私たちのテラスで、終わりを迎えようとする世界に乾杯
57件の記録
- 綾鷹@ayataka2026年1月15日希望を持てない世界の中で、自分の小さな幸せために、世界が少しでもよくなるために、希望を捨てない。そんなたくさんの物語が集まった短編集。 「そして、バトンは渡された」がからっと明るい話だったから、その後に読んだことで「全体的に暗いな、、」というのが第一印象。今の時代にすごくあった内容だと思う。 「努力すれば報われる」みたいなことを上の世代は未だに言うし、下の世代の反応を物足りなく感じてるようだけど、下の世代は冷静に世界を見てるだけなんだろうな。その上で何が自分にとっての幸せか考えている。 明るい未来が見えない世界で、でもささやかな希望を失わずに生きる人たちが世界中にたくさんいることを感じられる本だった。 ◾️十時、コーヒーと私たちのチャンス 「どう?」 「味は妙に普通だけど、すごく芳醇な香りがする。これってなんのコーヒー?」「実験室で栽培したものなんだって。農薬も使わないし、栽培に必要な水も少ないって。世界中にいるバリスタにテイスティングしてほしいとサンプルを送ってるみたい。どう評価すればいいと思う?おいしい豆をてきとうに混ぜ合わせてるような味って感じではあるよね・・・・・・」 カウルさんが使うコーヒー豆はフェアトレードで輸入したものだけれど、それでもいつも後ろめたい気がしている。コーヒーが熱帯雨林を破壊し、環境を汚して、現地の人々はコーヒーを栽培するために食料主権を深刻なまでに侵害されている。 「・・・・・・大げさに褒めちゃおうよ。ほんのちょっとだけね」私は言った。ちょっとだけ大げさにめて、まだ中途半端な魅力の豆にチャンスを与えよう。もっと改善できるチャンスを。 「やっぱ、それがいいよね?」 カウルさんが頷きながら同意した。私たちは額を寄せて程よいほめ言葉を紙に書き始めた。ふとスマホの画面を覗くと、十時ぴったりだった。 ◾️スイッチ 「オンニはいつも本当に大事な話だけをされてるんですよね。それが面接では不利になるかもしれないけれど、何重ものフィルターで濾されて出てくる言葉が好きなんです。私にはできないことなので」 アラはハンピッを見ながら、いまどんな気持ちかとは関係なく、おそらくずっと友だちでいることはできないだろうという甘ったるくて悲しい思いに耽った。これまでも講習会が終わってからプライベートでも親しくできたケースはあまりなかったし、はっきり言ってハンピッには友だちがたくさんいるだろうから。私たちは外の世界へと散っていくのだろう。それでもハンピッと交わしたさっきの会話は、しばしば思い出すような気がして、アラは笑みを浮かべた。 自分の話す番になり、プレゼントしてもらったスイッチをオンにした。 ◾️アラの傘 無限に成長しつづける時代が終わってしまったことだけは、ハッキリとわかる。 何もかもこのままは続かないだろう。上の世代が誤解しているように、なんとなく敗北主義に陥っているわけではない。ただ事実が指し示しているところを淡々と見つめているだけ。騙されないようにと。騙してこようとするすべての試みを阿呆らしいと思いながら。この小さな惑星で何かが無限に成長すると主張していたなんて。 そんなことを昔はよくも信じられたと思う。二十世紀の勢いよく無責任なスローガンが力を失いつつある頃に生まれてしまったのを、こちらにどうしろというのだろう。騙されにくい世代に属しているという自負だけはある。もう我慢をしなくなった世代に属しているという自負も。 疲労困憊した。歳にそぐわない疲労感のせいで、若者が老いぼれていく。変わらない世界、分かち合わない世界、過酷なほうへと悪化してしまう世界で、老化は加速される。なんとかの支援金を受け取るために、義務で受けなければならない授業で心理テストを受けたら、退職者レベルの心理状態だという結果が出て噴き出してしまった。人生の質を最も優先しているという結果に、まだそうなるには早すぎると講師に突っ込まれた。人生の質を犠牲にして得るものがなければ、自分を燃料がわりにして燃やそうと思えないだろう。いい時代を送ることができた人間にしか通用しない言葉だろう。 ミニマリズムとは、この時代にとっての実用主義で、見栄ではなく生存術だ。そのことが理解できる人と、一生理解できない人がいるだろう。それまでの搾取方法が通じなくなったことと、若い世代が別の方向へ向かうのが気にくわない後者の人たちが、足を踏み鳴らしているのに目を向けつつ、アラとアラの友だちは怒りながらも笑うだろう。 ◾️ヒョンジョン 足元で子どもの頃に縮約版で読んだ『海底二万里』が見つかった。この間読んで印象に残っている『すべての見えない光』の主人公、マリー"ロールが点字で読んでいた本だ。本と本がつながるのはいつも不思議でならない。そのネットワークを探検しながら十分な人生を送りたかった。 好きな気持ちで、好きだから焦る気持ちで、ずっと待っていた。それがヒョンジョンの仕事だった。待つこと。次の本を、その次の本を。新しい作家に出会うために冒険しては失敗することをくり返しながら。平均寿命で計算すれば、あと何冊読めるのだろうと考えながら。ジョージ・R・R・マーティンは、読書家は死ぬまでに千回の人生を生きると言っていたことが、いまさら慰めになる。今日死んだとしても、私は千回の人生を生きていたことになるから。 本棚が完全に倒れはしないかとドキドキしながらも、遠くに手を伸ばした。すぐ後ろの本棚は、児童書のコーナーのようだ。ヒョンジョンは嬉々としてロアルド・ダール、アルキ・ゼイ、ルイス・サッカーの本を見つけた。ロアルド・ダールの本は『マチルダは小さな大天才』だった。改めて読んでも面白い。本の最後に、ロアルド・ダールがロ癖に言っていた言葉が記されている。「私は思う。親切こそが人間の持ちうる最高の資質だと。勇気や寛大やその他の何よりも。あなたが親切な人間なら、それで十分だ」。彼の本は親切な人をどれだけ多く生み出したのだろう。ヒョンジョンは涙を流しながら、死後の世界というものがあるなら、ロアルド・ダールが先に渡っている世界だろうと考える。 特別な人間ではなかったなあ、とヒョンジョンは夢うつつのなかでつぶやいた。 それでも心の内側は美しい文章で埋め尽くされている。本に線を引かず、折り目も付けなかったけれど、文章をありったけ吸収できた。それでよかったと自分を評価する。寒さに縮こまってひざを抱えている格好のまま、引用ノートになれそうな気がする。折れて、くっついているところまでの体表面積を計算したら、何ページ分のノートになるだろうか。後ろのページは白紙のままだろう。そんな突拍子のない想像をしながら、眠りにつく。眠ったら危険だとわかっているのに。

