
いち。
@tokisakananao307
読書好き。
読むスピードが遅い、もっと速く。
アウトプットが下手、もっと上手く。
何事も積み重ねあるのみ。
- 2026年8月19日
大阪電車春秋山本巧次読み終わった「いろんな人のいろんな人生を乗せて、今日も電車は行き交う。南へ北へ、東へ西へ。」 大阪を走る6つの沿線。ひた走る列車と停車する駅、知らないところで様々なドラマが生まれている。家族、友達、他人、さまざまな題材を元に描かれる人情短編集ーー。 帰省中、大阪の紀伊國屋にて、それなりに大きくコーナーが用意されていたので購入。大阪の雰囲気を強く感じられる一冊。駅名がとにかくたくさん出てくるので、さすが電車を題材にしているだけあると感じられると共に、大阪弁で構成されているのが特徴的。地元民としては非常に読みやすい印象を受けたが、慣れていないと違った感覚を味わえそうだ。 勝手にサブタイトルをつけてみた 阪神電車:虎に乾杯 京阪電車:鉄オタと心残り 近鉄電車:推しの真実 南海電車:老人の旅路 阪急電車:彼女の秘密 大阪メトロ:交差する想い - 2026年8月11日
ノルウェイの森(下)村上春樹読み終わった「死は生の対極にあるのではなく、我々の生のうちに潜んでいるのだ」 大学を休学し京都へ移り住む直子と、大学で頻繁に絡むようになった緑、ワタナベにとって両方が大切なものになりかけていた。成長しているはずの身体と心で正しさを探しながら、自分の意思に葛藤しながらも時間は進んでいく。ワタナベが最後に選び取ったものとはーー。 死というものが人を結びつけるきっかけを生むこともある。キズキが死んでワタナベと直子が愛し合ったように、天に召されるからといって、その人のすべてが失われるわけではない。誰かの中に強く存在し続ける。そんな存在になることができたら、必死に生きた証明になるのではないかと思う。この世に残ることは出来なくても、残せるものはきっとある。 人間は自分の本能を無意識のうちに、他人と比べて奥底へ封じ込めてしまう。普通という概念が不明瞭だから怖くなる。誰も正解なんて持ち合わせていないのに、答えが欲しくなる。 アウトプットに時間がかかったので読んだ日付はだいぶ前。純粋に。歳をとってからまた読みたい。村上春樹作品は追っていこうと思います。 - 2026年8月10日
読み終わった「私を助けたら、許さない」 門城譲理は生徒会に所属しており、内申点を稼いで良い大学へ行こうと計算高く生きていた。そんなある日、蛇目花蓮という問題児を更生させてほしいと依頼を受けるが、彼女は譲理がかつて初恋をした女の子にそっくりだった。彼女と過ごす中で淡い感情が蘇ってきた譲理は花蓮にこの感情を打ち明けようと決意するがーー。 前作の明るい雰囲気とは打って変わって、ヒロインもお話も落ち着いた雰囲気でお送りする本作は、1作目よりも善悪の表現が明確にあって、より没入しやすいつくりに感じられた。ダウナー系女子が紆余曲折あって、心を開く兆しが見えた時、あの瞬間は何にも代え難い喜びをもたらしてくれる。 - 2026年8月9日
- 2026年8月8日
ノルウェイの森(上)村上春樹読み終わった「僕ひとりだけがその風景に馴染んでいないように思えたからだ。」 大学生の頃、十八歳という若さで東京に上京したワタナベ。世間知らずなまま成長した彼は、生きる意味をかすかに考えながら雑多な日々を送り続けていた。親友キズキとその彼女の直子、3人で遊ぶことが多かったが、ある日、キズキは自殺してしまい、直子と2人残される形となった。生きていく中で、何を失って、何を得たのか。三十七歳になったワタナベはそんな日々を思い出していたーー。 生々しい、まるで誰かのモチーフのような、そんな人生を歩んでいる登場人物が多く、生きるというテーマを強く感じる。未成年から青年に近づくワタナベと共に歩む人生に、味や趣きを感じられる。緑がとても良いヒロインであることは間違いない。 - 2026年7月31日
