ヘルシンキ 生活の練習はつづく
34件の記録
Yamada Keisuke@afro1082025年10月19日読み終わった一作目がオモシロかったので、続編である本著も読んだ。毎年、友人とポッドキャストでその年読んだ本について話しているが、2024年の友人の4位だった。前作でも、よく見かける「フィンランド万歳本」とは異なるシャープな視点が印象的だったが、本著はさらに先鋭化、フィンランドの考え方、歴史的背景により迫った内容になっていた。 著者は子どもを二人を育てながら、ヘルシンキ大学で働いている。日本とフィンランドを往復する生活を送っている。仕事と家事をこなす中で著者が感じたことがエッセイ以上、論文未満くらいの温度感で書かれており、読みやすさと読みごたえのバランスが絶妙である。 第一章は前作の延長線上とも言える内容だったが、第二章、第三章の「戦争と平和」で一気にギアが変わる。戦争は突然起こる、そのリアリティを体現するかのように唐突に始まるので、面食らった。ここでは、ウクライナとロシアの戦争がフィンランドでどのように受け止められ、何が起こったのか、さらに「フィンランドと戦争」というテーマのもとで、歴史的背景を含めて掘り下げられていた。 「フィンランドって徴兵制があったような…」という程度の知識しかなかった私にとって、2023年のフィンランドのNATOへの加入についてリアルタイムで追いかける描写は刺激的だった。地政学的なバランスの上で、ロシアと西洋諸国のあいだに立つ「中立国家」としての立場から、ウクライナ侵攻によりバランスが変化、フィンランドはNATOへ加入した。地政学としての戦争、実際に生活の中でみる戦争。マクロとミクロの視点を使い分けながら、大陸として地続きの近隣で戦争が起こるとどうなるのか?日本では体験し得ない現実の数々が興味深かった。 本著を通底するテーマとしては「権利」が挙げられる。近年では、排外主義とセットで語られることも多い「特権」や、「人権」とは何か?など、フィンランドで移民の立場になったからこそ見えてくる、権利のあり方に関する論考は読み応えがある。前作が制度をベースにした話だったとすれば、本著ではその背景にあるフィンランドの根本的な思想にまで踏み込んでいる。その議論にあたっては、著者が在日韓国人として日本で生きてきた経験がオーバーラップしていく。客観的にフィンランドの事情を知るだけではない、主観のレイヤーが入ってくることで唯一無二な一冊となっていた。 また、成長した二人の子どもの視点が多く取り入れられているのも特徴的だ。その率直な発言が、しばしば硬くなりがちな議論をほどよくほぐしている。前作から引き続きバリバリの関西弁なのだが、そこも先鋭化して明確に京都弁になっているところもオモシロい。子どもの芯をくった発言は、SNSでは格好のバズ案件であり、本著でもある種の混ぜ返し役として繰り返し登場するわけだが、それでも著者はこれを良しとはしない。なぜなら「子どもの無垢な発言は社会規範、知識不足を子どもの理屈で補っているから」と書かれており、その精緻な分析に膝を打った。 「普通」に関する議論も目から鱗だった。もう長いあいだ、「多様性」「みんなちがってみんないい」といった言葉が使われてきた一方で、今やそれらが形骸化していることは否めない。それは発信している側のインクルージョン的なアプローチ、特定の規範(つまり普通)からはみ出した人間を受け入れる、この権力勾配に皆がうっすら気づいているからだろう。フィンランドでは、普通は存在せず、それぞれは異なっており、全員が特殊なのだという。これは「右に倣え」の日本に住んでいると感じづらい。当然、その精神が役立つ場面があることは理解しつつも、今の政治や社会状況を鑑みると、その「倣え」があまりに押し付けがましい場面を散見し辟易とするのだった。SIMI LABよろしく「普通って何?常識って何?んなもんガソリンぶっかけ火つけちまえ」というラインを信条として生きてきたが、ガソリンぶっかけて火をつけなくても「その普通も特殊である」という一歩引いた大人の視野を本著のおかげで手に入れることができた。 政治との距離感に関しても考えさせらることが多く、自分の意見を伝えること、またその伝え方を、子どもたちは大人の振る舞いから学ぶことを痛感した。つまり、大人たちが自分の意見や不平不満をきちんと伝える姿を見せることは大切なのだ。そして、フィンランドでは、声をあげることは自分のためではなく、みんなのためだという認識があるという話は驚くしかなかった。また、意見と人間をしっかり分離する必要性も著者は唱えていた。正直、今の時代、「レッテル貼り」という言葉のとおり、その態度は難しい場面も多いが、対話しなければ、社会は前進していかないことは間違いないので、肝に命じたい。(私はとても不得意…) 終盤、一人で完結せず、他者と集団をつくって実現していくことの重要性が語られていた。現代社会では個人主義が進み、何でも自己完結しがちだが、だからこそ「集団で何かを成す」練習が必要だという。フィンランドと日本を単純に比較できるわけではないが、フィンランドという鏡を通して日本の価値観の歪みを照らし出す本著は、読み終えたあとも長く考えさせられる一冊だった。




muu@mu_book_um2025年10月12日読み終わった前作もよかったけど、こちらもまたさらによかった。全方位に敬意と教養を込めて文章を書ける朴沙羅さんをこころから尊敬する。 フィンランドからみるロシアのウクライナ侵攻のこと。台湾人の友人がそのとき、何を感じていたか、など。興味深いエピソードがたくさんで勉強になった。 政治にしろ個人的なことにしろ、すべてにおいてグラデーションなんだよね。 白とか黒に分けて、主語を大きく話すことの危うさ、浅はかさを痛感した。
あんこちゃん@anko2025年6月25日読み終わった借りてきた前作もそうだったけれど、作者の子どもたちの素直な反応に幾度となくハッとさせられる。 この本の信頼できるところは、基本的にどんな事柄に対してもこっちが良いこっちが悪いの二元論でなく、起きた事実を淡々と書いているところ。そして時折入る関西弁のツッコミに和まされる。






Marua@marua2025年3月26日2024年8月購入 @三省堂書店 何度読んでも笑うくだり 「京都に住んでいたとき、ユキを後ろに乗せて自転車で歩道のすぐそばを走っていたら、歩道から追い越してきた高齢の男性から「ふらふら走んな」と怒鳴られたことがあった。私は思わず「こらおっさん、それ私に言うたんか」と確認したが、職業柄、私の声が通常より大きかったせいか、なぜか私のほうが周囲の人から奇異な目で見られた」
tsukasakitajima@tsukasakitajima2025年2月1日社会学者の稲葉振一郎さんが著者の朴沙羅さんを天才と評していたが、それはもちろんのこと彼女の二人のお子さん、ユキとクマの鋭い観察力、深遠な言葉に只々驚く。三人の会話を読んでいて自分ももう一度、子育てしてた頃に戻りたいと思った(あなたは子育てなんかしていないと、妻は怒るだろうけれど)。ただ、あのとき実は自分も子どもから多くの事を学んでいたのだと改めて思う。





か@aya_bookawa2024年12月26日読みやすく、面白かった! 作者のお子さんたちの何気ない問い・それに対する応答も素敵だった。最近、本屋さんで文庫版になったのを見て、とても嬉しい〜。 買いたいな〜








































