
ぶんか遺産
@bunkasremains
読書大好きですが、ジャンルはひどく偏っています。
大好き......推理小説(狭義のミステリ)
好き......ミステリ(広義)、国内SF、怪奇幻想
気になる......現代思想、精神分析、ホラー
- 2026年8月6日
消失グラデーション長沢樹読み終わった序盤は青臭くて少し痛々しい青春ミステリと言った読み味だったが、後半に至るにつれ"グラデーション"の意味が生きてくる。我々はよく物事を切り分けて認識しており、それをしないと話が進まないので仕方なくはあるのだが、物事はデジタルではなくアナログで、私たちはグラデーションの中にあるし、私たち自身もグラデーションなのだ。 その主題は置いておくとして、ミステリとして読むといささか無理が目立つ。トリックがかなり馬鹿馬鹿しかったり、アレを乱立させてとんでもない構図になっていたり、大事な前提条件が知らない間に崩されていたり......まあ、総合的に見れば、デビュー作らしく大胆で突っ走った感じは、概ね好印象に収まるんじゃないだろうか。 - 2026年8月6日
幕が上がれば誰かが誰かに殺されるベンジャミン・スティーヴンソン,富永和子読み終わったシリーズ第2.5弾ということで、かなり軽量級のミステリ。大技型ならともかく、伏線回収型だとどうしても味気なさが残る。とはいえ、それなりに楽しめる出来ではあったし、何より続編が銀行強盗者ということで、邦訳が続くことを祈るばかり。この間の生放送で、編集者の方が「売れ行き次第......」と......。 しかし、この作者は主人公のノリに対して、事件の背後に隠された事情がそれなりに重い。このギャップは意図されたものなのか、そうだとすればどう受け止めれば良いのか......。 - 2026年8月4日
楽園夕木春央読み終わった読了。 方舟に連なる「旧約聖書三部作」の完結編。刊行ペースから察するに、大変な難産だっただろうなあ。 内容はというと、「人を殺さないと出られない」クローズドサークルで、誰によるものかわからない殺人事件が......というもので、趣向自体はなんとなく察しが付くし、ロジックやトリックも小粒。しかし、ゾッとするホワイダニットは秀逸だし、何より三部作のラストとしてうまく着地していた。 それはそうと、主人公の周囲の人間たちの行動原理がいまいち謎。確かに論理的に考えればそうなるかもしれないが、そんな感じになるならもっと別のやり方もあったのでは......? なんかシュールだった。 - 2026年8月3日
- 2026年8月2日
斜陽館殺人事件P・J・フィッツシモンズ,中山宥読み終わった読了。 ウッドハウス+本格ミステリということだけれど、ウッドハウスは読んだことも興味もなかったので、普通にミステリとして読んだ。ネタの使い方は悪くないが、いかんせんワンアイデアをなんとか形にしている感じはある。シリーズの続刊は色々とシチュエーションに捻りがあるっぽいので、今後に期待という感じかな。 - 2026年7月31日
僕たちの青春と君だけが見た謎雨井湖音読み終わった読了。 ミステリとしては前作よりシンプルになったけれど、特別支援学級に通う生徒について、また新しい視点から描いていて面白かった。前作は「僕たちは何を考えるか」がテーマだったけれど、今作は「僕たちはどう見られるか」にスポットを当てており、さらに一歩踏み込んだ内容。第三弾も予定しているようだし、今後も楽しみなシリーズだ。 - 2026年7月29日
