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翠
@noctambulist
  • 2026年7月31日
    深淵のかなた
    深淵のかなた
    子供はいつでも大人が思うより鋭く、聡く、傷ついている。交わされる視線や会話、口にされなかった言葉が小さなからだに影を落とすさまに、胸苦しさをおぼえる。一方で、母の痛みも身近に感じてしまい、すぐ傍にある深淵の存在を意識せずにはいられなかった。
  • 2026年7月28日
    マンハッタン・ビーチ
    マンハッタン・ビーチ
    海に魅了されて潜水士を志した少女アナを中心に、交わっては分かれてゆく幾筋もの軌跡をたどりながら、心は何度もリディアとの海辺でのひと幕へと立ち戻る。あらゆる感情がいっせいに波うって、ほとんど痛みさえ感じるような、わすれがたい場面だった。
  • 2026年7月21日
    明るい夜
    明るい夜
    求めている物語に出会えたときの、深くしずかな喜びとともに、自分が“日本人”であることが身に迫ってきて、体がゆるやかに地に沈み込むようだった。泣いてよかったのだろうか。共感だの称賛だのが、さらなる侮辱になりはしないか。考えなくてはならない。
  • 2026年7月18日
    涙の箱
    涙の箱
    堪えることで自分自身をわずかに損なってしまうことは、ままある。そうせざるを得ないように追い込まれることも、それが永いあいだ続くことも。泣いているひと、泣くことのできないひと、つまり私たちへの真摯な応答として、心に留まりつづける物語だと思う。
  • 2026年7月12日
    風配図 WIND ROSE
    戯曲の形式を交えたかろやかな語りが、少女たちの思いをじかに伝えてくる。口さがない者には魔狼と呼ばれ、ヒルデグントには壊れた甕に喩えられたヘルガだけれど、彼女を衝き動かすのはいつでも心だった。屈従を拒む意思こそが、或いは人の証なのではないか。
  • 2026年7月9日
    穏やかな死者たち
    穏やかな死者たち
    「精錬所への道」の焼けつくような郷愁に囚われ、「抜き足差し足」で恐怖のあまり凍りつき、「スキンダーのヴェール」の白昼夢めいた読後感にぼんやりと浸る。趣旨から外れているものもいくつか見受けられるが、頗る面白いトリビュート・アンソロジーだった。
  • 2026年7月4日
    淑やかな悪夢
    淑やかな悪夢
    日本の妖怪譚に近しいものから、情念がたちのぼる奇談まで、十二の怪談がおさめられた短篇集。明晰な思考を保ったまま、精神だけが捩れてゆく「黄色い壁紙」に戦慄しつつ、抑圧の結果として自然なことにも思えて、自分でも怖いほど冷静に受けとめてしまった。
  • 2026年6月29日
    ハウスメイド
    ハウスメイド
    惹句の通り、エンターテインメントに振り切った小説だった。刺激的な設定、明快なプロット、軽快な文体と、高いリーダビリティが人気の所以だろうか。かなり大味ではあるけれど、暴力が連鎖して物語を形づくっているあたりは生々しい質感のある作品だと思う。
  • 2026年6月24日
    レテの汀
    レテの汀
    向き合うとはどういうことなのか。問い続けても、答えは得られない。罪は雪がれず、傷も癒えない。しかし、暗がりで震えている自分を見つけだして、寄り添うことはできる。深思こそが、みずからの在りようを変えてゆく。示された希望をずっと憶えていたい。
  • 2026年6月19日
    須永朝彦小説選
    須永朝彦小説選
    なんとか読み通してようやく、すべては書影そのままの、ナルシシズムの表出だったのかと合点がいった。美への渇求には共鳴するものの、いささか陶酔が過ぎるように思う。内省があまり窺えない作品は、どれほどの美文で綴られていようと、好きになれない。
  • 2026年6月14日
    ラクロワ姉妹
    ラクロワ姉妹
    憎みあうことを生き甲斐とする、レオポルディーヌとマチルド。苦痛を知らしめようとして活気づく、エマニュエルとジュヌヴィエーヴ。皆に目を背けたくなるような嫌らしさがある。粗野なソフィーや粗暴なジャックが正常に見えてくるのだから、怖ろしい小説だ。
  • 2026年6月9日
    昨日の肉は今日の豆
    昨日の肉は今日の豆
    世界とうちとける術をもたず、性とは関わりのない官能をもてあますばかりの、あどけない童女たち……透き通った狂気を捉えた「夏を病む」と「人形の家」が、ひときわ素晴らしい。肌が粟立つほど恐ろしく、そして悽愴にも感じられる幕切れに、溜息がこぼれた。
  • 2026年6月4日
    ハムネット
    ハムネット
    悪妻と貶められてきた女が、息を吹き返す。鷹匠の技術と薬草の知識をもち、独自の視点で物事を見分ける、並外れたひととして。イマジネーションの力で過去に手を伸べる試みはもちろん、この作品そのものが“物語の作用”を示していることにも、胸をうたれた。
  • 2026年5月30日
    溺れる少女
    溺れる少女
    “狂えし女たち”につらなるインディアが著した回想録は、虚偽と矛盾と夥しい引用から成る厄介な代物だが、気づけば混迷をきわめる語りに夢中になっていた。物語を取り込んだのか、はたまた取り込まれたのか。何が事実で、何を真実とするのか。亡霊はすぐ傍に。
  • 2026年5月25日
    最後の楽園: 服部まゆみ全短編集
    美術品にまつわる怪異譚である「骨」と「雛」、夫の愛人を異様なほど思い遣っていた女の死をきっかけに事件が起こる「桜」に心を射抜かれた。少年または青年の初心で多感な内面を綴った、どこかいたぶるような筆致から、著者の嗜好と美学が垣間見える。
  • 2026年5月18日
    spring
    なんて凄まじいのだろう。身も心もささげる──それを叶えられるだけの魂を、決して滅ぼされないものを宿して、生きてゆくということは。懊悩せず、孤独でもなく、しかし至って人間らしい萬春に、感覚を拡張されるような、解放感に満ちた読書体験になった。
  • 2026年5月15日
    初夏ものがたり
    初夏ものがたり
    故人を一夜だけこの世に呼び戻し、縁ある者との再会を仲立ちする謎のビジネスマンを中心に、静穏ながら異界めいた初夏のひとときが紡がれる。近頃はもう真夏の剣呑な気配がしていて、風情を感じる余裕もないので、尚のこと物語の美しさに救われる心地がした。
  • 2026年5月12日
    秘密 下
    秘密 下
    物語は、あるべき形におさまったのかもしれない。けれど、実現し得ない“物語”をいっぱいに抱えていたドロシーが不憫でならず、どうしてもそちらへ心を寄せてしまう。幸せになりたい、そう希ったことのない恵まれた身では、彼女を理解できるはずはないのに。
  • 2026年5月9日
    秘密 上
    秘密 上
    第二次世界大戦のさなかに青春時代を過ごし、のちに或る男を殺めたドロシーは、いまや年老いて病に伏している。一葉の写真をきっかけに繙かれる過去は、恋と夢にあふれているが、そのきらめきはどこか不穏なものだ。心がはりつめるのを感じながら読んだ。
  • 2026年5月6日
    処刑人 (創元推理文庫)
    処刑人 (創元推理文庫)
    ジャクスンがえがく少女たちは、皆がそれぞれに内なる世界をもつ。時に外なる世界を脅かし、また脅かされもする。そんな愛すべき魔女たちの一員でありつつも、痛めつけられるのみだったナタリーが、こんなにも清々しい結末を手にするとは。嬉しい驚きだった。
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