
翠
@noctambulist
- 2026年7月9日
穏やかな死者たちケリー・リンク,ジョイス・キャロル・オーツ他,渡辺庸子、市田泉他読み終わった「精錬所への道」の焼けつくような郷愁に囚われ、「抜き足差し足」で恐怖のあまり凍りつき、「スキンダーのヴェール」の白昼夢めいた読後感にぼんやりと浸る。趣旨から外れているものもいくつか見受けられるが、頗る面白いトリビュート・アンソロジーだった。 - 2026年7月4日
淑やかな悪夢シンシア・アスキス他,倉阪鬼一郎,南條竹則,西崎憲読み終わった日本の妖怪譚に近しいものから、情念がたちのぼる奇談まで、十二の怪談がおさめられた短篇集。明晰な思考を保ったまま、精神だけが捩れてゆく「黄色い壁紙」に戦慄しつつ、抑圧の結果として自然なことにも思えて、自分でも怖いほど冷静に受けとめてしまった。 - 2026年6月29日
ハウスメイドフリーダ・マクファデン,高橋知子読み終わった惹句の通り、エンターテインメントに振り切った小説だった。刺激的な設定、明快なプロット、軽快な文体と、高いリーダビリティが人気の所以だろうか。かなり大味ではあるけれど、暴力が連鎖して物語を形づくっているあたりは生々しい質感のある作品だと思う。 - 2026年6月24日
レテの汀雛倉さりえ読み終わった向き合うとはどういうことなのか。問い続けても、答えは得られない。罪は雪がれず、傷も癒えない。しかし、暗がりで震えている自分を見つけだして、寄り添うことはできる。深思こそが、みずからの在りようを変えてゆく。示された希望をずっと覚えていたい。 - 2026年6月19日
須永朝彦小説選山尾悠子,須永朝彦読み終わったなんとか読み通してようやく、すべては書影そのままの、自己愛の表出だったのかと合点がいった。美への渇求には共鳴するものの、いささか陶酔が過ぎるように思う。内省があまり窺えない作品は、どれほどの美文で綴られていようと、好きになれない。 - 2026年6月14日
ラクロワ姉妹ジョルジュ・シムノン,伊藤直子,瀬名秀明読み終わった憎みあうことを生き甲斐とする、レオポルディーヌとマチルド。苦痛を知らしめようとして活気づく、エマニュエルとジュヌヴィエーヴ。皆に目を背けたくなるような嫌らしさがある。粗野なソフィーや粗暴なジャックが正常に見えてくるのだから、怖ろしい小説だ。 - 2026年6月9日
昨日の肉は今日の豆日下三蔵,皆川博子読み終わった世界とうちとける術をもたず、性とは関わりのない官能をもてあますばかりの、あどけない童女たち……透き通った狂気を捉えた「夏を病む」と「人形の家」が、ひときわ素晴らしい。肌が粟立つほど恐ろしく、そして悽愴にも感じられる幕切れに、溜息がこぼれた。 - 2026年6月4日
ハムネットマギー・オファーレル,小竹由美子読み終わった悪妻と貶められてきた女が、息を吹き返す。鷹匠の技術と薬草の知識をもち、独自の視点で物事を見分ける、並外れたひととして。イマジネーションの力で過去に手を伸べる試みはもちろん、この作品そのものが“物語の作用”を示していることにも、胸をうたれた。 - 2026年5月30日
溺れる少女ケイトリン・R・キアナン,鯨井久志読み終わった“狂えし女たち”につらなるインディアが著した回想録は、虚偽と矛盾と夥しい引用から成る厄介な代物だが、気づけば混迷をきわめる語りに夢中になっていた。物語を取り込んだのか、はたまた取り込まれたのか。何が事実で、何を真実とするのか。亡霊はすぐ傍に。 - 2026年5月25日
最後の楽園: 服部まゆみ全短編集服部まゆみ読み終わった美術品にまつわる怪異譚である「骨」と「雛」、夫の愛人を異様なほど思い遣っていた女の死をきっかけに事件が起こる「桜」に心を射抜かれた。少年または青年の初心で多感な内面を綴った、どこかいたぶるような筆致から、著者の嗜好と美学が垣間見える。 - 2026年5月18日