フライプレイ!霞流一読み終わった読了。いい意味でも悪い意味でも大変馬鹿馬鹿しいミステリだった。好き嫌いはだいぶ分かれる気がする......。 本格ミステリとしては、なかなか大変なことをやっていると思う。前半はかなりダレているものの、中盤以降の目まぐるしい展開はエンターテイメントを感じた。やりすぎなB級味も相まって、なかなかのドライブ感だと思う。 ただ、それと同時に疵も目立った。トリックこそ割と気に入ったものの、ロジックはあまり魅力的ではないものが多いし、現場の状況はかなり分かりにくい。そもそもこんなことをやる必要性についても、説明がなされてもなお説得力に欠ける。 過剰なほどの稚気は個人的に割と好きなのだけれど、総合的にみて欠点の方が目立つ作品だった。長いしね......。ただ、価値のない作品というわけではない。この作品そのものも一定の水準には達しているし、何より、事件現場の操りを徹底した『パズラクション』、多重解決を引き継いだ『スカーフェイク』という名作を生み出したのだから、重要な作品だろう。そういう視点では、意味のある読書だった。 - 2026年7月27日
ロートレック荘事件筒井康隆読み終わった読了。ネタは正直言って初めからなんとなくわかっていたから、驚きは正直......(この時代に大きなことをやるとなるとどうしても〇〇ネタに行かざるを得ない)。テクニカルさを楽しむ1冊だった。もっと早めに読んでおけばちゃんと楽しめただろうに、と後悔するばかり。 - 2026年7月27日
現代思想入門千葉雅也読み終わった読了。第5章までは結構楽しく読めたのだけれど、第6章からは自分の頭が足りなかったのか、あまり良く理解できず......。なんとなく掴めたような気はするんだけれどね......。学問って難しい。 やはり自分は、観念的なものであれ、なんらかの対象が明確に定義される学問があっていると感じた。 - 2026年7月25日
ウサギ料理は殺しの味ピエール・シニアック,藤田宜永読み終わったフレンチミステリ史に名を残す(と日本ではされている)傑作との評判だったが、確かにこれは。発想の方向としてはくだらないのだけれど、こうも徹底的にやられると楽しいし、ブラックユーモア的な捉え方をすると、考えさせる部分もある。 にしても、どんだけ下品なんだ......笑。これはもう国民性なのか? - 2026年7月23日
造反有理 文革楼の殺人千街晶之,喜国雅彦,稲羽白菟読み終わった読了。 文革時代の円楼で起こる連続見立て殺人もの。歴史ミステリらしくホワイダニットが見所だけれど、その時代ならではのワンアイデアというよりも、プロットと密接に絡んでいるからか、説得力があった。今この時代への投げかけもいくつか見られて、考えさせられる。 600ページと流石に長くはあるが読み心地は良く、苦しい読書ではなかった。 - 2026年7月19日
精神分析と脳科学が出会ったら?加藤隆弘読み終わった読了。精神分析と神経生理の二足の草鞋に取り組んでいる著者による。やさしくわかりやすい言葉で書かれているため、どちらの初心者でも楽しめる。 脳内の免疫機能を担うミクログリアが情動にも寄与しているという大胆な仮説が楽しく(著者は何度も"妄信"だと念押ししているけれど)、またそれが精神分析と結びつくのも興味深い。 終盤のエヴィデンスの話もなかなか面白かった。 - 2026年7月19日
- 2026年7月18日
少女は殺人の夢を見る阿津川辰海読み終わった読了。 大学サークルの読書会最中に見る夢は、課題本に準えられた謎解きだった......という趣向で、国内外の有名作をモチーフに、別解にチャレンジしたり、構造を抜き出して再利用したりと、なかなか面白い。実作付き評論と少しだけ似た印象を受けた。 ネタバレには極力配慮されているため、オマージュ元を知らなくても問題ない。ただし、綾辻行人『十角館の殺人』だけは流石に読んでおいた方がいいだろう。その方が、原作もこの本も楽しめるはず。 前半は阿津川にありがちな「テクニカルなんだけど強引で面白くない」という感じだったのだけれど、後半にかけてやってることが面白くなってくる。「女死刑囚パズル」は性別を変更して別解に挑戦した意欲作だし、「三階の窓」はシチュエーションを巧みに利用した"フェアなリレー小説"。そして「九角館」は十角館のとある構造を抜き出し、それをうまく活かしていた。 全体的に、元作品や夢と言う舞台を巧みに利用した作品が多かった印象。稚気に溢れるいい本格ミステリだった。 - 2026年7月17日
