サラバ!(上)
84件の記録
- ざわ@17_36_722026年4月2日読み終わった『漁港の肉子ちゃん』が読みにくく避けていた西加奈子だったが、こちらは評判通りの面白さ。 クセが強いのは姉だけと思いきや、父も母も「僕」もなかなかの曲者だ。 ヤコブとの蜜月も少年期の空気感をすごく細かく描いている。ホモソーシャルを経てヘテロソーシャルになるという過程がよくわかる。中巻も楽しみ。
綾鷹@ayataka2026年3月25日1977年5月、圷歩は、イランで生まれた。 父の海外赴任先だ。チャーミングな母、変わり者の姉も一緒だった。 イラン革命のあと、しばらく大阪に住んだ彼は小学生になり、今度はエジプトへ向かう。 後の人生に大きな影響を与える、ある出来事が待ち受けている事も知らずに――。 ・僕はこの世界に、左足から登場した。 母の体外にそっと、本当にそっと左足を突き出して、ついでおずおずと、右足を出したそうだ。 両足を出してから、速やかに全身を現すことはなかった。しばらくその状態でいたのは、おそらく、新しい空気との距離を、測っていたのだろう。医師が、僕の腹をしっかり掴んでから初めて、安心したように全身を現したのだそうだ。それから、ひくひくと体を震わせ、皆が少し心配する頃になってやっと、僕は泣き出したのだった。 とても僕らしい、登場の仕方だと思う。 ・「彼ら」は、僕のように卑屈に、ニヤニヤと笑っていた。僕はその笑顔を見るのが嫌だった。唾を吐きかけられたほうが、まだましだった。でもそんなことをしたら、母がどんなに怒るか、僕には想像も出来なかった。僕はちらちらと、「彼ら」を振り返った。 「彼ら」の中に、ひとりだけ笑っていない子供がいた。5人の中で、一番小さな男の子だった。 僕はその子と目が合うと、咄嗟に笑ってしまった。 母に手を引かれながら、必死で笑顔を作ったのだった。それは、僕なりの「ごめんなさい」なのかもしれなかったし、そうではないのかもしれなかった。ただ分かっていたのは、僕の笑顔が、今まで作ったどの笑顔よりも、卑屈なものだということだった。 その子は、僕に向かって唾を吐いた。 白い泡が、べしゃっと、地面を汚した。 ニヤニヤと笑っている男の子たちの中、その子だけが、怒りに燃えていた。 僕はショックを受けた。数秒前は、「唾を吐きかけてくれた方がまし」、そう思っていたのに、実際そうされたときのショックは、計り知れなかった。地面に吐かれた白い睡は、僕を直接汚すよりも強く、僕を傷つけたのだ。 母のやったことは間違っている。それは確かだ。 だが僕は、母のやったことに、ほとんど感動すら覚えていた。 僕だって、本当はそう思っていた。「汚い」と。「触るな」と。でも、僕は、「そんなこと、決して思ってはいけない」と思っていた。誰に教わったわけでもないのに、僕はエジプシャンの子を、とりわけ学校に行くことが出来ない、物乞い同然の生活を送っている「彼ら」を、決して見下してはいけないと思っていた。 あなたたちに対して悪意はない、あなたたちのことを見下してはいない、そう言えない代わりに、僕は笑っていた。そして「彼ら」が、僕の笑顔に喜んで近づいてくると、恐怖で震えた。心の中で「こっちへ来るな」、そう叫んでいた。 僕に唾を吐いたあの子は、僕の笑いの意味に、気づいていたのだ。 僕が結局、彼らを下に見ていたことに。 扱いづらい、僕たちとはレベルの違う人間だと、認識していたことに。 母のやり方は絶対に間違っていたが、間違っている分、真実だった。己を貶める行為をすることで、母は彼らと同じ地平に立っていた。「そんなとと、してはいけないことだ」「人間として下劣だに、そう料弾されるやり方で、母は叫んだ。 でも僕は、安全な場所で、誰にも石を投げられない場所で笑顔を作り、しかし圧倒的に彼らを見下していたのだ。