もぐもぐ羊@sleep_sheep2026年1月9日まだ読んでるすんみさん訳であえてゆっくり読んでいるこの本、掌編を一編読んで閉じることにしていてまだ半分まで。 チョン・セランの小説が好きなのでちびちび楽しんでいる。 訳者あとがきをあらためて読んだら、チョン・セランのファンのすんみさんが自身のことを「成功したオタク」と表現していて笑ってしまった。









もぐもぐ羊@sleep_sheep2025年12月22日まだ読んでる気分転換に掌編をひとつ読もうと栞を挟んであるページから読んだら頭を殴られたような衝撃があった。 たった6ページにやられた。 「アラの小説1」 チョン・セランはやっぱりすごく好きだし信頼できる。 翻訳者のすんみさんも信頼できる韓日翻訳者なのでこれは安心と信頼の小説だ。 19の掌編と詩がふたつ収録されているのでちびちび読んでいこう。 そしてたまに取り出して、読んで、頭を殴られよう。









かおり@6kaorin52025年9月25日読み終わった感想読書日記図書館本久しぶりに読むチョン・セランは 様々な媒体に寄せた掌篇小説いくつかと二篇の詩をまとめた作品集。 「こういうタイプの小説が好きな方もいれば、好きでない方もいるようです。私は好きなほうです」。 はい、私も好きなほうです。 サラっと読めるけれど、読めば読むほど味わい深さが増す。スルメ本というか、スルメ作家だと思う。 《B side》の方が個人的には好みなものが多かった。 「アラの傘」「乱気流」「恋人は済州島生まれ育ち」、 中でも1番のお気に入りは「ヒョンジョン」。 私も限界がくるその最後まで読みたい。 「好きな気持ちで、好きだから焦る気持ちで、ずっと待っていた。それがヒョンジョンの仕事だった。次の本を、その次の本を。新しい作家に出会うために冒険しては失敗することを繰り返しながら。」 そうやって、待って、読んで。 最後まで。



もぐもぐ羊@sleep_sheep2025年8月1日まだ読んでる寝る前の気分転換に掌編を二つほど読んだ。 重い小説を読んでいる時に気軽に読めるボリュームは助かる。 夜のドライブは酔っぱらいのサファリパークというのには笑ってしまった。 チョン・セランのささやかなユーモアが好き。









うえの@uen02025年5月24日読み終わった読むたびに好きだなぁという感慨が深くなる作家の1人。人の確かな優しさと信念と逞しさが、柔らかな温度を持って染み渡ってくる。そんな物語がたくさん入っていた。 アラという名前の主人公たちの物語は優しい強さを持っていて、痛みと向き合う姿が眩しかった。彼女たちの目を通して見える世界が、たしかに今の私たちのどこかに存在している。 マリ、ジェイン、クレールがあまりにも愛おしくて抱きしめたくなる物語だった。 印象に残った言葉---------- アラの小説 恋愛諸説を読み書きする人を愛した。しかし、女性が三日に1人殺されていることを知ってから、性産業の大きさと惨憺たる実態を知ってしまったから、トイレにある穴の正体に気づいてから、デジタル性犯罪についての調査報道を追いかけて読んでから、アラの中にある何かが死んだ。 物語が社会に影響を与えると同時に、社会も物語に影響を与え、ついに物語と社会の二つが双方向の矢印になる。その責任から目を背けてはならない。 女性の書き手だけが、薄氷のうえを歩くようにして倫理的な悩みを抱くと嘆く同僚もいる。