サキの忘れ物

20件の記録
- 読書猫@YYG_32025年5月20日読み終わった(本文抜粋) “いつも谷中さんと菊田さん親子と道が分かれる交差点を過ぎた直後に、千春はどして本を持ち帰ったのかを思い出した。まだ自分が悠太の浮気相手だと知らなかった頃、結婚して子供を産んだら、女の子なら「サキ」という名前にしたいと思っていたのだ。漢字はよく知らないからどんなのでもいい。音が大事だった。他にもいくつか候補があったけれど、「サキ」はそのリストの上の方の名前だった。 でも本を書いたのは男の人だというのが不思議だった。どうせ本は読まないけど、家に帰ったらその男の人の写真をゆっくり眺めようと思った。それでどうするということはない。自分のやることのすべてに意味なんてないのだ、とちはるは高校をやめる少し前からずっと思うようになっていた。だからきっと、何をやっても誰もまともに取り合うはずがないのだ。この本の持ち主の人もきっと。本を持って帰ったと打ち明けたところで、そうなの、とただ言って受け取るだけだろう。千春自身にも特に意図はないのだし。 まともに取り合うって、私がまともに取り合ってもらったことなんて今まで一度でもあったのかな。“(表題短編「サキの忘れ物」より) ”後ろの娘さんと話をするようになってから、お金の話ばかりしてるなと思い始めた。娘さんは、この行列に発生するお金の行き来にものすごく聡いけれども、同時に消費も厭わないようだ。娘さんが「〜が得」とか「〜すると利益が出る」という話はするけれども、「〜が好きで」購入するという話をしないことも特徴的だと思った。“(「行列」より) ”私はその時、彼には大量の情報も記録もいらないのだ、ということを何となく悟った。ガゼルと過ごす、さして多くもない時間こそが、彼には大事なものなのだ。私はそれを邪魔しないようにその場を離れた。彼はやはりガゼルを見つめていた。時間を止めてやれないものか、と私は本当に一瞬だけ、そんなくだらないことを考えた。“(「河川敷のガゼル」より) ”よく覚えているのは、ある日ミニオンの大きなぬいぐるみが、ソファと座卓の間の床にうつ伏せに倒れていた光景だった。べつにそれだけなら、そういう日もあるだろうで済むのだが、仕事が忙しくて一週間以上のぞかないでいた後にまたのぞきに行くと、同じように、ミニオンがうつ伏せに倒れていたということがあった。寸分違わず、と言うと言い過ぎかもしれないけれども、ミニオンは一週間前に見た時とほぼ同じ場所に倒れていたと思う。大丈夫か、と私は思った。それはミニオンに対してもだし、うつ伏せのミニオンを放置している住人に対してもだった。“ ”同い年ぐらいの人、としか言いようがなかった。私より年上にも、年下にも見えなかった。それで自分と同じぐらい疲れているように見えた。私は、ミニオンが倒れたままの部屋のことが頭をよぎるのを感じて、いたたまれなくなった。この人が「内」さんなんじゃないだろうか、と直感した。“ “「つまんなくなんてないですよ。社内は本当に息苦しいから、誰か違う人がそこで生活をしてるんだってだけでよかった。どんな人が住んでるんだろうってずっと考えてたけど、わからなかったです」 「私なんですね、これが」 内さんはふざけたようにそう言って、マグカップをベンチに置いた。失礼ですが、と年齢を訊くと、私より三つ年上だった。私は、もしかしたら答えてくれるのではないかと思って、ミニオンがうつぶせに倒れていた件についてたずねてみた。ずっとうつぶせだったのかと。 「あれね。たぶん当時付き合ってた人と別れたばっかりだったんだけど、その人にもらったものだから、もう持ち上げることすらできなくてね」 あんな軽いものなのに、腕が拒否する感じ、わかりますか? と訊かれて、私はうなずいた。おそらく四週間はあのまま倒れていたと聞いて、思ったより期間が長くて驚いた。“ (「隣のビル」より)
- Hoshiduru@lilimoe2025年4月15日読んでる「ペチュニア・フォールを知る二十の名所」、まだ途中だけどディズニーリゾートのBGSみたいで、BGS好きでガイドブック読み込んでた幼い頃の自分が蘇る、非常にわくわくする
- 涼元風花@suzu_fuuka2025年1月30日読み終わった淡々とした語りの中で、わかりやすいドラマティックな展開ではなく、状況や登場人物の心情がじわじわと変化していく描写がたまらん…!となった。表題作とても好きだった。