spring恩田陸読み終わったなんて凄まじいのだろう。身も心もささげる──それを叶えられるだけの魂を、決して滅ぼされないものを宿して、生きてゆくということは。懊悩せず、孤独でもなく、しかし至って人間らしい萬春に、感覚を拡張されるような、解放感に満ちた読書体験になった。 - 2026年5月15日
初夏ものがたり山尾悠子,酒井駒子読み終わった故人を一夜だけこの世に呼び戻し、縁ある者との再会を仲立ちする謎のビジネスマンを中心に、静穏ながら異界めいた初夏のひとときが紡がれる。近頃はもう真夏の剣呑な気配がしていて、風情を感じる余裕もないので、尚のこと物語の美しさに救われる心地がした。 - 2026年5月12日
秘密 下ケイト・モートン,青木純子読み終わった物語は、あるべき形におさまったのかもしれない。けれど、実現し得ない“物語”をいっぱいに抱えていたドロシーが不憫でならず、どうしてもそちらへ心を寄せてしまう。幸せになりたい、そう希ったことのない恵まれた身では、彼女を理解できるはずはないのに。 - 2026年5月9日
秘密 上ケイト・モートン,青木純子読み終わった第二次世界大戦のさなかに青春時代を過ごし、のちに或る男を殺めたドロシーは、いまや年老いて病に伏している。一葉の写真をきっかけに繙かれる過去は、恋と夢にあふれているが、そのきらめきはどこか不穏なものだ。心がはりつめるのを感じながら読んだ。 - 2026年5月6日
処刑人 (創元推理文庫)シャーリイ・ジャクスン読み終わったジャクスンがえがく少女たちは、皆がそれぞれに内なる世界をもつ。時に外なる世界を脅かし、また脅かされもする。そんな愛すべき魔女たちの一員でありつつも、痛めつけられるのみだったナタリーが、こんなにも清々しい結末を手にするとは。嬉しい驚きだった。 - 2026年5月1日
ねじの回転ヘンリー・ジェイムズ,南條竹則,坂本あおい読み終わった再読幽霊の解釈はさておき、かつては家庭教師の決めつけがましい態度や兄妹への執着ぶり、昂奮した語り口を、恐れながらも愉しんでいたような気がする。あらためて読んでみると、周囲と認識を共有できずに孤立してゆく姿がなんとも痛ましく、厭な後味が残った。 - 2026年4月24日
蛇行する川のほとり恩田陸読み終わった死者を心に住まわせて生きることの、果てしなく、あまやかな痛み。神殿を築くように少女時代をえがく作品は、徐々に嗜好に合わなくなってきているのだけれど、やはり大人になってから読んで良かったと思う。羨みも苛立ちもせずに、物語だけを追えるから。 - 2026年4月20日
ののはな通信三浦しをん読み終わった野々原茜と牧田はな、横浜のミッションスクールで出会ったふたりの二十七年にもわたる交流が、往復書簡の形式で綴られる。熱情を抱くにも曝けだすにも強さが必要で、それを得難いものだと思うが、恋愛を友情より高く位置づける考えには首を傾げてしまう。 - 2026年4月16日
昏き目の暗殺者 下マーガレット・アトウッド,鴻巣友季子読み終わった駆り立てられるように頁を繰った。アイリスが書いた、或いは書かなかったことは、刃となって彼女自身をも苛んだ。それでも、書き残すという行為にはかすかな希望が込められている。言葉のあらゆる性質、その恐ろしさと美しさに、あらためて心を揺さぶられた。 - 2026年4月12日
昏き目の暗殺者 上マーガレット・アトウッド,鴻巣友季子読み終わった老女アイリスが回想する、釦工業で財を成した名家の繁栄と衰退の歴史。墜死した妹ローラが遺した小説のなかで語られる、惑星ザイクロンの物語。あまたの謎に取り巻かれてはいるものの、どちらも“舌を抜かれた女”の話として読める。胸騒ぎを覚えながら下巻へ。
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