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翠
@noctambulist
  • 2025年10月29日
    忘れられた花園<下>
    忘れられた花園<下>
    弱さや醜さを知っているつもりでも、いざそれを目の当たりにすると、打ち据えられたような気分になる。立場や状況が違えば、自分もこうして他者の尊厳を踏みにじるのだろうか。すべてを押し流してしまう、時間というものに対しても、様々な思いが渦巻いた。
  • 2025年10月25日
    忘れられた花園<上>
    忘れられた花園<上>
    祖母が遺した秘密に誘われ、カサンドラはひとり英国へ渡る。時を隔てて繰り返される、出自をさぐるための旅は、暗いながらもロマンティックなときめきにみちている。縺れあった物語がしだいに解きほぐされてゆくさまに心を躍らせながら、次々に頁を捲った。
  • 2025年10月21日
    ある夢想者の肖像
    ある夢想者の肖像
    微に入り細を穿って“退屈”を述べたてる、熱っぽくうわずった文調がうっすらと不快で、執拗な反復表現にもめまいを誘われる。文章の構造にはっきりと意味をもたせた秀逸な作品ではあるが、読み通すだけで疲れきってしまい、とても楽しむどころではなかった。
  • 2025年10月17日
    割れたひづめ
    割れたひづめ
    翔鴉館の或る一室で眠る者は、みな謎の死を遂げる。逸話のために開かずの間となったその部屋で、さらなる犠牲者が……という導入部分がいちばんの読みどころか。丹念に醸成された怪奇的なムードが、中盤で霧散しなければ、もっと貪るように読んだに違いない。
  • 2025年10月13日
    人質の朗読会
    人質の朗読会
    小川洋子の作品は、清潔なにおいや硬質なしずけさから、病室や博物館を想起させる。本書もやはり厳かな気配をまとっているが、そこには温もりもあるように思う。物語るという行為に込められた、遍く命への祈りに、心臓の鼓動をふと意識したせいかもしれない。
  • 2025年10月9日
    カルトローレ
    カルトローレ
    きび色の沙漠にて繙かれる、航海日誌カルトローレ。空をゆく船の乗員であったタフィが目にする、縹渺とした世界のすべてに陶然とした。神秘や幻想の類はどこか閉ざされたものであるように感じていたけれど、内ではなく外へと向かってゆくこともできるのか。
  • 2025年10月5日
    人形たちの白昼夢
    あまく淑やかな香りと、かすかに艶めかしい温もりにみちびかれ、現実と幻想のあわいへ。薄くたなびく霧や、舞い落ちる淡雪を思わせる短篇集で、ほんのひとときしか心に留めていられそうにないと感じてしまったが、これは作品の瑕疵でなく、相性の問題だろう。
  • 2025年10月1日
    誘惑者
    誘惑者
    意識の深部にうち寄せる黒々とした波濤、“自分の知らない自分”に脅かされる哲代。何度もこの物語へと沈潜することで、私もいつか自分自身を夜の海へ差し向けてしまうような気がする。それはひどく空虚で、しかし抗いようもなく魅惑的な、昏い予感である。
  • 2025年9月29日
    シャドウプレイ
    シャドウプレイ
    日記の体裁を取りつつ、書簡や回想なども織り交ぜ、ブラム・ストーカーの半生を綴った物語。ヘンリー・アーヴィングへの愛憎、エレン・テリーへの憧憬、幻想への思慕、舞台裏の活気までもが胸に迫ってきて、読後は永い夢から覚めたような心地を味わった。
  • 2025年9月25日
    手招く美女
    手招く美女
    心の均衡を失ってゆく過程をえがいた筆致に鬼気迫るものがあり、短篇中篇を問わずそれなりの読みごたえは感じるものの、どれも自分の嗜好には合わず。執筆された時代を考えれば不思議ではないとはいえ、随所に見受けられる偏った女性観にも疲労をおぼえる。
