
六花
@rikka-momohana
読みの記憶。
- 2026年8月18日
よき時を思う宮本輝読み終わった家族と家の歴史、その絆の物語。美しく気高い。いやな登場人物がまったく出てこない。誰もがひたむきに生きている、生きてきた。「よき時」を迎えるために、「よき時」を振り返られるように。登場人物は皆が何かのスペシャリストであり、仕事に誇りを持っている。現在の経済状況からすると、贅沢ね、プチセレブたちだな、あの年齢の男性作家の書いた話か、とは思ってしまった……。でも、かくありたいという人たち。 - 2026年8月9日
還暦の花嫁林京子読み終わった長崎慰霊の日に。短い小説の中に織り込められた、原爆への静かな怒り、祈り、希望、再生。「九日を共有する者にとって綾子さんの還暦は、あの日に一矢を報いたようで大変嬉しく思います」。「九日」を経験し、何とか生き延びた綾子の思い。豪華な花嫁衣装を用意したのも、母の戦争への抵抗だったのかも。「これだ、と一つを取り出せないのが綾子の孤独で、つきつめていけば、生きて在ること、である。あれほど希んできた、生きていること、が孤独の因をつくっている」。私も慰霊のために、未来のために祈ります。 - 2026年8月7日
灯台へヴァージニア・ウルフ,鴻巣友季子読み終わった読了に達成感。すごい。登場人物たちの声が混ざり合う語り。見る者と見られる者。かくも人は自問自答を繰り返し、他者との認識はすれちがい、抑圧され、わかりあえない。それでも、他者を思い、気をつかい、哀れみ、いたわる、嫌い、憎む。それが一方的な思い込みであっても。そして、そこには何らかの救済もあるのだろう。灯台の明かりに照らされてようやく見えるくらいの小さな、微かな希望が。ともにいること。最後、ラムジー夫人を狂おしくも思慕する、「しなびたオールドミス」の新しい世代、リリーは疲労しながらも「自分のヴィジョン」をつかんだ。ああ、ラムジー夫人! - 2026年7月28日
祈りの幕が下りる時東野圭吾まだ読んでる追悼。東野圭吾さんの作品の中で印象深い一冊。映画もよかった。早すぎる訃報にすごくショックで、喪失感が大きいです……。ありがとうございました。湯川先生を描ききったのかな。ご冥福をお祈りします。 - 2026年7月27日
本売る日々青山文平読み終わった蔦重とはちがう本屋の「本売る日々」。知のありようからの、ちょっとした謎解き。『古事記伝』『群書類従』。「『これが唯一の現実』ではないのをいつも感じようとするなら、やはり、古典を読むのを習慣にするとかいったことが必要になるのではないでしょうか。つまり、幕府ではないなにものかの存在に、日頃から親しんでおくということです」と言う名主。「書庫は自分そのもの」「日本で一番豊かな村があちこち生まれてね。一番豊かな村だらけになって。そうなってこそ日本という国も、ほんとうに豊かになるんです」。書物によって、暮らしも国もよくなり、医術も広まる。本屋は「当時者」。 - 2026年7月24日
女帝の古代王権史義江明子読み終わった学び!卑弥呼を思い出そう。古代では女帝は「普通」であった。「中つぎ」ではなく、経験豊かな熟年世代の女帝が政を担い、上皇として若い男帝を補佐したりもした。女帝の子も皇位継承権を有した。男系男子継承が法制化されたのは明治時代。「王権構造は社会の変化に応じて組み替えられ、『伝統』の中身も時代ごとに塗り替えられできた」。その変容の過程。持統女帝の存在の大きさよ。皇祖神は天照大神なのである。 - 2026年7月20日
森鷗外,自分を探す出口智之読み終わった岩波ジュニア新書。時代背景を踏まえつつ、森鴎外や『舞姫』を理解できる。個人主義のヨーロッパ、近代的自我に目覚めながらも、森家の期待、軍医としての立場に絡め取られ、価値観の変わった明治の世を迷いながら生きる森鴎外。弱さ、葛藤、後悔、煩悶。だからこそ、森鴎外は書いた。『舞姫』の中で、自分をダメな男として悔いて手記を書いているのは豊太郎自身だ。 - 2026年7月14日
星の時クラリッセ・リスペクトル,福嶋伸洋読み終わった不思議な小説で不思議な面白さ。自分について何も知らなかった女の子、自分がなくなっても誰も困らないネジだと気づいていない。嘘をついて休暇をとり、初めて「孤独という、最も貴重なものを手に入れることができた」。私だけの部屋、でも、その女の子は「書く女」にはならない。他者の言葉を打つタイピストではあっても。空っぽ。悲しむことさえ贅沢品。死の間際になって「わたしはいる」と思い、「女になること」を理解する。解説にあるように、ジェラールの「物語内容」と「物語行為/語り」が実践され、語りの暴力性を体験できる。語り手は男だ。 - 2026年7月11日