悪魔情報 ある失踪したネットアイドル捜索スレ城戸,オモコロ編集部読み終わった〇悪魔情報 ある失踪したネットアイドル捜索スレ 517:ショック:2024/12/22(日) そのままの意味だよ 地面からプロペラが生えて、立川ごとヘリコプターになって飛んでっちゃう 奇妙な出来事に巻き込まれる匿名ユーザーたちと「悪魔情報」と名乗る著名ユーザーが、空回りしながらも想像できない怪異へ立ち向かった記録を集めたフェイクドキュメンタリー。 頭で考えることがバカらしくなるほどに、展開を読もうとしても常に上をいかれる。このネットの海には狂気じみた人物表現と様々な怪異があって、よく考えてみると全然洒落になってないのについ笑ってしまう。笑みが溢れる。悪魔情報の扱いは相変わらずひどいものだが、彼(もしくは彼女)という存在は無意識のうちに心強いリーダーシップを発揮している。n回目だがこんなのもありなんだ。この作品なら1作目を読んでなくても全然問題ないだろう。 - 2026年7月27日
パッキパキ北京綿矢りさ読み終わった「もし上手くできなくても、勝ちには変わりない。なぜなら最初から勝ってると、自分で決めてるからよ」 元銀座ホステスの菖蒲は夫の要望でコロナ禍の北京へ移住し、新しい生活を始める。愛犬のペイペイと共に生きる彼女は、人生はエンジョイしてなんぼだと言わんばかりに、自由に、大胆に日々を過ごしていくがーー。 ただ欲望のまま生きるとはこのことか。気持ちいいくらいに周囲の目を気にせず、美味そうな中華料理を貪るように味わい、自分の芯を曲げない菖蒲に生きる強さというものを教えられた気がする。楽しめ人生。立ち止まってなんていられるか。まさに痛快な話だった。 - 2026年7月21日
星を編む凪良ゆう読み終わった「逆だよ。弱いからふんばらないといけない」 「ああ、そうかもしれない。本当に強い人はもっとしたたかに、しなりながら新しい自分を作り直す。わたしは、しなったら折れてしまう気がする。だから必死で曲がらないようふんばるしかない。負けるな、負けるなと自分に言い聞かせて。」 金星のように、かすかに煌めくような物語の断片。北原の過去。二階堂、植木の苦難と葛藤。暁海の未来。『汝、星のごとく』では語られなかった3つの物語がここに集結。それぞれの生き様を目撃し、櫂がいた証をなぞることができる至極の一冊。 過去にどれだけ苦労していても、登場人物には現実が待っている。リアリティある儚さや静けさが、一貫性を持ちながら歩いてきて、ときに安堵するような温かさを与えてくる、このサイクルが読み手の感性を揺さぶってくる。人間は誰もが主人公だからこそ、良いことのほうが少ない。もがいた先でようやく何かを得られる苦労を疑似的に知ることで、困難も、幸せも、自分らしさでさえも、無意識のうちに形成されていくような気がした。 - 2026年7月16日
虎と月柳広司読み終わった「私の目に映る”ものたち”はおそらく、はじめからそこにあるのではないのです。かれらは私が名前をあたえることで、ことばにすることで、はじめて私の世界に立ち現れてくる。”ものたち”は、名前があたえられることで、はじめて無名性の世界から抜けだして、私の世界に存在するようになるのです。」 行方不明の父親が虎になったと聞いた。そんなわけないだろうと思いながら出会った不思議な詩から、父親が虎であると確証を得る。このままでは自分も虎になってしまうかもしれないと不安に思ったとき、少年はすでに旅に出た後だった。 『山月記』を息子の視点で描いた話。学校で習ったけど、断片しか覚えてないなぁというのが読んだきっかけ。あとがきで書かれている「原作が好きすぎて、擦り切れるほど読んだことで生まれた新しい形」というのはいい話。自分が好きな物事の影響は新しい風を吹かせる可能性を持っているんだと実感できる。 - 2026年7月13日