性的であるとはどのようなことか難波優輝読み終わった新書。性的という曖昧な概念を丁寧にわかりやすく切り分けていて、とても面白かった。 前提知識不要で、わかりやすく論理を展開してくれているし、性を賛美するような内容ではなくむしろ「性はなぜ悪になりうるのか」という話が主なので、タイトルの割に幅広くおすすめできる。 第一部は性的なデザインの広告がなぜ悪いのかについて取り上げており、納得いく議論ではあるけれど、対象に比して論理が些か理想的すぎる感じがあった。 第二部は「えっちさ」そのものについて論じ、その性質から我々が「えっち」なものにどう向き合うべきか、一つの在り方を提示していた。ここに至って第一部の違和感は氷解し、納得感のある結論に至った。 - 2026年7月17日
歌人探偵定家羽生飛鳥読み終わった読了。藤原定家を探偵役とする連作短編集で、全ての事件で和歌が絡むのが見所だろうか。ただ、てっきり『虚池空白の自由律な事件簿』みたいな感じかと思ったら、和歌は思ったよりも添え物という感じ。 それぞれの事件は出来の上下が激しかったけれど、連作ならではの仕掛けは上手く決まっているように思える。 また、文体の割にはノリがかなり軽く、定家のエキセントリックさが面白かった。肩の力を抜いて楽しめる、まずまずの良作だと思う。 - 2026年7月15日
対象関係論を学ぶ松木邦裕読み終わった精神分析の書籍を読むのは初めてだけれど、とても読みやすく書かれていることはわかる。ただし、フロイトの精神分析理論にある程度慣れ親しんでいることを前提としている節がある(そうでなかったとしても置いてきぼりを食らうわけではないけれど)ので、せめて何か一冊でも読んでおけばよかったのかも、と思ったりした。 序盤の赤ん坊の内的世界の話はああそうという印象だったが、それが大人の精神病への理解に用いられるようになる辺りで一気に興味を惹かれた。自分に耳の痛い話だと思ったり、(よくないけれど)あああの人って......と何かを察したり、そういう気づきもある。 ただ、第2部からは少し難しく、特にエディプス・コンプレックスの章は正直いくら考えてもいまいちピンと来なかった。 赤ん坊を純粋な存在でないとするあたり、クラインには性悪説ではないが似たような印象を受けるが、最終的な治療への示唆は温かみに満ちていた。 - 2026年7月14日
見晴らしのいい密室小林泰三読み終わった小林泰三の短編集。ユーモラスでロジカルでホラー。全体的によくできていたと思う。 一番面白かったのは、不確定性原理にかぶれた男子学生が宇宙人とバトる「忘却の侵略」。変なことを言っているのだが、それを完璧に実践しているのが楽しかった。 「未公開実験」はほぼほぼシュールギャグなのだが、雰囲気に反してロジックはガチガチで割と難解。終盤はかなりギリギリだった。あと、この感じであのラストは怖すぎるだろう。 「あらかじめ決定されている明日」は『小林泰三SF傑作選 時空争奪』で既読だったが、もう一度読んでも面白かった。奇抜な発想の切れ味が抜群。 その他言及しなかった作品も粒揃いだった。 - 2026年7月11日
- 2026年7月11日
玩具修理者小林泰三読み終わった小林泰三のデビュー短編集。というか短編一つと中編一つの抱き合わせ。カップリングCDみたい。日本ホラー大賞の短編賞受賞作とのことだけど、いやいやこれは小林泰三の筆致がホラーすぎるだけで、骨組みは完全にSFでしょう。特に「酔歩する男」。 表題作はアイデアこそシンプルだが、何より描写が悍ましい。グッチャグチャのビチャビチャなスプラッタで気味が悪く嬉しい。 「酔歩する男」は時間SFの傑作だが、語り口が完全にホラー。そのくせ大変理屈っぽく面白かった。最後の方は流石についていけなくなったけれど......。
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