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みくら
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@mikura727
  • 2025年5月6日
    熟柿 (角川書店単行本)
    28歳の主人公(市木かおり)は妊娠中に轢逃げ事件を起こし、獄中出産した息子と生き別れる。出所後、我が子見たさに幼稚園、小学校の入学式に無断侵入を繰返し接見禁止令を言い渡された母親は、この先どう生きていくのか。 本当にすごい。主人公の心情に合わせて変わっていく地の文調に、序盤は読む側も引っ張られて心が苦しい。罪は消えないし、一度も抱けぬままの息子は自分の知らない場所で成長していく。悲しみも後悔も変わらないけれど、時が経ち、場所もかかわる人も変化していくうちに、主人公自身の人生が緩やかに暖かく、より良いものに変わっていく。 これも一つの人間讃歌ではないか。 個人的には著者の作品のなかで一番好きになりました。
  • 2025年5月2日
    世界漫遊随筆抄
    昭和初期にアメリカ、フランス、イタリア、イギリス、ロシアと西洋諸国を回った文豪による紀行文集。終始落ち着いた筆致で描かれる旅行の風景は淡々としていて、だからこそ著者が何に興味を持ち、何を考えているのかが引き立つ。また、著者と同行者たる妻の自然な距離感にほっこりしてしまう。夜、ホテルの一室でゆっくりソファに体を埋めながら、その日の観光の感想を言い合う姿が思い浮かびます。
  • 2025年5月1日
    代替伴侶
    代替伴侶
    移民の流入によって人口爆発を起こし、一人っ子政策がとられた近未来の日本。子を成すことは夫婦の至上命題となり、伴侶の不妊症・無精子症を理由として離婚や不倫が横行するように。 そんななかで生まれたシステムが「代替伴侶」。それは離婚による精神負荷があまりにも強い場合、パートナーそっくりかつ記憶まで同期させたアンドロイドを10年間貸与するものだった。 結婚とはそもそも、大好きな人と一緒にいるための制度だったはずなのに。 子作りや義家族との交流、仕事や社会生活によって、夫婦の在り方が段々と不鮮明になっていくなか、「あなたの悲しみを満たすため」だけに起動したアンドロイド同士の愛が余計に輝きを増していく。 このかたの作品は常にロマンチックというか、"異性愛"を信じているのだなぁ。かならず"異性"であることや、女性の偶像的な描かれ方にやや違和感はありますが、それでもひたすらに恋愛小説を書き続けるこの著者の、ひとつの集大成といっていいのではないかと思いました。
  • 2025年4月25日
    名探偵の有害性
    法権力の埒外で事件を解決&犯人を断罪する『名探偵』が社会現象と化したifの世界線の物語。それだけでも設定としては面白いのに、この小説の舞台は1970年代の「名探偵ブーム」が遠く過ぎ去った令和!当時爆発的な人気を得た「探偵と助手」の二人は50代の、それぞれ家庭を持つ中年だが、令和の目線から「名探偵の有害性」を告発するというYouTuberに取り上げられたことをきっかけに、自分たちの過去と向き合うことに。 「名探偵」というキャッチーなフックを用いながらもこの作品のテーマは、価値観をアップデートできるか、過去の行いについて「自分は間違っていた」と客観的に受け入れることができるか。ということなんだろうなあと思う。 安易な「あの頃は良かった」ではなく、「でも、あれはやっぱりダメだった」「時代が悪かったけど自分も悪かった」と冷静に過去を分析して今の自分に繋げていけるか。 そういう意味で、かつて"時代の雰囲気"によって「おとなしくて従順な探偵助手」という役割に縛られていた主人公が、過去のパートナー(探偵)とも元夫とも離別して新たな道を進むラストは爽快感があってとても良かったです。