プレゼント伊坂幸太郎,宮部みゆき,恩田陸,梨木香歩,江國香織,町田そのこ,米澤穂信読み終わった新潮文庫の100冊フェア50周年記念として描かれた7つの物語がここに集結。多彩なジャンル×夏というテーマにより自分に合った物語や言葉に出会えると銘打った一冊。自分好みのジャンルってなんだろうという観点で初心者にもオススメされている。登場人物の想いや背景が丁寧で、余韻が残る作品が多いと感じられた 「ウッドペッカー荘事件」伊坂幸太郎 数々の事件に遭遇しながら距離感が近づいていくヨフネと尊。ところが事件を通して物語は意外な展開に進んでいく。ヨフネの声色を想像すると結構アツく込み上げるものがあった。 「二つの宇宙」江國香織 祖母のことが好きな主人公とその恋人との出来事が描かれる。祖母が個性的で、振り回される主人公に大変そうだなぁとしみじみ思う瞬間が多い。 「真実のトランク」宮部みゆき 真実のトランクを持つという男性。彼はそれを利用してとある真実をしらしめる。あの時、なぜ偉そうな男達から私を助けてくれたのか、それを知るのはもっと先の話。犯罪者に該当しなくとも悪と呼べる存在がいることを再認識し、日常の中にある疑問を考えるきっかけを得られる。 「きっとあの日の光と同じ」町田そのこ 幼馴染の男子のそれぞれの恋。本来はこうやって人を好きになるのが理想なのかなと、そう思わせるような出会いと障害による葛藤。読み手の視点でカップルを見ることの心地良さたるや。これコンビニ兄弟の番外編なの!?読んでない!読まなきゃじゃん! 「無明」米澤穂信 真夏の新宿駅。乳児の首に手をかける母親。守るべきものを守る力がないことでタガが外れたのかもしれない。けれどそんな風になってしまったのは何が原因か、奥底に眠る根源があるのではないか。これはもしかしたら夏の暑さという目に見えない脅威のせいではないのか。 「見越しの松」梨木香歩 遠くの景色を「見越す」位置へ意図的に植えられた松を、造園の世界では「見越しの松」と呼ぶらしく、景色を切り取るためのシンボル的存在であると同時に、この世と別の世の境界のような役割を担っている。樹齢◯年の木が急にいなくなったら、その土地にどんな影響があるのかなんて誰が想像できようか。 「伝説の季節」恩田陸 学校に漂う、どこか不穏な空気感に呑み込まれる感覚のホラー。不気味だ。夏のテーマってそういうことなのですか。 - 2026年7月7日
それでもまた誰かを好きになるこざわたまこ,カツセマサヒコ,一穂ミチ,光文社文庫編集部,千加野あい,朝比奈あすか,田中兆子,砂村かいり,麻布競馬場読み終わった「僕は思うんすけど、ミコトが変わったのは、変わりたいって本人が思ったからでしょ。今のままじゃ許せない自分がいたってことでしょ。なら俺は、その気持ちを尊重したい」 人生における分岐点、30代。うまくいかないことばかりでそれは恋愛も同じようなもの。20代の頃ほど勢いだけではうまくいかず、とびきり不幸というわけでもなくそれなりの生活をしている。これは、大人になりきったつもりがなりきれていない人間たちの心を描いた短編集。 周囲の環境や自身の経験は変えられないものであるがゆえに、人と違って、ズレがあるように思えて、不安の種に変わっていく。普通という境界線は曖昧なのに人並みの幸せとか、年齢に対する成長度合いとか、そういったものが自然に現れてきて焦りや葛藤を感じさせる。そんな中でも懸命に生きている登場人物たちに共感する部分が多くあった。 - 2026年7月4日
ヤエブキ機関 千万丈塔踏破録1necomi,安里アサト,尾崎伊万里読み終わった「人が殺されるのは怖いでしょ。人を殺すのは怖いでしょ。だってそれは悪だもの。どんなに理由をつけてもどんな正義を掲げても、人を殺したらそれは悪だもの」 滅びゆく世界を救う大儀式・千万丈塔踏破に挑む双子の術師・天茜と碧燈。彼らは邪教集団の霊術テロを防ぐため、帝都備役の少女・祭花と手を組むーー。これは滅びの宿命に抗う英雄たちの物語ーー。 固有名詞のオンパレード。参考文献は古今和歌集とか古事記とかそんなものばかりらしい。和風×サイバーパンクとかいう奇天烈なこの世界観をより深く理解するために、無理矢理情報を詰め込んだが、読み終わった時には少なくとも面白いと思えたので、出会えてよかったと思っている。わからないときはとにかく読み進めろって誰かが言ってた。 あとがきの後に読み手の意識が覆されるなんて1巻からハードモードすぎないですか。 出てくる要素欲張り構成。刀、霊術、銃、ダイオウイカ、ティラノサウルス、機械人間、人種階級など。とにかく多い。 巻末に設定資料集があって助かる、と言いたかったが、知らないキャラクターによる対話形式になっていて個人的には残念。説明だけでいいんです。辞書的なやつにしてほしかった。読みづらい。 力が入っているようで2巻刊行も決まっているので、そこでさらに解き明かされる真実に期待したい。 - 2026年6月23日
