フォンターネ 山小屋の生活
27件の記録
ゆい@no1sin2026年8月7日読み終わった>早くから父親の許で石積み職人として鍛えられたらしい。学校よりも現場のほうを好み、内省的な性格だった彼は、あるとき深刻な己の限界に気づいた。知っている語彙では自分の思いを表現しきれなかったのだ。 それを聞いて僕は立ち止まった。ほかには誰もいない八月末の森を二人で歩いていたときのことだ。どういうことだ?好奇心を掻き立てられた僕は訊き返した。つまりだな、レミージョが説明した。俺はずっと方言しか話してこなかった。方言ってものはな、土地や道具、作業、家屋の部分、植物や動物に関しては厳密で豊かな語彙があるのに、感情を表現しようとすると、たちまち貧困で曖味になっちまうのさ。そして、こう僕に尋ね返した。悲しいとき、方言でなんて言うか知ってるか? 「長く感じる」って言うんだ。要するに時間の経過のことだ。悲しいときには時間がちっとも過ぎないように感じるだろ? だがな、郷愁で心が痛むときだろうが、独りぼっちで寂しいときだろうが、自分の人生に嫌気が差したときだろうが、そう表現するしかないんだ……。結局レミージョは、その言葉だけでは満足できず、自分の気持ちを表現するには新しい語棄が必要だと思い立ち、それを本の頁に求めるようになった。そうしてむさぼるように本を読んだ。自分のことを語っている言葉を探すために。(P.126)




