  • 2025年4月15日
    椿ノ恋文
    椿ノ恋文
    鎌倉で代筆屋を営む鳩子と、彼女を取り巻く人々の生活を描くシリーズ三作目。三児の母となった鳩子の賑やかな日常のなか、突如現れた一人の青年と、先代=祖母の秘めた恋の謎がひとつまみのスパイスに。読んでいてぽかぽか心が元気になる大好きなシリーズです。これからも楽しみ。
  • 2025年4月10日
    第四間氷期
    第四間氷期
    AI、音声ディープフェイク、地球温暖化(氷河期化)、新人類…ほんとにこれを50年以上前に?!と度肝を抜かれるほどに今でもリアルなSF長編。 安部公房らしい(なんて言えるほど読んでないけど…)薄暗さと女性描写に現代読者としてはちょっと目が滑るところもあるけれど、この先見性、本当にすごいなぁ…
  • 2025年4月10日
    アリアドネの声
    地震に見舞われた地下都市から「見えない・聞こえない・話せない」令和のヘレン・ケラーを救い出せ──。 ワンシチュエーションで魅せる超絶エンタメ!面白かった〜!!!!!火事、浸水、余震に崩落にタイムリミットと、なんでもありの危機的環境に主人公たち救助チームと共にハラハラしながら一気に読めました。それでいて、ただハラハラするだけでなく主人公の過去の清算、要救助者の不屈の精神とドラマ性もたっぷりで、いますぐにでも映像化しそう……! こういうミステリもアリなんですね。著者の作品を他にも読んでみたくなりました。
  • 2025年4月7日
    グッナイ・ナタリー・クローバー
    読み終わってからネットで著者のインタビューを読んで、『少女革命ウテナ』の名前が挙げられていることに納得した。たしかにそう。この物語は、世界を、互いを革命する少女たちの物語。たとえ二人離れ離れになっても、彼女たちは進み続ける。この鬱屈とした村を出て、己の人生を進み続けるのだろう。切なくも輝かしい人間讃歌。そしてこの著者のこれからの作品もどんどん読んでみたいなと思えるデビュー作!次回作が楽しみです!!
  • 2025年4月7日
    能登早春紀行
    能登早春紀行
    日本植民地時代の朝鮮に生まれた著者は、いつでも国境、辺境、国家と国家の間ですり潰されてしまう一市民たちに寄り添い、やわらかな筆致で自分の見たままの風景を書き残す。 80年代の石川・能登と北海道・渡島(函館)、二つの半島を己の足で歩き、見聞きしたことを綴る紀行文二つの合本復刊。 特に「津軽海峡を越えて」でアイヌやキリシタンに対して行われた弾圧についての文書が印象に残りました。 森崎和江といえば、「まっくら」や「からゆきさん」とルポルタージュの仕事がまず浮かぶけれど、活動の後半ではルポと言うより紀行文の方が多い。けれどもそれらは今ほとんど絶版扱いになっていて一般書店で手に入れることは難しいのが現状。このほかにもいろいろ手軽に読めるようになればいいなぁと思います。
  • 2025年4月6日
    ライオンのおやつ
    30代半ばで余命宣告を受けた主人公・雫が最期の地に選んだのは、瀬戸内海の小さな島に建つ一軒のホスピス。そこに集うさまざまな人々の死と、彼らを見送る島民たちを描く。 死をただ安らぎと受け入れることなんて到底できなくて、宣告を受けたあと死の恐怖と理不尽に怯え、家の中のぬいぐるみたちに八つ当たりする夜のシーンがとても胸に迫る。 そんな雫のような患者を看取り続けてきたホスピスのオーナー・マドンナの、「死は最上のオーガズムかもしれません」という囁きもいいですね。 死の匂いがどんどん強くなっていく雫に最後まで寄り添い続ける犬の六花、淡い想いを通じ合わせたタヒチくん、そして最後に会うことができた妹・梢。死を避けることはできないけれど、終わり方は自分の意思で変えられる。最後まで変わろうと足掻くことはできる。 わかりきっていたのにラストはやっぱり悲しくて、でも優しくて希望に満ちた人間讃歌に思えました。