夜警ども聞こえるか皮肉屋文庫読み終わった「今に見ていろ。その聞き分けのない耳に、いつか聞かせてやる。」 フリマアプリで購入した一台のボイスレコーダー。そこには、夜間自主警備、通称「夜警」を行う学生たちによって語られたと思われる、数多の怪談音声データが残されていた。本書はそのデータとボイスレコーダーにまつわる記録ーー。 短編による場面転換がとても顕著にみられる。伏線であっても数が多すぎるのには苦しいものがあった。多分30個以上はあった。なので、これらを形作るものにいよいよたどり着いた時、あっけらかんとしてしまったことを許してもらいたい。短編ごとの怪異が響く感じは良い部分で、あえて読み手が考える余地を残していることは理解できる。 - 2026年6月17日
読み終わった「いつかまた生まれるその時まで」 フリーライターの小林、心霊スポット巡礼系動画クリエイターの池田、2人は池田の動画チャンネルのファンブックを刊行する企画を立てていた。過去の動画を洗い出して考察する中で、彼らの元に奇妙な出来事が起こるようになるがーー。 あぁ…また岩だ。いにしえの昔からその土地に居続けた存在ともいえるそれから呪いが溢れ出てきたのか、はたまた溢れさせたのか、誰かを陥れようとする気持ちにつけ込んで、この終わらない輪廻に誘おうとしている。でもそれは人が犯してきた業のようなものでもある。次はあなたの番、かもしれない。 輪廻転生というものがあるとしたら、何者かに殺された人間が新しい生を受けている可能性がある。もし前世の記憶まで保存していたなら、片隅にある憎悪は消えていないと考えられる。この場合、トリガーの安全装置はすでにはずれていて、手段さえあれば実行するに事足りる。 この物語から痛みは消えず残留することを教えられている気がする。痛覚残留。そこに居なくとも魂は生きているのかもしれない。読み進める中で疑問の連続を感じながらも面白かった、それは確か。 - 2026年6月11日
禍話nFEAR飯(かぁなっき、加藤よしき),梨読み終わった人気ラジオ禍話には、幻の第n回放送があるという噂があった。しかし、パーソナリティである2人はそんな回があった記憶はないという。果たしてこの放送は存在したのか、しなかったのかーー。 スラスラと読みやすい短編ホラー。幕間の対談パートがより現実感を生み出している。怪奇現象には目に見えないエネルギーでもあるのか、危険が伴うイメージがある。冒涜しているつもりがなくても、あちら側にとっては知ったことではない。体験談が知らない形に変容したり、思考した展開が現実になったりすることがあるのは、根源となる存在のいたずらか、別の影響か。この確証がないところに考える意義がある部分が一つの魅力といってもいいだろう。 - 2026年6月9日
美澄真白の正なる殺人東崎惟子読み終わった「私はとても驚いた。だって私は笑っていたのだ。」 警官である父親に影響され、正義の味方を志す美澄真白は、かつての親友、紫音と8年ぶりの再会を果たす。真白は紫音が闇を抱えて生きていることも知らずいたが、身体の傷や彼女の母親の姿を見て違和感を感じていく。正しさとは何かを自問自答し、大切なものを守るために、彼女はいま大きな決断を下そうとしているーー。 他人の異常行動や思考を目にした時、正面から崩すことは難しい。それゆえに手段が大胆かつ強引になってしまう。そんなつもりがなくても、そうするしかない状況に陥った時どうするか、美澄真白に宿る自分は二の次でいいと考える行動に、正義の味方という曖昧な目標に、善意だけが含まれているわけではないと理解する。トロッコ問題で、助けるときに1人か多人数かを選び取るように、何が正しいかわからないような問題があるのは当然なのかもしれない。選択肢とは何かを決めるためのもの、だから決断していく必要がある。 - 2026年6月4日