母よりも、深いところで。 僕は自分がしていたことが、恥ずかしくて仕方がなかった。一度そう思うと、父のおかげで大きな家に住んでいること、学校に通っていること、すべてのことが恥ずかしく思えてきた。 僕と「彼ら」とに、どのような違いがあるのだろう。 どのような違いが、この現実を生んでいるのだろう。 カイロにいる間、母の無邪気さ、素直さは、ずっと変わることがなかったが、僕が「彼ら」に対して思う、この後ろめたさ、羞恥心も、決して消えることはなかった。 僕は毎日、「彼ら」に会わないことを祈った。そしてその祈りは、絶対に叶えられなかった。 僕は毎日、誰かしらの「彼ら」に会い、そのたび卑屈に笑い続けたのだった。 ・僕はそのとき、猛烈に恥ずかしくなった。そして、ヤコブへの愛情で胸が潰れそうになった。 僕は、自分がどれほどヤコブのことを愛しているか、心から尊敬しているか、伝えたかった。 その気持ちだけは嘘じゃないと、分かってほしかった。 僕たちは、「エジプシャン」と「日本人」だが、そしてその「ふたつ」の間には隔たりがあるかもしれないが、僕らに関しては、僕らに関してだけは、それを越えた強い何かがあるのだと、言いたかった。だが言えなかった。少なくとも、それを言うのは僕ではない、そう思った。 溢れそうな感情を言葉にする代わりに、僕は手をヤコブの肩に乗せた。僕はすべての思いを掌に委ねた。ヤコブに伝わりますようにと、願った。 ヤコブは僕の手を握った。僕のより大きなその手は、やはり温かく、湿っていた。ヤコブは、こう言った。 「サラバ。」 その言葉だけで、僕は救われた。 僕らは「サラバ」で繋がっている。僕らの間には、何の隔たりもない、僕らはひとつだ。そう、思うことが出来た。 ・急な訪問だったにもかかわらず、お母さんは僕の体を抱きしめ、大きな声で何か言った。僕にはヤコブ以外の言葉は分からなかった。妹ふたりは、そばで恥ずかしそうに笑っていた。 お母さんは、とても太っていた。美人かどうかなんて言えるような風貌ではなかった。ヤコブの妹ふたりもまるまると太り、僕はヤコブの体格の良さの理由が分かったような気がした。 ヤコブは家族に囲まれて、嬉しそうだった。 家族はヤコブを愛していた。それは僕にも分かった。そしてヤコブは、その家族を誇りに思っていた。自分の母親を心から美人だと思っていたし、この場にいないお父さんのことを、何度も何度も褒めた。 ホテルで会ったとき、目を逸らしたのは、差恥からではなかったのだと、そのとき気づいた。 ヤコブは僕と母に、ただ気を使っただけだったのだ。もしかしたら、ホテルの従業員に、ホテルの客を見てはいけないと、言われていたのかもしれなかった。僕は自分の卑しい思いに、また打ちのめされた。そして同時に、ヤコブをますます愛しているという実感を得た。自分の仕事を、地下の家を恥じないヤコブを、僕は眩しく思った。 ・僕にはヤコブの言葉は分かったが、エジプシャンの言葉は相変わらず理解出来なかった。でもそれはきっと、いつも僕たちに浴びせられる、他愛ない野次と同じだろうと思っていたし、普段のヤコブは、そのような心ない野次程度で、怒りを露にするような男ではなかった。 だが、そのときヤコブは、そばにあった空き缶を拾い、「彼ら」に投げつけたのだった。僕は心から驚いた。そんなヤコブを見たのは、もちろん初めてのことだったのだ。 「彼ら」は逃げたが、ヤコブは怒りが収まらないらしく、目についたものを次々と、もう逃げていった「彼ら」にぶつけていた。 しばらくして、我に返ったヤコブは、僕に詫びた。とても、恥ずかしそうだったが、同時に、まだ怒りが収まってもいないようだった。 「大切なものを、馬鹿にされたんだ。」 ヤコブの声は、低く、乾いていた。