

酒飲みぱんだ
@sakenomipanda7
- 2025年11月23日
ぶらんこ乗りいしいしんじ父さんはこっそり教えてくれた、指輪を買ったんだよ、って。向こうで贈ろうと思うんだ。青くて小さくて、品のいいやつ。 指輪は木の小箱にはいっていた。父さん自作の箱だ。ふたには母さんの顔、四方には私と弟、父さんとおばあちゃんの顔が彫りつけてある。そっくりっていうんじゃないけれど、どれも私たち以外の誰にもみえなかった。 - 2025年11月21日
- 2025年11月19日
国宝 下 花道篇吉田修一舞台の中央に立ち、上手下手、一階から三階までを見渡しました喜久雄の顔に、またゆっくりと笑みな浮かんだのはそのときで、 「きれいやなあ……」 そう呟いた次の瞬間、まるで雲のうえでも楽しみ歩くように、なんと喜久雄が舞台を降りてきたのでございます。 - 2025年11月15日
国宝 上 青春篇吉田修一「……今の舞台、しっかり見せてもらいましたよ。……あなた、歌舞伎が憎くて憎くて仕方ないんでしょ」 一瞬、俊介の視線が揺れます。 「……でも、それでいいの。それでもやるの。それでも毎日舞台に立つのがあたしたち役者なんでしょうよ」 これほど熱のこもった万菊の震えた声を、竹野は初めて聞いたのでございます。 - 2025年11月10日
- 2025年11月7日
- 2025年11月4日
ひとり旅日和 幸来る!(5)秋川滝美どんなものにも一長一短がある。すべてが完璧ならほかの手段は存在し得ないとわかっていても、旅の随所で後悔と反省が繰り返される。だが、それも成長の一助になるはず、と自分に言い聞かせる。 - 2025年11月2日
マイ・ディア氷室冴子わたしが『リンバロストの乙女』を愛読書No.1にあげるのも、こういう描写がこれでもか、これでもかと続くからです。ページから、こうばしいシナモンや、甘ずっぱい匂いが、ただよってくるようではないですか。 - 2025年11月1日
- 2025年10月28日
雨の日はソファで散歩種村季弘西日のさす時間は、いわば汚れながら浄らかな光をはらんでいる。その青いまでにすみれ色の光を浴びていると、世紀末の画家や詩人がなぜこの土地を愛したかも、そこからの連想でパリや京都のような何度となく没落を経験してきた都市がなぜ西日のさす窓を好んできたかも、おのずと理解されてくる。盛りの夏は、西側の太陽の没落の相で見るなら、死と再生の季節なのである。 - 2025年10月20日
- 2025年10月17日
旅の窓沢木耕太郎この『旅の窓』に収められた写真群は、「旅の窓」からのぞき込んだ私の「心」を映し出す、小さな「心の窓」でもある。つまり、この本は『旅の窓』のかわりに『心の窓』と名づけてもいいものだったということになるのだ。 - 2025年10月15日
麦本三歩の好きなもの 第一集住野よる人生とはそんなに甘いものでもないから、怒られたり失敗したり思わぬことがあったりで、ずっと誰かの言葉を糧に生きていけるわけではない。少しずつ嬉しさはすり減っていって、いつかエネルギーがなくなってしまうかもしれない。その時、好きな友達に会いたくなる。自分がファンである人に会いたくなる。互いに、そのエネルギーがなくなってしまう前に、近いうちにまた会おう。 - 2025年10月15日
夜明けのコーヒーを君と一緒に森村誠一新聞記者は事件を報道するだけでよいのか。事実と真実の報道と言っても、報道スペースと時間は有限である。読者や視聴者に報道されたものは新聞記者が選択したものである。その選択を誤れば、事実と真実が歪められてしまう。 - 2025年10月12日
本からはじまる物語いしいしんじ,今江祥智,市川拓司,有栖川有栖,石田衣良,阿刀田高「わしが、本をていねいにめくるのは、手紙をさがす癖がついちまったからさ。いまでも思うときがあるんだ。真夜中の古本屋で、わしはひょっとして、ページに挟まった手紙を見落としちまったんじゃなかろうとな。本に書かれたことなんて、一行たって大切じゃなかった。わしにとって宝物といえば、十六の夏、どうしても見つけだせなかった、あの手紙なんだよ」 - 2025年10月10日
- 2025年10月6日
木幸田文ついでながらいえば、紅葉黄葉ほど美しい別れ、あるいは終りといったらよかろうか、ほかにあるまいと私は思っている。今年のいのちの退き際に、ああも華やかに装いを改めて、しかもさりげなくふっと、なんのためらいもなく、居場所をはなれてしまう。はなれて散り敷けば、これがまたどこに舞いおりようと、かならずぴたっと姿よく納まって美しい。 - 2025年10月3日
- 2025年10月3日
デザートはあなた森瑶子テーブルに大小十個の箱が所狭しと並べられ、ふたが取られる。ありとあらゆるケーキやパイやムースやフルーツが、飾りたてたパーティーの夜の女たちのように厚化粧の顔を露にする。 「いつもいつもおあずけだったから、今夜は思いきり、あなたにデザートを食べさせてあげようと思って」 - 2025年9月29日
成瀬は天下を取りにいく宮島未奈「わたしはずっと、楽しかったよ」 島崎の穏やかな表情を見て、成瀬は黙ったままうなずいた。成瀬もずっと、楽しかった。でも、口に出したらすべてが終わってしまう気がして、言えなかった。遠く離れて暮らしていても、島崎が同じ空の下にいると思えばやっていける気がした。
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