数千年に渡って男性の書き手たちがやってきたように、ありとあらゆる禁忌の上に寝転び、胡座をかいてはいけないのだろうかと。そんな想像をするだけでも慰めになるけれど、もっと巧みに書く方に足を向けることができなければ、いつしか見限られてしまうだろうという不安から抜け出すことができない。 泰然とした顔をする暴力の気配を、素早く察知し、安全でかつ自由になる主人公について書いてみようと思った。愛情のように見えて愛情ではないことについて、緻密に。恋愛の話のように読めるのに、恋愛の話ではない物語を、とぼけているような顔をして。 妥協でしかない、というのは承知の上だ。だか、進み続けているうちに妥協を乗り越えた答えが見えてくるかもしれない。 アラの小説2 自分を疑うのではなく、攻撃する人たちの意図を把握するようにしよう、と何度も自分に言い聞かせているが、それで生まれながらの瞬発力の鈍さが鍛えられるわけでもない。 読みやすい小説がどれほど難しいプロセスを経て完成されるかは、読みやすく書ける人にしかわからないことだと信じてきた。 復讐は、このようにして世の中が代わりにやってくれるものなのかもしれない。 コラムを一つ発表すると、そこに何百個もの悪質なコメントがつく。そんなものに対してシールドを一枚貼り、性別をわかりにくくして、もっと好意的な評価を受けることもできたかもしれない。だけど、胸の内では、そんなことはしたくないと思った。若い女性を思わせる名前で、しっかりやってのけたかった。 M 「うん、通報もするけど、みんなに知ってもらわなくちゃいけない気がする」 Mを避けなければならないということを?あるいは、読者から注がれている愛情を、作品を掲載できる紙面を、権力を、Mから奪ってこなければならないということを?私にも明確な答えはない。 最悪の状況を想定して書いた話が現実に近づいてしまうことが二度と起きないことを願うばかりだ。 私たちのテラスで 私たちは剥奪された世代で、世の中は私たちから奪っていったものを永遠に返さないだろうし、その確固とした拒否によって、世界はいつか崩れ始めるだろう。それまで私たちにできることは何もなく、限界にぶつかりながら一瞬のセンスを輝かせ、消えていくはずだ。 私は同意するつもりで、エムジェイのグラスに私のグラスをぶつけた。なんの音もしなかったけれど、そんな効果音くらい、いくらでも頭で想像することができる。 好悪 みんな立派に暮らしてめでたい訃報になろう、と言って笑いました あなたがこらえて のみこんでいるものについて 私が代わりに想い 捨てられるならば、 有毒でも嬉しいことでしょう スイッチ 何重ものフィルターで濾されて出てくる言葉が好きなんです。私にはできないことなので。 アラの傘 歳にそぐわない疲労感のせいで、若者が老いぼれていく。変わらない世界、分かち合えない世界、過酷な方へと悪化してしまう世界で、老化は加速される。 人生の質を犠牲にして得るものがなければ、自分を燃料がわりにして燃やそうと思えないだろう。 恋人は済州島生まれ育ち 彼女でもなく彼氏でもなく、恋人という言葉を思いっきり使ってみた小説でもある。 ヒョンジョン ロアルド・ダールが口癖に言っていた言葉が記されている。「私は思う。親切こそが人間の持ちうる最高の資質だと。勇気や寛大やその他の何よりも。あなたが親切な人間なら、それで十分だ」。 訳者あとがき 「完全に回復できないことを認めたうえで続ける」