ラブカは静かに弓を持つ安壇美緒読み終わった「たとえ、経歴とかが嘘だったとしても、君は、ちゃんと、ここに来た。この世は何が起こるかわからない」 全日本音楽著作権連盟、通称を全著連。これに所属する橘はある調査のため、ミカサと呼ばれる楽器メーカーの音楽教室へ生徒として潜入し、スパイとして活動を開始する。彼は身分を偽りながら、目的のために講師である浅葉とその仲間と接触し続ける。その日々の中で確実に、彼の意識はかつて情熱を燃やした音楽へと傾き始めていたーー。 嘘がテーマの物語で、主人公の葛藤がストレートに表現されている作品。気がついたら取り返しのつかない状態になっていて、それをわかっていたのに止められない事情があって、でもそれは決して本意ではなくて、絶対悪は別のところに存在するのに自分が引き金を引いた事実は変えられない。現実に生きていて嘘をつかないというのは大小にかかわらず、不可能に近い。真実だけ伝えることが正解とはいえない。そんな不完全な状態から脱却しようとする主人公に、変わるきっかけが舞い込んだって、そんなうまい話があったっていい。 - 2026年5月31日
赤と青とエスキース青山美智子読み終わった「長い旅をしてきたね。君はわたしの知らない景色をたくさん見てきたことだろう。それをわたしは知る由もない。それが、いいんだ。とても。」 メルボルンに留学中のレイと画家を目指す日系人ブーは期間限定の恋人となる。額縁工房に勤める空知は何気ない毎日を過ごす中で、エスキースという絵画に出会う。1枚の絵画があらゆる風景や人々の想いを見てきた記憶がここに記されているーー。 物語を見届けたとき、すべてが繋がりを持っていることに気づくことで見える風景が広がっていく構造。あらゆる表現の赤と青の対比を巧みに使う技法には驚かされ、描かれるキャラクターの感情の揺れには共感と学びが多い。別視点を持ってきておいて実はバチバチに繋がっているお話だったんですよという構造、すごいの一言では表せないし、心地いい。 - 2026年5月27日
52ヘルツのクジラたち町田そのこ読み終わった「ひとには魂の番(つがい)がいるんだって。愛を注ぎ注がれるようなたったひとりのひと。あんたがその魂の番に出会うまで、わたしが守るよ」 52ヘルツのクジラとは、他の仲間に聞こえない高い周波数で鳴くため、音を届けられないという孤独の存在。家族に人生を壊され続けてきた女性、貴湖は同じような扱いを受けている少年、ムシと出会う。これは同じ孤独感によって惹きつけられた2人が成長し、愛を知るまでの軌跡ーー。 人生を生きる上で自分を邪魔する障害が現れたとしても、共に打ち砕いてくれるような人がきっとどこからか現れて、悪い流れを断ち切ってくれる。自分に嘘をつかなければ、何かがいい方向に働いて変わっていく。そんな様子がクジラの鳴き声という比喩表現となって、壮大な物語として感じられる。人の愚かさと優しさのせめぎ合いに苦しんだり温かくなったりする、社会派小説の擬似体験は確かにフィクションだけれども、どこかリアリティがある。これが癖になる理由の一つだと理解した。 - 2026年5月24日
一次元の挿し木松下龍之介読み終わった「僕が彼女の手を取り、抱き寄せたその瞬間から、迷宮に足を踏み入れていたのだ。」 ヒマラヤ山中で二百年前に見つかった人骨をDNA鑑定にかけると、四年前にいなくなった妹のデータと一致した。遺伝人類学を学ぶ悠はこの異様な結果を教授の石見崎に相談しようとした矢先、彼を遺体として発見する。さらにその直後、鑑定していた人骨が盗まれる。悠は妹の行方とともに謎を追いかけんと奮闘する。この先に待つ真実が壮絶なものであることを知らずにーー。 人を形作る細胞の説明を随所に散りばめるなど、専門知識紹介が多い中でも読みやすく感じる。その理由は登場人物の視点を細かく分け、丁寧に描くことで可能にしており、物語の描写がよりスッと入るような感覚がある。タイトル回収もわかりやすく綺麗なものだと思う。
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