  • 2025年4月6日
    あつあつを召し上がれ
    祖母の介護、プロポーズ、別れ話。それぞれの主人公たちの人生の節目には、美味しい料理が寄り添っている。六篇からなる短篇集。 どの作品も切なさと、それでも生きようとする希望のひかりが満ちていて美しいし、なにより料理の描写が美味しそう。特に、奥能登の旅館で離別前の最後の晩餐として松茸フルコースを一緒に食べるカップルの話「さよなら松茸」が心に残りました。
  • 2025年4月5日
    とわの庭
    とわの庭
    盲目の少女・とわが辿る壮絶な半生。はたからみれば虐待、残酷、あまりにも酷い幼少期。それでも彼女にとって母は太陽で、その人生の根幹に根ざす愛を教えてくれた存在だった。 一行一行読み進めるのが辛い。なのに、とわは前を向く。己の人生を、新しい仲間たちと一緒に歩んでいく。どんな人生だって、続けていくことに意味があるのだと、背中を押してくれるような小説。 わたしの人生に少しずつ、宝石のような時間が増えていく。今、私を取り囲んでいるのは、圧倒的なまぶしさの美しい光だ。手を伸ばせば、そこに光を感じる。助けて、と声をあげれば、手を差し伸べてくれる人が確かに存在する。わたしは、守られている。いつだって、光そのものに抱きしめられている。
  • 2025年4月4日
    海軍めしたき物語 (新潮文庫 た 22-1)
    太平洋戦争開戦直前、海軍に徴兵された著者が配属されたのは、炊事を担う烹炊科。日中戦争を戦った旧兵たちの激しいシゴキに耐えながら戦艦〈霧島〉の艦底で来る日も来る日も味噌汁をかき混ぜる日々の中、ついに真珠湾攻撃が始まる……。 戦争の悲惨さを綴る兵士たちの手記は数あれど、全く戦場に出ない非戦闘員の目線で語られる作品は珍しいのでは。 軽妙なタッチながら描かれる従軍の日々はとても過酷。また著者自身を含めて登場する兵士たちはみんないい意味で小心者。勇ましさなどかけらもない、ただ静かに一日一日を生きたいだけの等身大の男たちであることが大変にリアルで、そんな彼らが怖くても辛くても叫んでも故郷に帰してもらえず「お国のため」と軍に駆り出されている苦しみが胸に迫ります。これが戦争というものなんだと。 今読めてよかったなぁと思う一冊。
  • 2025年4月3日
    ジャッカ・ドフニ 大切なものを収める家
    ジャッカ・ドフニ 大切なものを収める家
    かつて網走にあった、樺太・ウィルタ文化の資料館ジャッカ・ドフニ。その足跡と一部資料を紹介する 日本橋高島屋「ジャッカ・ドフニ展」(2024)の抄録。と思ってたらそれ以上の内容だった。展示自体についてだけじゃなくて、この展覧会が開催されるまでの道筋や関わった人々の想い、樺太アイヌと帝国日本の歴史をめぐる最新研究と情報量が半端ない。帝国主義とは、植民地化とは、そこに生きた人たちの行く末とは。歴史の大きなうねりのなかであまりにも残酷に翻弄された樺太の人々の悲しみと、今も終わらない闘いを知る一冊。
  • 2025年4月3日
    鳥と港
    鳥と港
    インフルでもコロナでもないのに突然の高熱が出て、年度を跨いで三日間寝込んで、土日含めてたっぷり五日間も会社に行ってない。 こんなに休んだのは正月ぶりで、誰に責められることもないけど罪悪感と焦燥感が心の底に渦巻いていて、そんな今だからこそこの本が刺さったのかもしれない。 社会的動物だからこそ逃れることのできない「働く」という行動。それは喜びであり苦しみで、義務であり権利で。やりたいことを仕事にしたからハッピーエンドなわけじゃないし、仕事を誰しもが生き甲斐にしなければいけないわけじゃない。 仕事と己の人生のバランスというか、付き合い方をどこかで一度立ち止まって考えてみようと思わせてくれる素敵な小説でした。
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