ブックスエコーロケーション@books-echolocation2025年5月22日新刊入荷@ ブックスエコーロケーションブックスエコーロケーション、5月22日(木)オープンしております。19時まで。ご来店お待ちしております。 チョ・セラン、すんみ訳『私たちのテラスで、終わりを迎えようとする世界に乾杯』早川書房 仕事はぼちぼちで、海外旅行になんて行けないけれど、家に帰ればルームメイトと乾杯できる。毎日の小さな楽しみを描いた表題作をはじめ、明るい未来が見えない世界でもささやかな希望を失わずに生きる人々を、おかしみをもって描いたショートショートと詩を収録した作品集。 #チョセラン #私たちのテラスで終わりを迎えようとする世界に乾杯 #早川書房 #信州 #長野県松本市 #松本市 #本屋 #書店 #古本屋 #ブックスエコーロケーション



直角@ninety_deg2025年4月22日読んでる@ カフェ文芸誌以外に美術展のパンフレットやファッション誌などに発表された作品も収められていて、小説家の活躍の場が広いのを感じる。チョン・セラン作家に特有のことなのか、ほかの作家もそうなのか。

annamsmonde@annamsmonde2025年4月14日読み終わった「デビュー初期に書かれた作品から最近のものまで、文芸誌をはじめとしたさまざまな媒体で発表された作品が集められている。」掌編小説集。 ひとつひとつ違う物語ではあるが、元々同じだったところから切り取って並べたような一体感があって、流れるように読めた。 『マスク』 と 『採集期間』 の2作品が不思議で笑えてお気に入りです☺️

もぐもぐ羊@sleep_sheep2025年4月11日ちょっと開いた積読中長編のお供の短編集に積読からこれを出してきた。 チョン・セラン大好きなので楽しみ♫と思いつつこっちに夢中になって長編がおろそかにならないようにちょっとずつ読むつもり。

ゾウのパオパオ@paopao2025年3月18日読み終わった面白かった!!! チョン・セランが好きかも 個人的にはヤマネコが出てくる話が可愛くて好きだったのと、気になってたベル・ジャーの本が話に出てきたとき嬉しかった
















































