神の悪手

10件の記録
橘海月@amaretto3192025年8月17日読み終わった#ミステリ時系列も登場人物もバラバラな将棋に纏わる五話。表題作「神の悪手」は、対戦相手のプロ入りがかかった対局で、自身の勝ちか保身か究極の選択を迫られるまさに詰みが見事。心打たれるのは「弱い者」で、将棋を通して被災者の、女性の置かれた状況が身に積まされる。 ミステリ好きとして、不思議な謎とその解明という点では「ミイラ」があっとなった。将棋を知らない私でもわかる不可解な状況が、別の視点からきれいに解明されるのはいつも楽しく、本を読む醍醐味だと思う。
蒼白@Cisal2241900年1月1日読み終わった読書日記気になる一節この短編集は将棋を取り巻く人と駒の話。 将棋は盤上の情報が全て与えられていて、運が入り込む余地がないと作品内でも書かれているけれど、その駒たちを動かすのは人だ。 人間の心の動きはいつも混沌に満ちている。頭では正しい道だとわかっているのにそれができない、相手のことを理解していると思ってもそれは都合のいい思い込みに過ぎない。将棋の駒の動きは、そんな自分や相手の心の内側を露わにする。 『将棋は、秩序を壊すゲームだ。 収まるべきところに収まって安定した駒たちを、一手一手、混沌へ向けて動かさなければならない。』 この一節は人生と似ている。 一つ進むたびに未来が開けていくというより、むしろなんでこんな事になったのかということのほうが多い。 今の世界を見てもそうだけど、安心•安全などどこにもなく、私たちは混沌の中で見えない誰かと戦っているかのようだ。
蒼白@Cisal2241900年1月1日読み終わった読書日記朝テレビをつけると、どのチャンネルもサッカー日本代表の活躍を絶叫のような解説とともに絶賛していた。でも、私がいつも気になるのはそれに熱狂し応援している人々の姿だ。 もちろん私は"そこ"にいないのだけど、個人や個性の素晴らしさがもてはやされるこの時代に、同じユニフォームを着用し、同じ号令を叫んで、同じ瞬間に感情を爆発させている様はいったい何なのだろうかと考えてしまう。 均質化といえばそれまでだが、人々をあのようにさせる何かがあるのは確かだろう。それはサッカーそのものの影響だけではないはずだ。このように考えてしまうのは、この小説のある一節が気に掛かっていたからだ。 『群舞においては、一人一人の踊り手が個性を出すことが許されない。たとえ誰よりも高く跳べる力を持っていようと、それを群舞の中で行えば単なる秩序の破壊なのだ。均一化は個を殺す暴力性を孕む。だが、抑制された個と個の動きを繋ぐエネルギーの流れは、決して一人では創り得ない景色を生む。』 これは将棋の駒師が、駒づくりにおけるオリジナリティについて考える一節だ。 日本代表を応援する人々が抑制された個といえるかどうかはわからない。ただ他人に本音を曝け出せる瞬間もほとんどなく、コミュニケーションでは常にコンプライアンスへ気を使わなければならないこの世界においては、個と個を繋ぐ貴重な"非日常"であり、幻想に酔える一瞬なのかもしれない。 もちろん私は"そこ"にはいないのだが。

蒼白@Cisal2241900年1月1日読み終わった心に残る一節読書日記最近AIが私の問いに全く長考しなくなった。全世界、全人類の情報を飲み込んだそれは、私の問いなどコンマ数秒で判断し解決してくれる。もはや凡人が考えつくことには、"答え"が一瞬で提示される。 『指すべき手は、わかっている。ただ頭と身体は別物なのだ。頭で決断はできても、戻れない道を進むことへの怯えは如実に身体の自由を奪う。 一手を指すまでの時間、棋士はただひたすら手を読み続けているわけではない。長考のほとんどは、結果を一身に背負う覚悟を決めるための時間なのだ。』 AIの思考の流れを見ていると、その思考方法が人間と変わらないのじゃないかと思っていた。だがこの一節は、それが間違いだったのだと気付かせてくれる。どんなに多くの手が読め天才と呼ばれるプロ棋士でも、最後の最後は人間なのだ。 そもそも私の問いは一瞬で答えが出るものだったろうか?そして"正解"などあるんだろうか? 思考の中で恐怖や葛藤、痛みがあるからこそ答えが出せない時もある。そして"間違い"を選ぶこともある。 "答え"が出てなくても一歩前に進む。"正解"じゃなくてもそれを受け入れる。それが人間であり続けるために必要なことなのかもと、今日も長考し続けている。




