ヒロシマ・ノート

13件の記録
- 読書猫@bookcat2025年8月6日読み直した(本文抜粋) “はばかることなく率直にいえば、この地球上の人類のみな誰もかれもが、広島と、そこでおこなわれた人間の最悪の悲惨を、すっかり忘れてしまおうとしているのだ。われわれは、自分の個人的な悲惨を、できるかぎり早く忘れようとする、大きい悲惨も、小さな悲惨も。街角で見知らぬ他人にちょっと軽蔑された、というような小っぽけな悲惨でも、翌日まで持ち越すまいとする。そういう個人の厖大なあつまりである全人類が、広島を、人間の最悪の悲惨の極点を、忘れようとするのに不思議はない。小学校の教科書を調べてみるまでもなく、現に大人たちは、子供たちに、広島の記憶をつたえようとつとめてはいない。うまく生き残り、さいわい放射能障害もない誰もが、広島で死んだ人たちと、死に向かって苦しい闘いをつづけている人たちのことを忘れようとしている。すっかり忘れて、自分たちは、二十世紀後半の気狂い騒ぎをなんとか愉快にやってゆこうとしているわけだ。“ ”しかし、いったん原爆症の兆候を発してしまえば、かれはもう広島を忘れることも、広島から逃れることもできないのである。“