国宝 下 花道篇吉田修一読み終わった上下巻読了。映画とは微妙に異なるストーリー。映画では序盤で消える徳次が重要人物に。万菊の立場も異なる。継母のマツともヤクザの辻村とも、関係性が続く。春江の物語も骨太だ。綾乃も。「誰かの犠牲のうえに築かれた人生に、いったいどんな価値があるのか」。でも、だからこそ、喜久雄の芸は孤高で神々しい、見るものを狂わせるまでに。 - 2026年7月9日
明治を生きた男装の女医 高橋瑞物語田中ひかる読み終わった学び!高橋瑞の物語。荻野吟子や生澤久野、本多銓子、吉岡彌生についても。どこまでが史実か。彼女たちが女医になるまで、なってからも受けた差別や軽視は、現代の女性たちも今、どこかで日常的に受けている。高橋瑞の遺体は、遺言の通りに吉岡彌生の設立した東京女子医学専門学校で解剖され、骨格標本が残された。平成になって、その骨格標本から、高橋瑞には妊娠の経験があることがわかった。産婆から医者になり、産科医療に生きた高橋瑞は、その経験については何も語らなかった。「わかれをば おしまん人もなき身なり 心もかろく いざいでたたむ」。 - 2026年6月30日
明治のナイチンゲール 大関和物語田中ひかる読み終わった朝ドラ「風、薫る」の原案。りんのモデルとなった大関和の物語。看護婦という職業の礎。特に直美は、モデルの鈴木雅からかなり脚色されている。キリスト教の信仰と結びつく歩み。待遇改善など初期から提起されていたのもわかる。この隣には女医の先駆者もいたわけで、その関わりを知りたい。日本基督教婦人矯風会の再評価も必要ではないか。 - 2026年6月20日
もうひとつの「若草物語」小松原宏子読み終わった『若草物語』の初邦訳を手がけた「北田秋圃」とは誰なのか、をめぐる好奇心。初邦訳の際のタイトルは『小婦人』。キリスト教、英語、家庭小説、恋愛をめぐる場面などは省略されていたり。もうちょっと踏み込めないか、ともどかしい気もしつつ、若松賤子からの系譜を感じる。 - 2026年6月11日
虎と月 (角川文庫)柳広司読み終わった中島敦『山月記』を、「虎になった」李徴の息子の視点から描く冒険譚。「虎になった」父親の真相は、『山月記』とも『人虎伝』ともちがう、正義感からの……。うかがえる主題もまったく別物。賛否あるかも? - 2026年6月6日
- 2026年6月2日
トリカゴ (創元推理文庫)辻堂ゆめ読み終わった無力さを思う。コロナ禍が舞台である理由もある。制度のひずみに落ちてしまう弱者。「どうして今まで、誰も教えてくれなかったんだよ! 住民票だとか、生活保護だとか。俺、いくつも役所を回ったんだぞ。助けてくれって言ったんだぞ。それでダメだったから」。制度の改正が窓口の公務員にも周知されず、救済されなかった。無戸籍でも本当は、学校に行けたのに。住民票が得られたのに。ハナでも桃花でもなく美咲だった彼女。これから花を咲かせるのだ、「外の人」の力を借りて、取り戻していく。あのコミニュティはそれでも、ユートピアだった。巣鴨子供置き去り事件を思い出す(あ、鴨、トリだ)。 - 2026年5月23日
- 2026年5月18日
黒牢城米澤穂信読み終わった映画鑑賞の前にと思って。有岡城という巨大な密室におけるミステリーといえば、確かにそう。しかし、人は何を信じるのか、人は何を支えに生きるのか、救いとは、という根源的な問いを深層に抱えた物語。会話劇。村重が聞くべきは、官兵衛の声ではなく、千代保の言葉だったのかも。もっと早くに。 - 2026年5月5日
罪の轍奥田英朗読み終わった実在の誘拐事件をモチーフにした、戦後まだ間もない昭和の時代の警察小説。重厚感。やるせない。愛されたことのない寛治、逃走しながらも刑事に電話をかける。約束を守ろうとする、その矛盾した悲しさ……。「莫迦」と罵られてきた寛治の話を、刑事たちは、検察は、聞いてくれたのだ。全体主義から解放され、それに 反発した時代の空気。東京五輪の準備が進んでいた。 - 2026年4月30日
- 2026年4月18日
ある少女にまつわる殺人の告白佐藤青南読み終わった児童虐待をめぐるミステリー。それぞれの立場からの告白から、「事実」がどんどん変わっていく。巧みな構成力。暴力が人々の運命を変え、人々がそれぞれに「罪」を犯してしまう。いや、ある少女=亜紀ちゃんにはあやしい魅力やしたたかさもあり、人の運命を狂わせもする。読者とともに亜紀ちゃんにまつわる殺人の話を聞いた、その人は、これからどうするのだろうか。無力さも本当だ。二筋の思いに引き裂かれる読後感。
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