穏やかな死者たち

6件の記録
- 𝕥𝕦𝕞𝕦𝕘𝕦@tumugu2025年1月31日読み終わった最初の2つからいきなりシャーリイ・ジャクスンみあふれててヌハハってなった シャーリイ・ジャクスンの本の頁の隙間から滴る毒を垂らした水は一瞬でただの透明な水に戻ったように見えるけど希釈した悪意は決してもとには戻せないみたいな感じ ◾️エリザベス・ハンド「所有者直販物件」 60代のなかよし女性3人がたまたま見つけたすてきな空き家に夜こっそり忍び込んでカンテラやキャンドルの灯りだけでサンドイッチやポテチ食べてワイン飲んで一夜を明かすという話なんだけど、まあやってることは住居侵入なんだけど晩年の女友だち3人でやる背徳感とわくわく感に加えてシャーリィ・ジャクスンの『丘の屋敷』をしっかりオマージュしててすごいよかった ▪️カッサンドラ・コー「穏やかな死者たち」 なにも解決せず、原因もわからず、犯人が捕まるわけでもなく、ただ結果だけがそこにある 場に残された死体たちはどこかほっとしたような顔をしているようにも見える(ただそれは「そう見える」という主観だけで実際に死んだ人たちが穏やかだったのかは永遠にわからない) 怪奇現象は起こらないタイプの話だけどこのしんとした怖さと、移り住んできた「まだ村の一員ではない」と看做された者への偏見の描き方が『ずっとお城で暮らしてる』のブラックウッド家に対する街の人間たちっぽさがある ▪️スティーヴン・グレアム・ジョーンズ「精錬所への道」 シャーリイ・ジャクスンっぽいかと言われるとあんまりそうは思わないけどこれはこれでなんかすごい味する! まったくうまくいかなかったスタンドバイミーというか、一回きりしかなく巻き戻しもできず、それ故に"3人"だった記憶はナタでばつんと切り落としたみたいに途切れる『バタフライ・エフェクト』みたいな味…(巻き戻しができないのはもうバタフライエフェクトではないんだけど読後感がなんとなく近い気がした) 読んでる途中からもしかしてカーラはもう…?ていう気はうすうすしていたんだけど、ラストまで読み終わった直後よりすこし時間を置いたいまのほうがじわじわつらい 遅効性の毒… ジェンセンがカーラとモートを乗せてビールを飲みながらライトをつけたり消したりして運転して逃げたかったのは警察ではなく、ふたりがもうこの世にはいないっていう苛烈すぎる現実からだったのかな わたしはこういう、置いて行かれてしまった者の話にものすごく弱い… 大人になったジェンセンが精錬所への道(おそらく死路)へ自ら歩み寄って見たのが、かつてのカーラがビールを掲げて挨拶して、モートが気まずそうにおなじ仕草をしてみせる姿で、おそらく残された彼が記憶の中からその姿を何度も何度も想像して、望んだことだったんじゃないかと思うと本当につらい ▪️ジェフリー・フォード「柵の出入り口」 この郷愁を誘うような出だしからここまで飛躍することって…あるんだ!?ていう驚きと、シャーリイ・ジャクスンのトリビュートを謳ってここまでさわやかに仕上げられるんだ!?ていう読み応えだった 隣の家に住んでいた寡黙な妻(だと思われていた人)が、夫の死後、晩年からめきめき人生を謳歌しているのがすごいよかった 主人公に「なんで画家のダリに外見を似せているのですか?」て容姿に言及されて「わたしをばかにするのはやめなさい」ってはっきり言うのもよかったな… ▪️レアード・バロン「抜き足差し足」 いままで読んできた怪奇幻想小説の中でもぶっちぎりで怖い たぶん系統的には『ヘレディタリー継承』に近いんじゃないかって気がする ヘレディタリーまだ観れてないので(だいたいの内容だけ知ってる)ほんとうに似てるかどうかヘレディタリーを観て確かめたいけどちょっと自信ない 映像で攻めてくるタイプの怪奇があまり得意でないので…でもアリ・アスターはこの話好きだと思う ちょっとしたいたずらがきっかけで子どもの頃父親にされていたいたずら(そーっと抜き足差し足で近寄ってきて脅かされる系)を突然思い出して…ていう話なんだけど、この手の「見る人によっては他愛ないいたずら」のように見えてその実加害性を帯びすぎでは?こんなことしてくる親無理すぎでは?て気持ちのまま読んでたけど、実際その加害性は本物でしたって話でとにかくこの厭さと怖さの混ざり具合がすごい アリ・アスターは好きでしょ、こういう加害性を帯びた肉親からその行為を浴びるしかない子どもの話… 2024/1/31、最後のケリー・リンク「スキンダーのヴェール」まですべて読み終わりました 面白かったな〜!わりとヴィクトリア朝あたりの怪奇幻想小説ばかり読んでたので、登場人物が特に理由なくさらっとマイノリティだったり同性のパートナーがいたりがいくつか入っていたのもよかった 全篇読んで一番怖かったのはレアード・バロン「抜き足差し足」でした 本当に怖くてよくできていてよかった