硝子戸の中

7件の記録
- にょ@Yxodrei2025年3月25日読み終わったかつて読んだ漱石がこれまでの人生のあれやこれやを回想する随筆集。 その筆致には、どこか優しさがあり、穏やかだが、淡く滲む倦怠がある。人生に対する不快感と疲労、それでも生きるしかないという諦観が作品全体を静かな通奏低音のように包んでいる。 表題にある「硝子戸」は、外界と内面の間にある透明な境界だ。日常の出来事、人の姿、世間のざわめき……漱石はそれらを硝子戸越しから眺めつつ、丁寧にすくい上げてゆく。 自分を含むすべてを、遠くから静かに微笑むような態度。これが「則天去私」なのかな。好きだな。『明暗』『道草』あたりも読んでみようかしら。 筆の置き方が好き。以下引用 『家も心もひっそりとしたうちに、私は硝子戸を開け放って、静かな春の光に包まれながら、恍惚とこの稿を書き終るのである。そうした後で、私はちょっと肱を曲げて、この縁側に一眠り眠るつもりである。』
- comi_inu@pandarabun2025年3月7日かつて読んだオールタイムベスト先生は自分を面白くも賢くもない人間だと思ってるし、硝子戸の中から世間を覗くくらいで丁度いいと考えてるのに、どいつもこいつも遠慮なく家にきて人生相談してくるからおもしろいな。しかも家に来るやつが大概なんだかヘン。いや、ヘンだから家まで来るのか。いやいや先生も先生だ。素気無いように見えてなんだか甘い。ヘンなやつでも放っておくことができないタチなのだろう。結局よく知らんヘンなやつの人生までウンウン悩んで、ただでさえ身体悪いのにしっかり気まで病んだりする。 「私は悪い人を信じたくない。それからまた善い人を少しでも傷つけたくない。そうして私の前に現われて来る人は、ことごとく悪人でもなければ、またみんな善人とも思えない」 確かに出てくるひとみんな善い人であるんだけど、どこかちょっとずつ悪人ではある。まあこの世の人間誰しもちょっとずつ悪人だと思うが、漱石は特別悪人への感度が高い。それと同時に悪の塩梅がひとの可笑しみ、可愛げにも通じてることも深く知り抜いている。 「不快の上にまたがって、一般の人類をひろく見渡しながら微笑している」 こんな一文が結びの章にありますがこんなにも難しいひと、嫌いになれないよ…! わたしのおすすめは、熱出した次の日あたり、大事を取って休養します〜〜と報告したあとのお昼頃、布団の中でゴロゴロしながら読むことです。明るい日が射し、世界が働いていることを感じながら読むのがいちばんハマるのでやってみてください。