僕は静かに、ヤコブの肩を叩いた。 「サラバ。」 ヤコブは、僕を見た。その目が安堵で濡れていた。 僕たちは、ほとんどその言葉にすがるようになっていた。 「サラバ。」 ヤコブは、肩に置いた僕の手を握った。そしてまた、あの高貴な笑顔に戻った。 「サラバ!」 それは、ほとんど魔法の言葉だった。 ・「逃げ場みたいなもんやったんかも」 あるとき、どうしてそんなに詳しくなったのか、と訊いた僕に、須玖は答えた。 「家のことは嫌いやなかったけど、父親が酒飲んだら荒れるタイプで。兄ちゃんとようぼこぼこ殴りあってたし、姉ちゃんもすぐグレて。けっこう家の中が殺伐としとったんやけど、そんな中で本読んでたら、なんやろう、この世の中にこんな世界があるんか、て驚いて。家の中で本開いてるだけやのに、一気に別の世界に行けるやん」 須玖はそう言いながら、手に持っていた文庫を、掌でぽんぽんと叩いた。チャールズ・ディクンズの『大いなる遺産」だった。 「小説だけやない。普楽も、映画もそうやねん」須玖は、文庫本を愛おしそうに見ていた。 「今俺がおる世界以外にも、世界があるって思える。」 須玖のその言葉は、のちの僕に影響を与えた。とても大きな。 でも、その時の僕は、須玖がなぜ自分の知識をひけらかさなかったのか、その理由を目の当たりにしただけだった。 須玖にとって映画や音楽、小説は、知識ではなかった。それも、自分を飾るためのそれではなかった。須玖にとってそれらは、よりどころだった。もっともっと、切実なものだった。だから誰かにひけらかす必要はなかった。ただそれらと共にあるだけで、須玖はわれたのだ。 だから須玖は、夏枝おばさんに、とてもよく似ていた。
いぬを@_____on7222026年2月4日読み終わった借りてきた主人公「圷歩」の人生を描く大長編小説。 上巻では彼の幼少期から少年期の出来事が中心に展開します。物語は歩自身の語りで進み、家族との関係や海外での暮らしを通じて、彼がどのように成長していくかが描かれています。 歩の一人称視点から描かれる物語はディティールがあり、情景が浮かぶので、非常に読みやすいです。 生まれや立場、文化の違いによる戸惑い。 空気を読むこと。 家族や友達との人間関係がリアルに伝わってくる作品だと思いました。







- がぶりえら@nohooon_hon2026年1月31日読み終わった借りてきたおすすめ@ 鳴門市登場人物が多い。が、みんなキャラが濃いので覚えやすいし、描き方が上手いのでうざくない。 上は主人公が産まれてから小学生までの話だった。 旅行の移動中に読もうと持参したが、飛行機も車も揺れて全然読めなかったのも良い思い出•••

冷蔵庫ママ@suzuki-jg22026年1月18日読み終わった続きが気になる。 私自身も引っ越し多め転校多めな方だったから、主人公の、引越しした次の日から全てが自分の近所だと感じると心強くなる感じ、すごく当時の気持ちを思い出して、あ〜!だとなった。 はじめ登場人物多すぎてゆっくりペースだったけど展開が気になってスラスラ読めそう、な予感。

おでんち@odenchi2025年10月6日読み終わった歩くんの生まれ落ちたその時からの物語 ワールドワイドな世界が広がり想像力を掻き立てられる 海外赴任者の家族っていうものは経験がないのだが、こんな感じの生活してたのか~と知らない世界を知った感 お姉ちゃんを筆頭にものすごいクセツヨ家族の中で歩くんは存在を消すことに長けているというのが可哀想というかw 存在は消せても思うことがないワケではない 言葉を超越した大事な存在であるヤコブと交わす「サラバ」は単なる別れの言葉ではない しかし本当に別れる時がやってきてしまう これから歩くんはどうなるのだろう 気になる~!


