。 この物語は眞山柊史が東ドイツに音楽留学するところから始まる。 まだドイツが東と西に分けられていた時代のときの話。 わたしはこの時のことを勿論全然知らなかった。確かに学生の頃に教科書でベルリンの壁に登る人々の姿を写真で見たことはあったけれど、それだけだった。 この物語は、そのわたしの中ではたった教科書の一部分でしかなかった光景を読み終わった後、そこから沢山の視点を与え、背景を想像させた。 言葉なのに音楽が聴こえてくる。 本当に読みながらふと気づくのだ。 音楽はなっていないことに。 留学生として自分の音楽に向き合い、自分よりも才能を持つ人々と出会い、苦しみ、逃げて、それでも戦った眞山柊史の姿は今のわたしにとって人ごとではなかった。 自分の音楽を見つけた瞬間の彼を私は讃えずにいられなかった。 "僕は手を下ろし、目を閉じた。何度も深く、呼吸をする。" p.226 そして、物語に出てくる2人の秀才。 ヴェンツェルとイェンツ。 この2人の音楽への想いと国への想いが交差していくのを読み進めるたびに感じた。 自分を貫き通すことを彼らはそれぞれの立場で体現していたように思う。 それは彼らにとっては"自分の音を貫く"ということだった。 そう言った、ヴェンツェルとクリスタ。 それを体現した、イェンツとガビィ。 時代の背景も音楽のことも何一つ知らなかったけれど、読み終わった今、静かに蝋燭に焔を灯していた人々のことを思い出さずにはいられない。 そしてドレスデンの音楽大学にいた彼らが見つけていく音を想像せずにはいられない。 この作品はわたしの2025年の1冊になった。 "人はいつか必ず、戦う。破壊せねばならない。その時を迎えたと、僕はおそらく知っていたのだ。戦わなければ、平穏は手に入らないのだから。" p.327






碧の書架@Vimy2025年8月14日読み終わった積読をようやく読了。いつもながら世界観に感嘆。東ドイツと音楽を書くためにインプットした事を、一部しか出していないだろうと感じさせます。須賀しのぶさんの歴史小説はそこが好きです。奥行きがある。 主人公が日本人だから、他の国から来ている登場人物と比べて甘ちゃんに感じてしまいますが、読者が共感しやすいようにそうしているのかもしれない…シュタージのような組織の監視つきの日常なんて、ほとんどの人は体験した事がないですもんね。 音楽の話なので、様々なピアノ、バイオリン、オルガン曲が登場します。文字なのに旋律を感じる文章がさすが。 私は、もっと政治的な話も読みたかったのですが、活動家に片足突っ込んだ程度の一介の留学生が介入するのは現実的じゃないと思うし、この物語としてはこれでいいんだと思います。そう、「お前はピアノをやれ」って言ってる皆が正しいw ベルリンの壁崩壊に直接関わっていない部分や、ラストの切り取り方も、だからこの幕切れなんだなって思いました。起承転結の結ははっきりしていない感じです。この後どうしたのかな、あの人はどうなったのかな、と余韻を残すラストが好きな方が向いているかもしれません。







はる@tsukiyo_04292025年7月18日読み終わったベルリンの壁崩壊直前の東ドイツ、そしてクラシック音楽と、関心のある設定だったにも関わらず、読み始めはなかなか乗りきらず、断念しようかと何度も考えた。 序盤で主人公が「もともとラフマニノフはあまり好きではない」(P22)と、好きではない理由も含めて述べていてしょんぼりしてしまったというのもあるかもしれない。 自分の一番好きな作曲家について、そんなふうに言われるとは思っていなかったので……。 「第三章:監視者」のあたりから没頭できるようになり、特にピクニック事件あたりの展開にはハラハラさせられながら壁崩壊の瞬間を楽しみにしていたが、正直、これで終わり!?というラストだった。 『革命前夜』というタイトルだからそれはそうなのかもしれないが、不完全燃焼な感じがあった。 設定は私好みのはずなのに、心を揺さぶるものがなかった。 心をぐちゃぐちゃにされるあの感覚が、この小説では得られなかった。 ただこれは、この小説が悪いというわけではなく、今の私が欲しているものではなかったという、タイミングのミスマッチが起きてしまっただけのことなのだと思う。 素晴らしい作品であることは間違いない。 作者自身が経験していない世界をこんなにも密に描けるのか、という点は非常に驚いた。 東ドイツのヒリヒリした空気感、緊張感が伝わってきて、まるで当時の東ドイツを実際に経験しているかのような心地になった。


comi_inu@pandarabun2025年3月7日かつて読んだベルリンの壁の崩壊前夜を描いた時代小説であり、登場人物全員容疑者に見えるミステリ的要素もあり、かつ才能と才能が衝突しあう青春小説でもあり……小説を読む面白さが詰まっている作品だと思った。 もし映像化したら、シュウジの父親の遺産である協奏曲が聴いてみたい。東ドイツの寒々しい風景にバッハのゴルドベルグなんかが流れるシーンが見てみたい。濡れた石畳の道や戦災から放置されたままの瓦礫、革命に寄せる若者たちの瞳や蝋燭の火を見てみたい。 才能と自信に溢れた男ラカトシュ・ヴェンツェルは大変魅力的だ。奔放で意地悪で相手の心を折ることを屁とも思わない。そんな男が終盤かなりショッキングな展開を迎えるわけだが、ラカトシュの振る舞いは実に悪魔的だった。「赦し」をもって相手を永遠に罰するあの所業。個人的にはたまらないものがあった。 ラカトシュに対して登場人物の誰もが「やられた!」「ふざけんな!」と思っている。ラストには読者も登場人物らと同じ一員となってしまうようなオチがある。 (ぜんぶ掻っ攫っていきやがった、あの野郎!) そう思いながらも、わたしたちは項を閉じるしかない。 これはオタクの予想だが、映像化したらラカトシュは覇権をとる男になる。どこかの配給会社の目に止まってくれないかなあ。
なこ@167otogi2025年1月11日かつて読んだ冷戦下のドイツを舞台に若きピアニストの苦悩と成長が描かれる。 壮大で重厚な音楽の表現と、自由を求め、自らの音を求め、音楽に生きる人達の物語に圧倒された。 灰色の空の下で、呑まれる様な混沌と激動の焔が立つ革命前夜に、彼らの物語があった。


