  • 2025年9月21日
    雨の午後の降霊会
    雨の午後の降霊会
    夫を唆して誘拐をくわだてる霊媒師マイラ。名声のためなら子供を犠牲にすることも厭わない彼女は、幼稚でエゴイスティックな怪物でありながら、道化じみた物悲しさの染みついた人物でもある。そのために無情な結末がきわだっていて、好きな部類の小説だった。
  • 2025年9月17日
    霊応ゲーム
    霊応ゲーム
    暴力や恐怖の介在する排他的な関係性には、昏い魅力を感じるけれど、本書をそうした浮ついた態度で読むことは難しい。これはToxic Masculinityについての物語ではないだろうか。少年たちにもたらされた深刻かつ不可逆な結果に、思いを馳せずにはいられない。
  • 2025年9月13日
    両膝を怪我したわたしの聖女
    両膝を怪我したわたしの聖女
    穏当な表現では足りない過激な欲望と、粗暴な稚さを曝けだす言葉たちは、群れを成して襲いくる獣のよう。不潔な描写には閉口したが、砂糖をまぶすでも毒を垂らすでもなく、愛らしくもうつくしくもない存在として“少女”をえがくことには、意味があると思う。
  • 2025年9月9日
    兎の島
    兎の島
    現実に由来する不安が、奇怪な現象となって顕れても、驚きはしない。未知の体験ではないから。「メモリアル」では、困惑や恐怖が感傷の色をおびてくるが、悪夢から解放されたばかりの生温く濁った意識の片隅には、いつもそれが残っているような気がする。
  • 2025年9月5日
    名探偵と海の悪魔
    名探偵と海の悪魔
    悪魔が跳梁する帆船で、囚われの探偵に代わって推理に奔走するふたり。不条理なものごとにも敢然と立ち向かうサラの存在は、おどろおどろしい物語をほのかに明るませる。その光を尊く思うからこそ竦んでしまう。知性や善性でも照らせない、果てしない暗闇に。
  • 2025年9月1日
    幽霊の2/3 (創元推理文庫)
    幽霊の2/3 (創元推理文庫)
    毒殺された文壇の寵児にまつわる、幾つもの謎。余剰を残した作品を愛する私だが、無駄の削ぎ落とされた機能的なうつくしさに深く感じ入った。マクロイらしい辛辣なユーモアもいっそう研ぎ澄まされていて、出版業界の内幕を綴った小説としても面白く読めた。
  • 2025年8月28日
    鳥の心臓の夏
    鳥の心臓の夏
    サンデーの透徹したまなざしによって、不安と緊張にみちた世界のもつ、はりつめた耀きに気づかされる。母娘間の懸隔や関係性の変容に心を痛めつつも、彼女の奥底でゆれうごくものを掬いあげる、繊細な言葉たちを追って、幸福な時間を過ごすことができた。
  • 2025年8月25日
    悪意の夜
    悪意の夜
    奇妙な符合のために疑念に囚われ、不安に陥ってゆくアリス。語り手の変貌だけでなく、終盤ではまた別種の変化がえがかれ、身近な人間の他者性について考えさせられた。低調な作品と見做す向きもあるようだが、質の異なるふたつのスリルを楽しめる小説だ。
  • 2025年8月22日
    救出の距離
    救出の距離
    死に瀕したひとりの母親が、傍にたたずむ謎の少年との対話を通して、記憶への潜行をこころみる。構成からして平明ではないのに、どこか整然とした記録映像のような秩序を保っていて、それが現実をも侵食しかねない異質な迫力に繋がっているように感じた。
  • 2025年8月19日
    雌犬
    雌犬
    不妊治療のすえに子供をもつことを諦め、雌の仔犬を溺愛するようになったダマリス。鬱屈と渇望から放たれる陰々とした熱気や、感情の変遷をあらわす容赦のない筆致、なぜか視界がひらけてゆくような終局にもひたすら圧倒される、またとない読書体験となった。
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