ロッタ@rotta_yomu2025年9月30日読み終わった文庫3冊の上・中・下巻という分厚さにおののいていたけれど、思い切って読み始めてみれば、「長いなあ、、、」なんて思う暇もなく、登場人物たちの魅力と西加奈子の気迫にぐいぐいと引き込まれてしまう。 この小説の主人公は、圷歩(あくつあゆむ)。 成長した歩が過去を振り返るという構成で、上巻では彼の出生〜エジプトでの小学生時代が描かれている。 歩は考える。 駐在員家庭で恵まれた自分と、貧しいエジプト人との違いはなんなのだろう。 「僕と『彼ら』との間に、どのような違いがあるのだろう」 「どのような違いが、この差を生んでいるのだろう」 歩は思う。 貧しい家庭の少年ヤコブはなぜ堂々として気品あるまっすぐな立ち振る舞いができるのだろう。 「ヤコブは恥じていない」 西加奈子の小説は、いつもわたしに勇気をくれる。 こころを満たして恥じない自分でありたい。 力づよくそう思って、中巻へ!



anko@books_anko2025年5月9日読み終わった圷家の家族の物語。父の海外赴任先であるイランやエジプトで過ごす日々。問題行動ばかりの変わった姉と両親の関係。そんな家族の中で育った僕。上巻だけでもかなりの濃さです。おもしろくて一気に読みました。



とーひろ@kajihirorz13162025年4月12日読み終わった男の子の一人称目線で話が続いてくる。 そんな風になる?うまく行きすぎな部分も多い。 あと、これは後になって分かるがという記述もめちゃ多い。 だんだん面白くなっていく。最後は下巻が楽しみになっている。
夏しい子@natusiiko2025年4月6日かつて読んだ上は何と言ってもクレヨンの話が印象的だった。 そしてカイロに行った後半ぐらいから、歩に身近な人間関係のゴタゴタから逃げて耳を塞ぎたがる傾向が見えてきた。 こういった部分は多くの男性に身に覚えがあり、読むと痛いのでは無いだろうか。 共感してほしい、分かってほしい女である私は歩のそんな部分を読みながらイライラしたが 歩だけでなく父親の夫としての態度も良いとは思えないのにこの物語では理解してあげなければいけないような、そんな同情にも似た気持ちが沸きながら読み進めていた。
pamo@pamo2025年3月17日読み終わった感想魂が震える長編小説。エジプトで幼少期を暮らした主人公の少年の、現地の少年との友情、日本での思春期、大人になってからの苦悩。 注目を集めたくて変人ぶってしまう姉。「写真を撮ってもらった時、「次は私が撮るね」とは決して言わないタイプ」の母。近所の聞き上手なおばあさんが、いつしか独自の宗教と化していく様。青年期までは甘いマスクで苦労知らずだった主人公が、アレによって転落していく様。 どれもぶっ飛んだ設定のようでいて、自分や周りの人にすごくリンクする。登場人物たちがどれも愛おしくなってしまう。 何度読み返しても胸が熱くなる。ままならない人生を苦しみながら歩んでいく現代人の、指針のような、お守りのような、旗のような作品。
西村創一朗@souta69542025年3月5日読み終わった読了! --- サラバ!それは別れの言葉であり、再会を誓う言葉であり、魔法の言葉でもある。主人公のモノローグ・回想形式でひたすら淡々と語られてゆくスタイルに最初は戸惑いを覚えたものの、慣れてくるとむしろ心地よい。 エジプトに引っ越ししてからの展開はワクワクしたし、ヤコブとの出会いややりとりもニヤニヤしてしまった。それだけに突然に訪れた別れが物悲しかった。親の転勤や離婚という、子どもにはどうすることもできない要因でもたらされる別れは切ないが、だからこそ出会えた人もいる。さあ、これからどう展開していくのか、中巻が楽しみ。
ゆこはむ@yukoham1900年1月1日読み終わった面白かった。日本とエジプトが舞台。 美少年からスタートして、青年期で自信喪失して、 最終的に、自信を取り戻したのかな。 私もなんだか勇気づけられたラストだった。










































