聖母の贈り物
18件の記録
Moonflower@Moonflower02262026年2月18日読み終わったかつて読んだ「マティルダのイングランド 三、客間」 【感想】 三部作その三。マティルダは48歳になっている。 戦後、チャラコム屋敷はある富豪に買い取られ、マティルダは周囲の反対を押し切ってその一族に嫁ぐ。すべては屋敷と老嬢の思い出のためだった。 本書中でもっとも怖い作品かと思う。いわゆる「信用できない語り手」による語り/騙りであり、それゆえにニューロティックなホラー感が醸される。ただし、実際のところマティルダと夫の間に何があったか/なかったかは曖昧であり、その宙吊り具合が絶妙。 三部作を通じて、マティルダにとって屋敷/老嬢の「物語」がいかに大きかったか/致命的だったかが描かれている。ひとの「世界観」の深化を辿った連作とも言える。 【全体の感想】 12年ぶりくらいでの再読。あらためてトレヴァーのうまさに唸らされっぱなしだった。 どの短編も概ね「何かを失ったひと」(もしくは「失うとは何か」)を描いた作品と言える。ゆえに後味は苦く、ときに胸に痛みを覚えるほど。それだけ登場人物に血が通っている証左であり、「人間が描けている」(嫌な言い方だが)とはまさにこのことだろう。
Moonflower@Moonflower02262026年2月17日読んでるかつて読んだ「マティルダのイングランド 一、テニスコート」 【感想】 三部作その一。マティルダはまだ9歳のこども。 近所のチャラコム屋敷に住む老嬢と三人兄妹の交流が深まり、かつて開かれていたようなテニスパーティーが開催される。人生最良の一日はしかし、その終わりに土足で踏み込んできた「戦争」の記憶とともに刻まれるのだった。 本書中でもっとも美しい一作では。すべてが光り輝いているからこそ、最後に立ち込める暗雲の黒さが際立つ。 「マティルダのイングランド 二、サマーハウス」 【感想】 三部作その二。マティルダは11歳。 父も兄も召集されてしまい、あらゆることが変わってしまった。マティルダはかつて老嬢が言っていた「冷酷」の意味を身をもって知ることになる。 戦中の話なのでどうしてもつらいものになる。それでも屋敷やその周辺の自然描写などが挟まれることで、リアルなのにファンタジックな雰囲気が微かに漂っており、この土地/屋敷こそが真の主役であると暗に伝えてくる。
Moonflower@Moonflower02262026年2月16日読んでるかつて読んだ「丘を耕す独り身の男たち」 【感想】 父が亡くなり、兄弟姉妹が母のもとに集まる。末の弟が牧場を継ぐ。末の弟は結婚をしたいがうまくいかない。それだけの話なのに、その土地における神話(いや、叙事詩か?)のように思えてくる。
Moonflower@Moonflower02262026年2月15日読んでるかつて読んだ「アイルランド便り」 【感想】 お屋敷に仕える姉弟から見た、主人一家とその従者たちの群像劇。本書中でもっともユーモアとアイロニーが強い(きつい)かもしれない。それもこれも姉弟の人間観察/描写ゆえ。もちろん、この二人も作者にこれでもかと観察/描写されており、そこに黒い笑いがある。 「エルサレムに死す」 【感想】 成功した兄が、実家で燻る弟をエルサレムに連れて行くも、母急逝の報が入る。兄弟母と全員が完璧にすれ違っており、その酷薄さがそれゆえにいかにも真実めいている。読むたびに肩入れする人物が変わりそう。前回は弟、今回は兄だった。 「雨上がり」 【感想】 失恋した女性はいかにして自分を新たに見出したか。本書の掉尾を飾るに相応しい、清々しさのある一作。逆に言うと、希望が描かれているのは本作だけということでもある。
Moonflower@Moonflower02262026年2月13日読んでるかつて読んだ「ミス・エルヴィラ・トレムレット、享年十八歳」 【感想】 少年とそのイマジナリーフレンドを、家族史とからめつつ語っていく。ニューロティックなホラーになりそうでならないのは、あくまでも少年の語りであるためだろう。苦さよりも切なさの方が勝るか。 「聖母の贈り物」 【感想】 聖母に翻弄された修道僧の一生と言えなくもないが、それでもというかそれゆえに、大きな恩寵のようなものをラストに覚える。アイルランドの峻厳な自然をそこかしこに感じられる点も大きい。
Moonflower@Moonflower02262026年2月11日読み始めたかつて読んだ「トリッジ」 【感想】 仲良し悪ガキ三人組が長じて大人になり、かつて散々バカにしていたトリッジに手痛いしっぺ返しを喰らう。勧善懲悪的な因果応報譚と言えなくもないが、痛快さよりも不気味な印象が勝る。 「こわれた家庭」 【感想】 老婦人の満ち足りた住環境を、善意の人々が決定的に破壊してしまう。描かれるのは世代間対立でも老人への蔑みでもなく、徹頭徹尾ディスコミュニケーションであり、ひとは他人のことなど微塵も思っていない(自分の見方でしか見ない)という身も蓋もない事実なのだった。 ふとピンチョンの「エントロピー」を思い出した。ある種の「熱死」と言えるかもしれない。 「イエスタデイの恋人たち」 【感想】 薄給の中年男が初心な娘と不倫を重ねる。それだけの話なのに、ホテルのバスルームという夢空間を設けることでロマンティックな一作となっているのだからすごい。映画化したらノスタルジックな佳作になりそう。
朝稲 青沙@aosaaosayomuyomu2026年1月21日読んでるまだ読んでる二つ目の短編『こわれた家庭』を読んだら、カタツムリに憧れるくらい家というものへの所有欲が強い私には辛い物語だった。 映画『自転車泥棒』のやるせなさに似てる。 もちろん主人公は想像上の人物ではあるのだろうけど、それでもそんなことは関係なく、この人の思いを屠るためこの物語が書かれたんだろうなと思った。
らくだ@camel8262025年11月2日読んでる@ 図書館「アイルランド便り」まで2篇読む。上手いよな〜。実に自然だ。私のような素人の目にはわからないテクニックが張り巡らされ、観察された人々の仕草が反映されているんだろうなと思った。これで半分。濃厚…!

鳥澤光@hikari4132025年9月28日読み終わった読む本読んだ本2025《父は軍服を着たままだった。食卓の上には、大きな茶色のティーポット、お茶の葉の滓が残るふたつのティーカップ、パン切り台の上に載ったパン、それにバターとブラックベリーのジャム。父がフライを食べたお皿もあって、卵の黄身のあとが残っていた。》「マティルダのイングランド」 見たことのない光景を懐かしく思い出しているような心地がする。キッチンでおしゃべりする夫婦のどちらにも、それを見る娘にも、もっといえばテーブルやバターナイフにも滑りこんで、音や光や力が加えられるのを感じとるような、没入とは違う心の近づきかたをする。みずみずしい描写が手を引っぱって読者に小説を体感させるっていう、これは魔法かな。 「短篇小説の快楽」というシリーズ名そのままの、愉悦の嵐のごとき作品集。「マティルダのイングランド」と「アイルランド便り」を読むと自分の心がどこにあるのかわからなくなる。言葉による表現の果てしなさにくらくらする。「マティルダのイングランド」は人生でも指折りの、もしかしたら一番好きな短篇小説になっていくのかもしれない。
らくだ@camel8262025年5月2日読んでる@ 自宅「こわれた家庭」を読了。か、悲しすぎる。独善的な地域の人々に慎ましい暮らしを壊されぬよう努めて気丈に振る舞う老婦人。とても悲しい作品。でも引き込まれた。

