こちらあみ子 (ちくま文庫)

16件の記録
- CandidE@araxia2025年4月8日読み終わった本書は、危険だ。 私は今村夏子の小説をすでに数冊読了していて、免疫があった。もし免疫がなかったら、この世に留まっていられたか、正直怪しい。 『こちらあみ子』を読んでいる間、私は心の中で両掌を合わせ、それをただひたすら擦り合わせていた。ずっと、ずっと。祈っていたのだと思う。何を祈っていたのか? わからない。この作品世界の平和の訪れでもなく、現実世界の平和の実現でもなく、自らの心の安寧でもなく、この作品世界から逃れることでもなかった。 ただただ、祈っていた。誰に? わからない——と思っていたが、よくよく自照すれば明らかだった。神ではない、仏でもない、森羅万象でもない。神や仏や森羅万象を現出させた「何か」に祈っていたのだ。なぜ祈っていたのか、それはわからない。ただ確かなのは、『こちらあみ子』を読み、私は祈り、自らを捧げていた。魂を。すべてを。 解説の町田康はこう綴っている。「世の中で生きる人間の悲しさのすべてを感じる」 私もそう思う。 続けて、「すべての情景が意味を帯び、互いに関係し合って、世の中と世の中を生きる人間の姿をその外から描いている」 私もそう思う。 今村夏子の小説は、読むうちにこの世の外側へと繋がってしまう。それは危険だ。そこには悲しみのすべてと、その故郷がある。